ジュブナイル
小さな港町を舞台にした子どもたちの一夏の冒険を描くSF映画。物語、アイデア、SFXの技術は水準以上と思う。SFの設定にもおかしな点はない。映画を構成する材料的には申し分ないものがそろった。しかし、残念ながら映画としての完成度は高くない。子どもの演技が硬すぎるのをはじめ、ぎくしゃくした場面が随所にある。荒削りなのである。端的に演出の力が足りないのだと思う。こうした映画は丹念に丹念に細部を積み上げていく必要があるのだが、それが出来ていないのは監督デビューの山崎貴の弱さと言うべきだろう。このストーリー、ベテラン監督ならたとえSFXがちゃちであっても、それなりに納得のいく映画に仕上げたはずなのである。世界に通用するSFXを使い、子供だましではないまともなSF映画を作ろうという志は買うし、山崎監督の可能性も感じさせるが、非常に惜しいところで傑作になりそこねた。
特殊効果マン出身の山崎監督はSFが好きなのだという。子どもたちが球形のロボット・テトラに出会うことで始まる物語は「E.T.」や「アイアン・ジャイアント」のようにジュブナイル(少年少女向け)SFの常套的な手法である。町にいる変わり者の若い研究者(マッド・サイエンティスト!=香取慎吾)が子どもたちのよき理解者になり、一緒に冒険する。しかもその研究者のテーマは「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のドクと同じタイムマシンなのである。SF好きなら、これだけでもうれしくなる設定だろう。そして、テトラが主人公の祐介(遠藤雄弥)に最初にいうセリフ「テトラ、ユースケニ、アッタ」で、これがタイムトラベルを含む話であることがすぐに分かるはずだ。未来から地球を救うために送られてきたロボット。「ターミネーター2」なのである。
そういう風に過去のSF映画や小説のあれこれがこの映画には詰まっている。急いで付け加えると、それでいてオリジナリティーがないわけでは決してない。子どもたちがテトラと親しくなるのと並行して、宇宙人がひそかに地球を侵略する様子が描かれる。宇宙人たちの目的は地球の水で、巨大な装置を使い、海水をすべて持ち去ろうとしている。このアイデアは独自のものだ。宇宙人はその計画を阻害するものとして地球のオーバーテクノロジーを警戒し、テトラを発見する。そこから子どもたちと宇宙人の争いが始まるわけだ。テトラが宇宙人に対抗するために作るロボット型兵器(ガンゲリオン)はガンダムのようなパワードスーツ。「ロボコップ2」に出てきたロボットのような動きだなと思ったら、その通りパンフレットに「ロボコップ2」の動きを念頭に置いたと書いてあった。
こうしたSF的な部分はよくできているものの、子どもの淡い恋心など日常を描く部分が弱い。物語の中心となる子ども4人の中では鈴木杏が抜きん出ており、男の子3人は演技がまだまだ。これが致命傷になった感もある。現在の物語が終わった後に描かれる2020年の話も少し手際が悪く長すぎる。子どもはここで飽きるのではないか。話の決着を付けるためには必要なのだが、簡潔にエピローグ的に描いた方が良かったと思う。水泥棒に失敗した宇宙人たちがその後どうなったのかも気になった。もう一つ、プレステ2のネット接続云々やローソンの場面などタイアップのための映像としか思えない。製作費の工面上、仕方ないとはいえ、タイアップ映像の見せ方にもう少し工夫が欲しかった。
【データ】2000年 1時間40分 製作:ジュブナイル・プロジェクト 配給:東宝
監督・脚本・VFX・コンセプチュアルデザイン:山崎貴 企画:河村雄太郎 久保雅一 香山哲 高野力 高橋修 吉田紀之 エグゼクティブプロデューサー:阿部秀司 島村達雄 撮影:柴崎幸三 音楽:清水靖晃 主題歌:「Juvenileのテーマ」「アトムの子」山下達郎 美術:上條安里 ビジュアルエフェクツプロダクション:白組 テトラ造型・特殊造型:三木康次
出演:香取慎吾 酒井美紀 鈴木杏 遠藤雄弥 清水京太郎 YUKI 高橋克己 麻木久仁子 桜金造 松尾貴史 林原めぐみ 吉岡秀隆 緒川たまき 高杉亘 川平慈英