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MOTHER マザー

仕事もせず、その場しのぎの生活を送る自堕落なシングルマザーとその息子が悲惨な事件を起こすまでを描く。実際の事件をもとにした映画化で、物語の原案は「川口高齢夫婦殺害事件」(2014年)のノンフィクション「誰もボクを見ていない なぜ17歳の少年は、祖父母を殺害したのか」(山寺香・ポプラ社)。映画でも少年が事件を起こすまでの経過は描かれるし、その展開も納得できるのだが、監督の大森立嗣と港岳彦による脚本はタイトルから分かるように母親を中心に置いている。その割にはこの母親のキャラクターによく分からない部分が残る。母親の両親も妹も普通の人間のように思えるのに、なぜこの母親のような毒親が生まれたのか。事件の根本的な原因はこの母親にあるのだから、そこを抉っていく分析的なものが欲しくなってくるのだ。

離婚したシングルマザーの秋子(長澤まさみ)は息子の周平(郡司翔)を使って両親や妹から借金を繰り返している。家族はそんな秋子に愛想を尽かし、縁を切る。ホストの遼(阿部サダヲ)と知り合った秋子は何週間も周平をアパートに置き去りにする。電気もガスも止められたころに帰ってきた2人は秋子に気がある市職員の宇治田(皆川猿時)から金を脅し取ろうとするが、過って宇治田を刺してしまい、ラブホテルを転々とする逃亡生活へ。そんな中、秋子が妊娠し、自分が父親と認めない遼は2人のもとを去る。5年後、16歳になった周平(奥平大兼)のそばには妹の冬華(浅田芭路)がいた。ホームレスとなり、道ばたで寝ていた秋子らに児童相談所の亜矢(夏帆)が声をかけ、家族を簡易宿泊所に入れ、周平をフリースクールに通わせる。自分も周平のような子ども時代を送っていたと話す亜矢は周平と交流を深める。まともな生活への希望が見えた時、遼が帰ってくる。

映画を見ながら思い浮かべたのは母親から育児放棄された子供たちを描いた是枝裕和「誰も知らない」(2004年)と、最底辺の貧困女子を取材した鈴木大介のノンフィクション「最貧困女子」。同書によると、売春しか生活手段のない最貧女性たちに共通するのは何らかの障害を持つことで、この母親のそういう部分は描かれていないが、生活保護を自分から打ち切るなどの行動を見ると、内面的な障害がある可能性は大きい。

映画では殺人事件を起こした周平は懲役12年、秋子は懲役2年6月(執行猶予3年)の判決だったが、実際には少年に懲役15年、母親にも懲役4年6月の実刑判決が下ったそうだ。ラスト、亜矢は秋子の部屋を訪れ、秋子の手を握り締める。周平がどんなにひどい仕打ちを受けても秋子を嫌いにならなかったのと同じように、亜矢も母親の存在を求めていた、というのがタイトルと呼応した映画の結論になるだろう。

母親を演じる長澤まさみは初の汚れ役で、シャーリーズ・セロンが「モンスター」(2003年)で殺人犯を演じたのを思い出させる。実際の母親はもっと太ったタイプだったらしい(自堕落な生活を送っていれば、当然そうなる)。長澤まさみのようにきれいでスタイルの良い女優には合わない役柄と思えるが、これほど魅力的なら、男が簡単に籠絡されるのも無理はないと思わせ、ミスキャストとは言えない。むしろ怒声を交えた迫力のあるセリフ回しや冷たくアンニュイな雰囲気など、演技力の高さは賞賛すべきで、セロンのように外見を変えてはいないけれど、主演女優賞ノミネートは必至だ。

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