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突入せよ!「あさま山荘」事件

突入せよ!「あさま山荘事件」パンフレット

あさま山荘事件を警察の側から描いた“事実に基づくフィクション”。狗神」以来の作品となる。前半の長野県警と警視庁、警察庁との確執は「踊る大捜査線」の裏返しみたいで、あまり感心しなかった(「踊る大捜査線」は現場の刑事からのキャリア組批判があったのだが、この映画は上層部から聞き分けのない現場への不満にしかなっていない)が、後半、鉄球が壁をぶち抜くシーンに始まる山荘突入の場面を延々と描き始めて映画は熱を帯びる。山荘内部への突入の困難さが詳しく描写されているのだ。

ただ、これをもってしても傑作にはなりえず、大いなる凡作という印象。結局のところ、警察上層部の視点だけで描けば、事件自体を矮小化することになってしまう。時代背景や連合赤軍の意味などをすべてカットしてしまったら、「あさま山荘」を映画化する意味があるのかどうか疑問なのである。いや、これは佐々淳行の原作だから、というのもエクスキューズにならないのではないか。警察の騒動だけなら、この事件を取り上げる必要はないだろう。映画がスケール感に乏しく、見応えにも欠けるのは、このあたりから来ているようだ。事件の単なる断片を描いただけ、という不満を覚えずにはいられない。

「体を張り命がけで戦った男たちを、同世代の1人として誇りに思う」と、パンフレットの中央部分に某知事が書いている。それを大書して載せるという感覚に僕はついていけない。原田真人の思想や映画製作の意図がどうあれ、映画はそのように右寄りの思想でパッケージングされている。The Choice of Herculies(困難な道ばかりを選ぶという意味だそうだ)という英語のタイトルにもケッ、そんなにカッコイイかよ、と思ってしまう。右も左も超えて「活劇の根底にある男たちの実感を描きたかった」と、原田真人はキネマ旬報5月下旬号で語っている。その考え方には納得するのだが、どうも見ていて乗れないのは、やはり主人公が国家のエリート階級に属する人だからだろう。これが現場の一機動隊員の視点から構成された物語であったのなら、また違ったのかもしれない。いや、絶対に違ったはずだ。

“事実に基づくフィクション”とことわるぐらいなら、徹底的に視点を変え、物語の構成を変えて、脚本を書いた方が良かったのではないか。主人公は活劇の現場にはいたが、あくまでも指揮官であり、突入現場の恐怖や緊張や苦しさを身をもって知っているわけではない。だから実感に欠ける映画にならざるを得ない。藤田まことの後藤田正晴なんてぴったりだし、ひとクセもふたクセもある役者たちがそれぞれに見せ場を作っている。群衆劇としては水準以上なのに、釈然としない思いが残るのはそういう主人公の設定が影響しているのだと思う。そう、いかに長野県警との協力や事件現場の過酷な天候に困難があろうが、結局、主人公は「突入せよ!」と命令するだけの人なのである。

【データ】2002年 2時間13分 配給:東映
監督:原田真人 製作:佐藤雅夫 谷徳彦 椎名保 熊坂隆光 プロデュース:原正人 原作:佐々淳行 撮影:坂本善尚 美術:部谷京子 音楽:村松崇継
出演:役所広司 宇崎竜童 伊武雅刀 藤田まこと 天海祐希 椎名桔平 山路和弘 松岡俊介 池内万作 豊原功輔 遠藤憲一 矢島健一 遊人 榊英雄 甲本雅裕 山崎清介 大森博 螢雪次朗 荒川良々 街田しおん 篠原涼子 高橋和也 松尾スズキ もたいまさこ 串田和美 篠井英介

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