It's Only a Movie, But …

シネマ1987online

サトラレ

「サトラレ」

サトラレとは乖離性意志伝播過剰障害。自分の思念波(意思)を周囲10メートルに発散してしまう能力者である。サトラレはその能力ではなく、IQ180以上の高い知能があることによって国から保護対象とされる。サトラレの住む自治体には国から莫大な補助金が交付される代わりに、サトラレ本人にサトラレであることを気づかせてはならないという条件が付く。自分の意識が周囲に筒抜けになっていると分かったら、サトラレは精神的に耐えられないからだ。このため国の特能保全委員会によって24時間体制の厳重な警護が行われている。原作はコミックらしいが、僕は知らない。「踊る大捜査線 The Movie」の本広克行はこうした突飛な設定のもとで進む話を無理なくまとめており、昨年の「スペーストラベラーズ」の汚名をすすいだ。主人公と祖母との絆の深さをクライマックスに持ってきたことで、SFというよりも普通のドラマとして見応えのあるものになった。そのクライマックスの描写がくどいというのが欠点だけれど、全体として大変気持ちの良い映画である。

症例7号と呼ばれる7人目のサトラレ里見健一(「バトル・ロワイアル」の殺人鬼・安藤政信)が主人公。健一は幼いころ飛行機事故に遭い、両親をはじめ他の乗客全員が死亡する中で、ただ一人生き残る。事故現場で無意識に思念を放射して助けを呼んだことから、サトラレであることが分かり、保護されることになる。岐阜県の奥美濃町で祖母(八千草薫)に育てられた健一は外科医になるが、インフォームド・コンセントが一般的になったとはいっても患者にすべてを話すわけにはいかないとの理由で、なかなか手術をさせてもらえない。周囲からも陰では煙たがられている。その健一のもとへ特能保全委員会から精神科医小松洋子(鈴木京香)が派遣されたことから物語は始まる。国は健一の知能を臨床医ではなく、薬の開発者に向かわせたい思惑があり、洋子の派遣はそれを後押しするためだった。

健一は同じ病院の後輩川上めぐみ(内山理名)に思いを寄せているが、めぐみは秘密が持てないサトラレとの交際を嫌がっている。健一にめぐみへの思いをあきらめさせるために洋子は隣町の祭りに連れて行き、一計を案じる。ところが、町を出たことがなかった健一の保護のために祭り自体を委員会が乗っ取り、過剰な警備が行われることになる。めぐみに恋人がいると思わせられた健一はあきらめるが、心配して自宅を訪れた洋子に「なんていい人なんだ」と恋心を抱くようになってしまう。前半のこうしたスラップスティック調の場面が従来の本広克行の映画なのだが、今回は泣きの部分に重点を置いている。「あの子は嘘のつけない声が大きいだけの子供なんですよ」と話す健一の祖母を演じる八千草薫がいい。回想ショットで描かれる子供時代の健一と祖母の交流やクライマックスの手術に至るシーンに泣かされる。細部の描写が冴えている。

サトラレは高い知能を備えた障害者と言える。その意味で映画がノーマライゼーションのテーマを帯びてくるのも当然だろう。ラストで洋子が「サトラレがサトラレとして生きていける社会が望ましい」との結論に至るのはもっともなことなのである。鈴木京香は単なる美女ではなく、主人公より年上の設定を逆手にとったコミカルな演技を見せる。安藤政信も純真な主人公に透明感を持たせた演技でリアリティを出している。「踊る大捜査線」の小野武彦はまたしてもおかしいし、警備役の小木茂光、病院の食堂のおやじ高松英郎、看護婦の深浦加奈子らいずれも好演で、この映画、出演者に恵まれた。

【データ】2001年 サトラレ対策委員会 2時間10分 配給:東宝 
監督:本広克行 製作総指揮:萩原敏雄 原作:佐藤マコト 脚本:戸田山雅司 音楽:渡辺俊幸 撮影:藤石修 美術:部谷京子
出演:安藤政信 鈴木京香 内山理名 松重豊 小野武彦 寺尾聡 八千草薫 小木茂光 深浦加奈子 半海一晃 田中要次 川端竜太 高松英郎 藤木悠 武野功雄

TOP