It's Only a Movie, But …

シネマ1987online

Dolls(ドールズ)

「Dolls ドールズ」パンフレット

北野武監督の第10作。ベネチア映画祭ではかすりもしなかったという作品である。評判はあまり良くなかったので期待しなかったが、そんなに悪い出来ではない。最初の30分ほどをもう少してきぱきと見せれば、もっと良くなっただろう。

映画の中心となる「つながり乞食」のモデルはパンフレットによると、北野武が大学を辞めて浅草で働いていた頃に見た男女を基にしているという。赤い紐で結ばれた男女が美しい風景の中を歩くイメージにはインパクトがある。インパクトはあるが、話の作りはうまくない。最初の30分で映画は2人の過去を説明するのだが、ここの手際が悪い。演出が律儀すぎる感じがある。2人は正体不明のオブジェにしてしまって、他のエピソードを語った方が良かったのではないか。赤い紐の男女を含めて、映画で描かれる3つの話に共通するのは深すぎる愛、あるいは異形の愛を描いていること。それぞれに悪くはないが、オムニバス形式になるところを無理矢理に話をつないだ感もある。赤い紐の男女を描くのなら、あとの2つのエピソードを大きく扱う必要はないし、愛の深さを描くのなら、赤い紐の男女のエピソードをもう少しうまく演出する必要があっただろう。

結婚を約束していた佐和子(菅野美穂)を捨てて社長令嬢と結婚式を挙げるところだった松本(西島秀俊)は佐和子が自殺未遂を起こし、精神に異常を来したと知らされる。松本は結婚式を放り出して病院に駆けつけ、佐和子を連れて放浪の旅に出る。車の中で暮らすホームレス同然の生活。2人はやがて車を捨てて歩き出す。赤い紐は佐和子が勝手に歩き回らないようにするためだ。2人の行く末はこの状態から容易に想像できる範囲のところにある。映画はこのほかに2つのエピソードを語る。一つは松原智恵子演じる初老の女が何十年も2人分の弁当を作って公園で男を待ち続ける話。男は不況のため務めていた工場を辞め、「立派になって迎えに来る」と言い残して姿を消す。女はそれ以来、毎週土曜日に弁当を持ち、待ち続けているのだった。ヤクザの親分になった男(三橋達也)は数十年後に公園に行き、女の姿を見つける。もう一つはアイドル歌手の追っかけの男(武重勉)のエピソード。アイドル(深田恭子)が顔にけがをして引退したのを知り、男は自分の目を潰して会いに行く。「たぶん、見られたくないだろうと思って」と男はアイドルに言うのである。これは北野武が自分で言っているように「春琴抄」そのままの話である。

北野武が最初に意図したのは日本の四季の風景を美しく撮ることらしく、その点に関しては桜並木や紅葉の森や雪景色が十分に美しく撮られているので成功はしている。北野武はイメージ先行型の演出家なのだな、と思う。問題はイメージをうまく話に組み立てていく技術で、これはしっかりした脚本家が補佐した方がいいだろう。タイトルのDollsは山本耀司の衣装を身にまとい、人形のような赤い紐の2人をイメージしていることは分かるのだが、だからどうしたという感じである。冒頭で描かれる文楽の「冥土の飛脚」がほとんど意味をなさないのもうまくない。

菅野美穂を映画で見るのは個人的には「エコエコアザラク」「富江」以来。テレビのバラエティ番組で笑顔を振りまく好感度もいいが、こうした無表情な役柄も似合っていると思う。

【データ】2002年 1時間53分 配給:松竹 オフィス北野
監督:北野武 プロデューサー:森昌行 吉田多喜男 脚本:北野武 撮影:柳島克己 衣装:山本耀司 音楽:久石譲 美術:磯田典宏
出演:菅野美穂 西島秀俊 三橋達也 松原智恵子 深田恭子 武重勉 岸本加世子 津田寛治 大家由祐子 大杉漣 清水章吾 金沢碧 大森南朋 大塚よしたか 西尾まり 吉沢京子 アル北郷 種子 紀伊修平 モロ師岡

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