It's Only a Movie, But …

シネマ1987online

みんなのいえ

「みんなのいえ」

本格的な映画出演は初めての田中直樹と八木亜希子が扮する夫婦を中心に据えて、家を完成させるまでの設計士(唐沢寿明)と大工の棟梁(田中邦衛)の対立と和解を描くコメディ。「ラヂオの時間」で評価を集めた三谷幸喜の第2作で、ギャグは散りばめられているし、出演者も脚本も悪いところはあまり見あたらない。なのにそこそこの面白さでしかない。恐らく、家を造るということのドラマの希薄性が原因の一端なのではないかなと思う。むろん、個人としては多額の予算がかかる人生の一大事業なのではあるが、別に失敗したからといって、他人の同情は引かないし、ちょっと我慢して住めばいいわけである。脚本は三谷幸喜の個人的経験が基になっているそうだが、もう少し細部を膨らませて何か別のエピソードを絡ませると良かったと思う。例えば、伊丹十三は「お葬式」の中で家族・親戚が集う葬式の中に、異物としての夫の愛人のエピソードを挟み、作品のアクセントにしていた。しかし、それよりも何よりもコメディとしてくすぐりはあっても爆笑の場面がないことが致命的ではないか。こういう言い方は嫌いだけれど、テレビドラマで十分の内容である。

映画は実際の家造りと同じように地鎮祭や棟上げ、完成・お披露目などの字幕とともに描かれる。夫婦が頼んだ設計士は大学の後輩・唐沢寿明で、アメリカナイズされたアーチスト的資質である。ただし喫茶店などの店舗が中心で一般の家造りの経験はあまりない。田中邦衛は昔気質の大工で恐らくこれが最後の家造りとなり、娘からの依頼を秘かに喜んでいる(それにしてもなぜ八木亜希子は父親のことを長一郎と呼び捨てにするのか)。こちらは現場経験だけは豊富という設定である。で、この2人の対立は玄関のドアが外開きか内開きかに始まって、和室の広さ(6畳の予定が完成してみれば20畳になる)、タイルの種類、トイレの場所(南か北か)、壁の色など細部にわたる。実際の家造りにおいても、こうしたことは多かれ少なかれあるようだ。映画では田中邦衛の主張の方がやや理屈が通っているように思えるのは演技の説得力の違いによるものか。この2人、あるエピソードを通じて互いに理解をするのだが、その描き方にはあまり工夫がないように思える。

数年前、実際に家造りの経験をした者としてはこの映画で描かれることには何も目新しいものがない。ストーリー展開も完成するまでの先が見えているので意外性が何もない。中心となる夫婦を差し置いて大工と設計士の関係に焦点を絞った脚本の意図は間違ってはいないのだけれど、もう少しドラマを盛り上げる工夫が必要だった。三谷幸喜はビリー・ワイルダーを敬愛しているという。しかし、ビリー・ワイルダーだったら、家造りなどという退屈な題材には決して手を出さなかっただろうし、もし手を出したにしてもアイデアを湯水のように詰め込んだことだろう。家造りは実際に経験すると楽しいし、同時に大変なことも多い。ただし、それをそのまま脚本化しても面白い作品にはならない。個人の経験を普遍的なものに移し替えるにはそれなりの技術とアイデアが必要で、今回、三谷幸喜にはそれが足りなかったのだと思う。本筋に絡まないギャグはいくら詰め込んでも無駄である。

【データ】2001年 1時間55分 配給:東宝
監督:三谷幸喜 製作:宮内正喜 高井英幸 脚本:三谷幸喜 撮影:高間賢治 美術:小川富美夫
出演:唐沢寿明 田中邦衛 田中直樹 八木亜希子 伊原剛志 白井晃 八名信夫 江幡高志 井上昭文 榎木兵衛 松山照夫 松本幸次郎 野際陽子 吉村実子 清水ミチコ 山寺宏一 中井貴一 布施明 近藤芳正 松重豊 佐藤仁美 エリカ・アッシュ 明石家さんま 和田誠

TOP