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シネマ1987online

世界の中心で、愛をさけぶ

「世界の中心で、愛をさけぶ」パンフレットより

「ロボコン」で魅力を見せつけた長澤まさみの主演第2作。と、言い切ってしまっていいだろう。物語はサク(大沢たかお)の視点で語られるが、映画を背負っているのは長澤まさみである。その証拠に長澤まさみが画面から消えた後は途端に魅力がなくなってしまう。いや、もっと正確に言うと、長澤まさみ演じるアキが白血病で入院してからは、話自体が類型的なものになり、面白みに欠ける。

白血病(ほかの難病でも同じ)を話の軸に使うというのは劇中、アキが非難するように本当の病気の人の身になって考えれば、ひどい話であり、映画としてみても手垢にまみれた設定である(これは原作がそうなっているのだから仕方がない)。行定勲監督は映画化に当たって、原作にない大人のサクとその婚約者律子(柴咲コウ)のストーリーを付け加えた。片足の不自由な律子もまた、サクとアキの過去につながっていく女性であり、2人はそれぞれ故郷の高松に帰って、過去を振り返り、過去へのオトシマエを付けることになる(行定監督によると、律子が足を引きずるのと過去を引きずるのは同じことという)。この脚色はうまいと思うのだが、極めて残念なのは現在のパートが高校時代のサクとアキのパートにすっかり負けてしまっていることだ。

引っ越しの荷造りの最中、突然、家を出た婚約者の律子が高松にいることを知ったサク(大沢たかお)は通りを走る。その大沢たかおの足が港の防波堤を走る1986年のサク(森山未來)の足に重なって、過去の話となるジャンプショットは映画らしい手法である。台風が近づき、曇り空の現在に比べて高校時代の夏は光り輝いている。サクは校長先生の葬儀で弔辞を読んだアキに目を止める。アキは美人で頭が良くてスポーツ万能。サクには手が届かない存在に思えたが、ふとしたことから2人には交流が生まれる。交換日記の代わりにカセットテープに声を吹き込んで交換したり、深夜放送でどちらの葉書が先に読まれるかを競ったり。2人は夏休みの思い出に無人島への一泊旅行をする。このあたりのゆっくりと愛が育まれる描写が心地よい。森山未來は少しもハンサムではないけれど、ナイーブな感じに好感が持てる。2人の夢のような幸福は永遠に続くと思えたが、無人島から帰る日、アキは倒れてしまう。アキは白血病に冒されていたのだ。

この過去のパートは恐らく、長澤まさみではない他の女優が演じていたら、どうしようもないお涙ちょうだいものにしかならなかったはずだ。ところが、長澤まさみが実に魅力的に演じきってしまい、もうここだけでいいと思えてしまう。あとの部分は付け足し。そんな感じである。映画の中でも写真店の重じい(山崎努)によって、“後かたづけ”と表現されている。

2時間18分が長い映画ではないけれど、気になるのはサクと律子がどうやって知り合ったのか、律子はあのテープをなぜ引っ越しの荷物の中から見つけるまでサクに聞かせなかったのか、ということ。まさか忘れていたわけでもないだろう。そのあたりは現在のパートに説得力を持たせるためにも必要な描写だった。せっかく付け加えたのに、効果を挙げていないのである。といって、そのあたりを詳しく描くと、魅力的な過去のパートを削る必要が出てくる。難しいところだ。

過去を包み込むようにして構成された脚本自体は悪くないし、出演者たちもそれぞれに好演している。しかし、出来上がった映画を傑作と呼ぶのにはためらいが残る。凡庸ではないけれど、特別に優れた映画でもない。たぶん、話の軸足を現在に置くか、過去に置くか、監督にも踏ん切りが付かなかったのではないか。

【データ】2004年 2時間18分 配給:東宝
監督:行定勲 製作:本間英行 プロデューサー:市川清 春名慶 原作:片山恭一 脚本:坂元裕二 伊藤ちひろ 行定勲 撮影:篠田昇 美術:山口修 音楽:めいなCo. 主題歌:平井堅「瞳をとじて」 挿入曲:「SOMEDAY」(佐野元春)「きみに会えて」(渡辺美里)「アヴェ・マリア」
出演:大沢たかお 柴咲コウ 長澤まさみ 森山未來 山崎努 宮藤官九郎 津田寛治 高橋一生 菅野莉央 杉本哲太 天海祐希 木内みどり 森田芳光 田中美里 渡辺美里

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