Wの悲劇
「1958年生まれ、26歳。職業はいろいろ。年収は日収月収で150万」。世良公則が2度目に会った薬師丸ひろ子に自己紹介する。29年前でも150万円は少ない方じゃないかと思うが、考えてみれば、バブルの前なのでそういうものなのかなと思う。久しぶりに見た「Wの悲劇」はとても良かった。1984年の映画だが、70年代の青春映画の雰囲気を引きずったところがあって、それがとても懐かしい。今やお母さん役の多い薬師丸ひろ子が、かなりかわいいのにあらためて驚く。世良公則は役柄も含めて好感が持てる。久石譲のセンチメンタルな音楽がとても内容に合っている。
今回再見してちょっと気になったのは舞台のシーンが少し長いこと。全体のトーンから浮いている感じが拭いきれないのだ。なんぜ、この部分、蜷川幸雄が(派手に)演出しているし、夏樹静子の原作の部分なのでそうそう短くするわけにもいかなかったのだろう。ま、これは小さな傷にすぎず、この映画が青春映画の傑作であることに変わりはない。恐らくミステリの映画化には興味が持てなかったであろう澤井信一郎と荒井晴彦の脚本は原作を劇中劇に押し込めただけでなく、主演の2人のキャラクター設定に冴えを見せ、映画に確かなリアリティーを与えている。
キネ旬ベストテン2位。この年の1位は伊丹十三「お葬式」だ。「お葬式」に負けるなんて、何かの冗談としか思えない。