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シネマ1987online

下妻物語

「下妻物語」チラシ

茨城県下妻市を舞台に、ロココ時代のフランスに憧れてフリルひらひらの洋服を着る竜ヶ崎桃子(深田恭子)とヤンキーの白百合イチゴ(土屋アンナ)のおかしな友情を描く。監督の中島哲也はCMディレクター出身のためか、編集に冴えがある。アニメも取り入れた人工的でポップな映像と速いテンポの佳作に仕上がった。

ジャージ世界の大阪からジャスコファッションの下妻に来ることになった桃子とテキヤの父親(宮迫博之)のこれまでを描く冒頭から快調である。桃子の母親(篠原涼子)は桃子を生んだ病院の医師と不倫して、桃子が小学生の時に両親は離婚。父親はヤクザの下でバッタものの洋服を売って儲けていたが、ブランド側からイチャモンを付けられそうになり、桃子と一緒に下妻の実家に逃げてくる。ロリータなファッションに目覚めた桃子はBABY,THE STARS SHINE BRIGHTの洋服を買うため、父親のバッタ製品を売りに出す。そこに平仮名だらけの手紙を送ってきたイチコ(本名はイチゴ)が洋服を買いに訪れる。対照的な2人だが、桃子のパチンコの才能と刺繍の才能が2人を結びつけ、何だか変な友情関係が出来上がる。

と、ストーリーを書いてもあまり面白くない。映画の面白さはそのデフォルメされてぶっ飛んだキャラクターと類型的なセリフを笑い飛ばす演出にある。イチゴの頭突きで桃子がぴょんと跳ばされる場面とか、ジャスコに関するセリフとか、細かいギャグが詰め込んであり、狂騒的でゲラゲラ笑える場面が多い。しかも桃子のキャラクターが「人は人、自分は自分」という徹底的な個人主義であるのが面白い。酸いも甘いもじゃなくて、甘い物ばかり食べていきたい女の子なのに、芯は硬派なのである。

このキャラクター設定が成功の大きな理由だろう。ロリータファッションをしていても、バカじゃない。加えて、その個人主義の桃子が終盤、イチゴを助けるために奔走することで、観客の共感も十分に得られることになっている。桃子にはテキヤの父親の血がしっかりと流れているようで、クライマックス、けじめを付けられそうになったイチゴをかばってヤンキー集団を相手に啖呵を切る場面などピタリと決まる。桃子以外のキャラクター、祖母の樹木希林や八百屋の荒川良々、ヤクザの本田博太郎、一角獣の龍二役の阿部サダヲ、BABY,THE STARS SHINE BRIGHTの社長・岡田義徳などまともなキャラクターが1人もいないのが素晴らしすぎる。しかし、そのキャラクターが綴る話には共感できるのである。中島監督の演出の計算はなかなか正確だと思う。

深田恭子は演技がうまいというレベルではないが、少なくとも桃子役にはピッタリ。「女はさ、人の前で泣いちゃいけないんだよ」という土屋アンナは一角獣の龍二に失恋して涙をこらえるシーンが良かった。同じ女の子の友情を描いた岩井俊二「花とアリス」の上品さとは対照的にハチャメチャな映画だが、そのパワーは侮れない。ただ、少しぜいたくを言うなら、クライマックスの盛り上げ方にはもっと工夫が必要と思う。安っぽさと紙一重のところで成功しているのが心憎いけれど、一歩間違えれば安っぽくなることも否定できないのである。

【データ】2004年 1時間42分 配給:東宝
監督:中島哲也 製作統括:大里洋吉 近藤邦勝 プロデューサー:石田雄浩 平野隆 小椋悟 原作:嶽本野ばら 脚本:中島哲也 撮影:阿藤正一 美術:桑島十和子 音楽:菅野よう子 オリジナル・テーマソング「Hey my friend」 オープニング・テーマ「Roller coaster ride→」
出演:深田恭子 土屋アンナ 宮迫博之 篠原涼子 樹木希林 阿部サダヲ 岡田義徳 小池栄子 矢沢心 生瀬勝久 荒川良々 本田博太郎

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