つみきのいえ
アカデミー短編アニメーション賞ノミネート作品で、アヌシー国際アニメーションフェスティバルのグランプリも受賞した。
だんだん水面が上がってくる土地に一人の老人が住んでいる。老人は水面の上昇に対応するため、レンガを積み木のように積み重ねて家を高くしてきた。水面が上がったら、新たに作った上の部屋に移動する。そうやって家は随分高くなっている。ある日、上の部屋に引っ越す際に大事にしていたパイプを落としてしまう。代わりのパイプも持っているが、老人は潜水服を着て水面下の階下に潜っていく。そこは死んだ妻と暮らしたころの部屋。老人は子供の結婚や子供が小さかったころ、妻と知り合ったころを回想することになる。
町にはかつて大勢の人が住んでいたが、水面の上昇とともに他の人たちはよそへ引っ越していった。老人が引っ越さないのはこの家に思い出が詰まっているからだ。老人は一人で住んでいるのではない。死んだ妻の思い出とともに幸福な日々を暮らしているのだ。
優しく淡い絵柄でそういうストーリーを描いてしんみりした気分にさせる。水面下に降りていくことは自分の記憶を掘り下げていく行為の比喩となっている。しかし、これは小さな子供には理解しにくいかもしれない。そういう人生の機微が子どもには分かりにくいと思う。ナレーション入りバージョンを見ると、物語の細部の説明があって分かりやすかった。amazonのレビューにはナレーションなしの方がいいという意見があるけれど、ナレーション入りを勧めたい。ナレーション入りだと、小5の次女にも理解できたようだ。ちなみにナレーションは長澤まさみ。これは絵本にもなっているそうだ。絵本の文章もこのナレーションが元になっているのだろう。
次女の感想は「おじいさん、かわいそうだねえ」。そう、かわいそうだけど、おじいさんはたくさんの幸福な思い出があるから不幸じゃないんだ。物質はいつか消えるけど、幸福な思い出はいつまでも残るからね。
監督の加藤久仁生は1977年生まれだそうである。