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シネマ1987online

ゼブラーマン

「ゼブラーマン」パンフレット

「この格好でジュース買いに行っちゃおうかな」。ゼブラーマンのコスチュームを身に着けた市川新市(哀川翔)がつぶやく。コスチュームは自分でミシンで縫ったものである。昭和53年に視聴率低迷のため7話で打ち切られた「ゼブラーマン」の絶大なファンである主人公は大人になってもゼブラーマンに憧れている。小学校の教師だが、生徒からは馬鹿にされ、そのため息子はいじめられている。娘は援助交際しているらしいし、妻は不倫しているらしい。映画は序盤、スーパーヒーローものの冗談のような展開なのだが、やがて本気になり、ダメな父親、ダメな先生だった主人公が復権し、スーパーヒーローが誕生して宇宙人を撃退するまでを描く。M・ナイト・シャマラン「アンブレイカブル」に通じる映画であり、観客をハッピーにさせる意味ではそれを超えている。

これは監督の三池崇史の趣味というより、脚本の宮藤官九郎の思い入れなのだろう。と思ったが、パンフレットを読むと、三池崇史が手を入れた部分もかなりあるらしい。考えてみれば、1960年生まれの三池崇史もまた、スーパーヒーローものを見て育った世代なのである。「先生、聞きたいことがあるんです。…先生はゼブラーマンじゃないんですか」。鈴木京香が主人公に尋ねるセリフはなんだか「ウルトラセブン」を思い起こさせた。ちょっぴり冗長な部分はなきにしもあらずだが、僕は面白かった。“Anything Goes”願えばかなう、という字幕が最初に出て、映画はその通りの展開をしていく。そういう真正面から言われると恥ずかしくなるようなことを、スーパーヒーローものの設定を借りて言っている力強さがこの映画にはあり、本筋は非常にまともである。これが見ている人を熱くさせる理由なのだろう。

2010年の横浜市八千代区が舞台。巨大ザリガニが現れたり、1万頭のアザラシが川をさかのぼったりと、八千代区では最近おかしなことが起こっている。ゼブラーマンのコスチュームを着けて夜にこっそり外出した主人公はカニのマスクを着けた男が女を襲っている現場に出くわし、なぜか不思議な力を発揮してカニ男をたたきのめす。この街には地球侵略を企む宇宙人が密かに侵入し、人間に寄生していたのである。この動きを察知した防衛庁は2人の職員を派遣し、調査を開始する。映画はやはりゼブラーマンのファンである小学生の浅野とその母・可奈(鈴木京香)と主人公の交流を挟みつつ、宇宙人を撃退するゼブラーマンの活躍を描いていく。

スーパーヒーローになぜあんなコスチュームが必要なのか、現実世界にはまるで合わないのではないかという疑問が実はスーパーヒーローものにはつきもので、「バットマン リターンズ」でティム・バートンはそのあたりまで描いて見せた。しかし、この映画を見ると、人はコスチュームを着けることで別人になれるという効果があるのが分かる。ゼブラーマンがなぜ、あんな力を持てるのか、映画では詳しく説明されないけれど、それでもいいんだ、ヒーローになったんだからという説得力が十分にあるのだ。と、書いたことに反するようだが、個人的な解釈をさせてもらえば、主人公にはもともとゼブラーマンの能力があったのだと思う。ゼブラーマンのテレビの内容通りに事態が進行するということは30年以上前に映画の重要な人物でもある脚本家が事態を予知していたためだろう。主人公はゼブラーマンのコスチュームを身につけたから超能力を得たのではなく、自分がゼブラーマンであることを知らずに、ゼブラーマンの熱狂的なファンになっていたわけだ。「アンブレイカブル」は普通の男がスーパーマンであることに気づき、自分の使命を果たすことで充実感を得るという物語だったが、この映画の主人公はコスチュームを身につけることで自分の力に覚醒することになる。その意味で「その者、青き衣を纏いて…」の伝説を具現したナウシカにも通じるものがあるだろう。

テレビの「ゼブラーマン」は空を飛べなかったために宇宙人に負け、人類は支配されてしまう。そのためもあって主人公は飛ぶことに執着する。何度も何度も飛ぶことに挑戦し、傷だらけになる。だからようやくゼブラーマンが校舎の屋上から落ちた浅野を助けるために空を飛ぶシーンは「E.T.」の自転車が空を飛ぶシーンに近い感動がある。「俺の背中に立つんじゃねえ」「白黒つけるぜ」という序盤に出てきたセリフはクライマックスに熱を込めて繰り返される。宮藤官九郎の脚本はスーパーヒーローものの約束事を微妙に外して話を組み立て、「盗まれた町」のアイデアを取り入れながら、ユーモアたっぷりに仕上げてある。主演の哀川翔は硬軟織り交ぜた演技で主演100本目にふさわしい出来。鈴木京香のゼブラナースのコスチューム(絶品!)に驚き、渡部篤郎の防衛庁の役人の面白いキャラクターにも感心させられた。志の低いパロディにしなかったスタッフと出演者を賞賛したい。

【データ】2004年 1時間55分 配給:東映
監督:三池崇史 エグゼクティブ・プロデューサー:黒沢満 平野隆 プロデューサー:岡田真 服部紹男 脚本:宮藤官九郎 撮影:田中一成 音楽:遠藤浩二 主題歌:ザ・ハイロウズ「日曜日よりの使者」 美術:坂本朗 CGIプロデューサー:坂美佐子
出演:哀川翔 鈴木京香 市川由衣 近藤公園 安河内ナオキ 三島圭将 渡辺真起子 徳井優 田中要次 内村光良 麻生久美子 袴田吉彦 古田新太 柄本明 岩松了 大杉漣 渡部篤郎

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