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シネマ1987online

双生児

「双生児」

特異な美術、特異な衣装、眉を落とした特異なヘアメイクに俳優たちの不気味で特異なメイクアップ。久しぶりに見る塚本晋也の世界は一見、決して心地よいものではない。しかし、監督の趣味がこれほどあふれた日本映画も珍しく、ここまでデフォルメされると、フェリーニあたりを引き合いに出したくなる。独自の世界の構築という点で塚本晋也は際だった才能を持っている。そしてテーマは10年前の「鉄男」以来、一貫して肉体の変貌(メタモルフォーゼ)。「鉄男」に僕はショックを受けたが、今回もまた刺激は大きかった。独自の世界観に裏打ちされた「作家の映画」でありながら、江戸川乱歩の小説が持つ妖しさをもまた見事に映像化している。

予告編を見たときには「これはきっと幽霊か妖怪か死神のたぐいに違いない」と思われた異様な容貌の面々は実は貧民窟の人々だった。実際、この衣装とメイクはただ事ではない。北村道子の担当した衣装は美しさと汚さが混在したなんとも形容しがたい感覚。これは誉めているのだが、この衣装がなければ「双生児」の世界は随分と貧しいものになっただろう。北村道子はパンフレットでこう語っている。「私は明治時代をアルファベットのMEIJIとして記号化してみたんです。西暦2500年くらいの人間が想像するような明治のビジュアルなんです。…抽象的な言い方ですが、グキッ、メチャ、ボロッといった感覚がテーマなんです」。ヘアメイクの柘植伊佐夫の場合はこうだ。「貧民窟はパンク的です。シンメトリックなものの破壊。輪郭性が消えている感覚。背景と重なったときに輪郭が曖昧になることを意識しました」。この2人が果たした役割は極めて大きいと言わねばなるまい。

映画のストーリーは原作とは随分違うようだが、塚本監督らしいのは井戸に落とされた主人公の医師(本木雅弘)が泥と垢にまみれ、だんだんとメタモルフォーゼしていくことだ。主人公を突き落としたのは貧民窟で育った双生児の兄。グキッ、メチャの容貌なのだが、主人公は徐々にその容貌に近づいていくのである。そして精神もまた。疫病が流行する貧民窟の人間を魔物のように毛嫌いしていた主人公は自らがその容貌になり、大きな意識の変革を迎える。井戸から必死の思いで脱出した主人公はかつての自分とうり二つの兄を殺すのだ。いわば主人公は自分を殺すわけなのである。僕は江戸川乱歩ならぬエドガー・アラン・ポーの「ウィリアム・ウィルソン」を思い出した。

骨格はミステリだから、前半の怪異な物語はすべて合理的に説明される。ミステリ的な評価から言えば、決してストーリーテリングが際だっているわけではないけれど、この映画の場合、ストーリーは映像の手段に過ぎないような気がする。映像の鮮烈さがストーリーを上回っているのである。独自のスタイルを持った監督の映画は面白い。本木雅弘は大河ドラマとは打って変わって、複雑な二役を好演。妻を演じる映画初出演のりょうは独特の雰囲気があり、映画の不気味さに合っていた。

【データ】1999年 東宝配給 1時間24分
製作:セディックインターナショナル、丸紅 監督・脚本・撮影・編集:塚本晋也 原作:江戸川乱歩「双生児〜ある死刑囚が教誨師にうちあけた話」(角川ホラー文庫) 音楽:石川忠 衣装:北村道子 ヘアメイク:柘植伊佐夫 美術:佐々木尚
出演:本木雅弘 りょう 藤村志保 筒井康隆 もたいまさこ 石橋蓮司 麿赤児 竹中直人 浅野忠信 田口トモロウ 村上淳 内田春菊

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