It's Only a Movie, But …

シネマ1987online

ジェネラル・ルージュの凱旋

病院を舞台にした海堂尊原作の映画化第2弾。途中まではテレビで十分の題材かなと思って見ていた。阿部寛が出て来て救われる。その登場の仕方も笑える。阿部寛演じる厚生労働省のキャリア白鳥圭輔はほぼギャグのような存在で、竹内結子とのコンビが前作に続いておかしい。しかし、感心したのは阿部寛に対してではなく、テーマを真っ当に描いている点にある。技術的には何ら際だった所はない映画だが、それでもこの物語とテーマの真っ当さには胸が熱くなるのだ。少しもうまくはないけれども、面白くて感動できるという映画である。何の取り柄もなかった前作「チーム・バチスタの栄光」よりも作品としては明らかに上だ。

今回は東城大学付属病院の救命救急センターを舞台にしている。センター長の速水晃一(堺雅人)はジェネラル・ルージュのあだ名を持つ優秀な医師。その強引なやり方で病院内には敵が多い。その速水が医療メーカーのメディカルアーツと癒着しているという告発の手紙が倫理委員会委員長の田口公子(竹内結子)のもとに届く。院長(國村隼)から田口は調査を命じられるが、同じような手紙は白鳥にも届いていた。交通事故で足を骨折し、病院に運ばれた白鳥は田口とともに調査を始める。

前作について僕は「話はきちんとまとまっているが、それだけに終わっていて、何とも映画らしいところがない映画である。撮影なり、編集なり、キャラクターの描き込みに映画ならではの部分が欲しくなる。下手すると、テレビの2時間ドラマでもいいような感じの作品にしかなっていないのだ。中村義洋監督はもう少し描写に心を砕いた方がいい」と書いたが、今回もそれは同じ。テレビの演出と何ら変わるところはない。違うのは救急医療に携わる登場人物たちの思いをすくい上げていることだ。

ジェネラル・ルージュのあだ名は10年前、デパートの火災で多数のけが人が運ばれ、顔を返り血で真っ赤にしながら治療に当たった速水の姿から付けられたと、前半では説明される。その本当の理由が明らかにされるクライマックスはまたもや大事故で多数のけが人が運び込まれる。そこで懸命に治療に当たる医師や看護師の姿がとてもいい。医療は経済的な損得ではない。そういう本来の主張が表れていて僕は大いに共感した。

堺雅人の演技は不自然な笑顔があったりして決して百点満点ではなく、それは監督の演出の仕方にも問題があったのではないかと思うのだけれど、この映画を背負う力量は十分に感じさせた。中村監督、あとはどれだけ現実に近づくか、リアリティをどう持たせるかに配慮すれば、映画の厚みはもっと増していくだろう。

救急車のたらい回しで患者が亡くなる事例が相次いで報道されたけれども、世の中、そんな医師、病院ばかりじゃない。そういう一縷の希望を感じさせてくれる映画であり、それを信じる映画であって、作者の海堂尊の思いもそこにあるのだと思う。

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