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シネマ1987online

日本の黒い夏 冤罪

「日本の黒い夏 冤罪」

松本サリン事件の被害者・河野義行さんの冤罪・報道被害を描く社会派のドラマ。15ミニッツ」などよりは、はるかに真摯に作られた映画で、その意味では敬意を表するが、映画の手法としては古いと言わねばならない。登場人物のセリフ回しや効果音、出演者の熱演の在り方も含めて古さを感じるのである。この古さというのは題材の咀嚼の不十分さと優等生的視点からの脚本化から来ているように思える。説明調の生硬な描写や取り上げ方が表面的に流れた部分もあり、警察内部の描写や取材過程の問題点をさらに鋭くえぐって欲しかった思いが残る。見応えのある映画で問題提起の姿勢には感心するが、傑作というにはためらいがある。

1995年の初夏、高校の放送部員のエミ(遠野凪子)とヒロがローカルテレビ局を訪ねる。11カ月前に起きた松本サリン事件で、被害者の神戸俊夫(寺尾聡)が冤罪に問われた理由を探るドキュメンタリービデオを作るためだ。報道部長の笹野(中井貴一)は快く応対し、記者やキャスターとともに事件とその報道を振り返る。松本サリン事件は発端から警察捜査には問題があった。被疑者不詳のまま殺人容疑で第一通報者宅を家宅捜索したことは当時でさえ違和感を覚えたが、ここが一番のポイントだろう。ガスの発生場所と目されたこと、庭の樹木にガスの被害があったことなどがその要因になったらしい。断定はできないが、とりあえず怪しい男はいる。という程度の判断で、証拠を挙げようと家宅捜索した疑いが濃厚である。多数の薬品を持っていたという状況が拍車をかけ、その怪しい男しか視野になかったため、マスコミもそれに追随し、疑惑を増幅してしまった。2時間の取り調べの約束が7時間に及ぶ描写は、いったん疑いをもたれたら、警察はどこまでもやるという見本で怖さを感じずにはいられない。使われたガスがサリンというそれまで日本では一般的ではなかったガスであったことが分かった段階で第一通報者の疑いは晴れるべきところなのだが、「サリンはバケツで調合して作れる」などと発言するいい加減な学者が登場し、それをそのまま報道したことで疑惑は残されることになる。前代未聞の事件に対応することが警察にもマスコミにもできなかったわけだ。

映画はこのように事件を振り返り、警察とマスコミ批判をするのだが、どうも高校生を出し、その視点からの批判というのが青臭い。いや言っていることは真っ当だし、事件の経過も良く分かるのだけれど、いちいち高校生に反応させなくてもいいのではないか。これは遠野凪子の演技の未熟さともかかわっているのだが、しらけるのである。テレビ局のセットや記者の夜回り、通信社から入ったニュースを「はいしーん」と読み上げるなどリアリティーに欠ける描写も気になる。熊井啓、こういう部分の取材が十分ではなかったようだ。中井貴一は基本的にはあまりうまくない人と思うが、この映画ではまずまずの演技。記者を演じる北村有起哉はまだ勉強が足りない。

【データ】2001年 日活 1時間59分 配給:日活
監督:熊井啓 製作総指揮:中村雅哉 企画:猿川直人 製作:豊忠雄 原作:平石耕一「NEWS NEWS」 製作協力:河野義行 永田恒治 脚本:熊井啓 撮影:奥原一男 美術:木村威夫 音楽:松村禎三
出演:中井貴一 細川直美 遠野凪子 北村有起哉 加藤隆之 藤村俊二 梅野泰靖 平田満 岩崎加根子 二木てるみ 根岸季衣 石橋蓮司 北村和夫 寺尾聡

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