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シネマ1987online

ブラックホーク・ダウン

「ブラックホーク・ダウン」パンフレット

1993年、アフリカ東部ソマリアでの米軍特殊部隊の奇襲作戦をリドリー・スコットが映画化した。長くても1時間で終了するはずだった作戦が、ソマリア民兵のRPG(ロケット・ランチャー)によって2機のヘリ(ブラックホーク)が撃墜されたことで、数千人のソマリア人が160人の米兵に攻撃を仕掛けてくる。米兵にとって絶望的な状況下でのサバイバルを描いているのだが、バカな作戦を実行した米軍上層部への批判があるわけでもなく、ソマリアへの介入に意味をもたらすわけでもない。「これは観客に問いかける作品であって、答えを提供する作品ではない」「この映画はあの時何が起こったかを描いた、アクチュアル・ポートレートなんだ」と、監督自身が戦いの真の意味や背景を伝えることを放棄したエクスキューズを述べている。そうした映画が説得力に欠けるのは当然だろう。「仲間のために戦う」というもっともらしい言葉がラストで兵士の口から語られるが、そもそもの作戦の初めに仲間を助けるも何もない。“「プライベート・ライアン」のノルマンジー上陸場面が1時間半続く”と評される、延々と続く戦場の場面の迫力には圧倒される。しかし、正義の見えない戦いなので、徒労感だけが残る。アカデミー賞で編集賞と音響賞という技術的側面でしか評価されなかったのはそんな部分があるからだろう。

ソマリアの首都モガディシオ。米軍は虐殺と略奪を繰り返すアイディード将軍を3週間で排除する予定だったが、6週間たっても将軍の居場所すらつかめない。あせった米軍は将軍の副官2人を拉致する作戦を立てる。デルタフォースと陸軍レンジャーの共同作戦。部隊は計画通り副官らを捕虜にするが、ソマリア民兵の攻撃は予想以上に強力だった。1機のヘリがRPGで撃墜。乗員を助けるため、部隊は墜落場所に向かうが、街の至る所にバリケードがあり、車両は思うように進めない。しかも、もう1機のヘリも撃墜される。部隊はちりぢりになり、1人また1人と米兵の犠牲者が増えていく。

いつものようにスコットの映像はシャープで的確だが、映像だけで評価できないところに、こういう作品の難しさがある。米兵の死者19人、ソマリア人の死者1000人。死んでいく米兵は詳しく描写されるのに、ソマリア人の方は簡単なもの。これは自分たちが生き残るための勝手な虐殺に過ぎない。墜落したヘリのパイロットに執拗に群がり、死体を引きずり回すソマリア人の描写に代表されるように、ソマリアは恐いところ、悪いところだというアメリカ側の見方からしか描かれないので、極めて一面的、局所的な作品になってしまっている。確かに敵対する氏族を虐殺したアイディード将軍の政治は国際的に許されるものではないが、この戦いでアメリカ側に正義があるわけでもない。そのあたりを少しも考慮しないのが、つまり、ジェリー・ブラッカイマー製作の映画なのだろう。

外務省の危険度情報によると、ソマリアは未だに「危険度5 退避勧告」が継続されている。さらにアメリカはアフガンに続いて、ソマリアでテロ組織殲滅を始めるとの観測もある。アメリカは戦争をやめられない事情のある国で、第2次大戦以降、世界の至る所で戦争を続けている。その事情にこの映画がどういう役割を果たすのかも気になる。

【データ】2001年 アメリカ 2時間25分 配給:東宝東和
監督:リドリー・スコット 製作:ジェリー・ブラッカイマー リドリー・スコット 原作:マーク・ボウデン 脚本:ケン・ノーラン 製作総指揮:サイモン・ウエスト マイク・ステンソン チャド・オーマン ブランコ・ラスティグ 撮影:スワボミール・イジャック 美術:アーサー・マックス 音楽:ハンス・ジマー 衣装デザイン:デヴィッド・マーフィー サミー・ハワース・シェルドン
出演:ジョシュ・ハートネット ユアン・マクレガー トム・サイズモア サム・シェパード エリック・バナ ウィリアム・フィクナー ユアン・ブレムナー ガブリエル・カシアス キム・コーツ ロン・エルダード アイオアン・グラファド トーマス・ギアリー チャーリー・ホフハイマー ダニー・ホッチ ジェーソン・アイザックス

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