WXIII 機動警察パトレイバー
9年ぶりの劇場版「パトレイバー」第3作。WXIIIとは、原作の「廃棄物13号」つまり、Wasted 13を意味する。10年以上前にこの原作は読んでいるが、もはやすっかり忘れている。あのコミックで印象的だったのは怪獣の廃棄物13号よりも、むしろ黒いレイバー、グリフォンの方だった。それはともかく、パトレイバーシリーズの映画版は毎回、水準が高い。第2作が3位にランクされている(僕を含む一部の組織票の疑いもある)。特に第2作は個人的にはその年のベストだった。戦争シミュレーションをテーマに全編を貫く緊張感とリアルな作画には圧倒された。今回も作画のリアルさは第2作を受け継いでいるし、東京のさまざまな風景の中での刑事2人の捜査というのは第1作にもあった。出来の方もこの2作に劣らない。
昭和75年というから、設定としては2年前のアナザー・ワールドである。バビロン・プロジェクトの進む東京湾で、シャフト社製のレイバーが連続して襲撃される事件が起きる。プロジェクトに反対するテロリストの仕業と思われ、警視庁城南署刑事の久住武史(綿引勝彦)と秦真一郎(平田広明)が捜査を開始する。原型をとどめない作業員の死体を目にした後、秦は雨の駐車場で一人の女に出会う。車の故障で困っていたその女、岬冴子(田中敦子)にはどこか、陰があった。謎の襲撃事件はその後も続き、海底ケーブルを調査中の水中レイバーが破壊され、海沿いの駐車場で車の中のカップルが惨殺される。そして湾岸の備蓄基地で異常事態発生が通報された。2人の刑事は現場へと向かい、そこで巨大な怪物を目撃する。怪物は警備員を貪り食らい、久住に迫ってくる。危うく難を逃れた2人は怪物の残した肉片の分析を依頼するために東都生物医学研究所を訪れる。そこには冴子がいた。冴子は大学の講師ではなく、生物医学の研究員だった。
前2作は伊藤和典の脚本が素晴らしい出来だったが、今回のとり・みきも頑張っている。地味に始まった話だけに中盤、怪獣の暴れ回る場面が効果的で、第一印象としては由緒正しい怪獣映画、という感じ。怪獣の正体やそれにまつわるSF的設定(久住がいつも聞いているアナログレコードが怪獣の弱点に結びつくのは絶妙)にもすきがない。加えて刑事2人の私生活を含めた描写とそれに絡む岬冴子の悲しい過去が人間ドラマとしての側面をも補強する。特車二課が脇に回ったのは残念だが、後藤隊長の出番はあるし、他の面々もクライマックスには登場する(怪獣を倒す銃弾が一発しかない、と言われた太田が「一発あれば十分だ!」と言う場面は笑った)。総監督は押井守に代わって、高山文彦(「超時空要塞マクロス」「不思議の海のナディア」「機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争」)。丹念に丹念に積み上げていく演出とビジュアルなまとめ方に冴えを見せている。いつものことながら川井憲次の音楽も素晴らしく、効果を挙げている。付け加えれば、年配の刑事・久住の声を演じる綿引勝彦も実にピッタリなキャスティングだったと思う。
【データ】2002年 1時間40分 配給:松竹
総監督:高山文彦 監督:遠藤卓司 企画:角田良平 薬師寺衛 エグゼクティブ・プロデューサー:渡辺繁 川城和実 小坂恵一 プロデューサー:杉田敦 福島正浩 原作:ヘッドギア 脚本:とり・みき 原案:ゆうきまさみ「機動警察パトレイバー」(「廃棄物13号」より) キャラクター・デザイン:高木弘樹 メカニック・デザイン:カトキハジメ 河森正治 出渕裕 作画監督:黄瀬和哉 撮影:白井久男 音楽:川井憲次
声の出演:綿引勝彦 平田広明 田中敦子 穂積隆信 拡森信悟 森田順平 池田勝 冨永みーな 古川登志夫 池水通洋 二又一成 郷里大輔 大林隆之介