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病は気から 病院へ行こう2

続編が第1作の出来を上回ることは邦画では珍しいが、これは前作よりはるかに面白い。外科病棟を舞台にした前作に対して、今回は死を間近に控えた末期ガン患者を収容するホスピスが舞台。深刻にならざるを得ないような状況にあるため、ギャグが不発の場面もあるのだが、滝田洋二郎監督は重たいテーマをエンタテインメント精神にくるめて総合的な娯楽作品に仕上げた。「深刻なテーマだから映画の雰囲気も暗くていい」と思い込んでいるような監督が多い中で、そうした野暮な邦画とは一線を画している。洋画のように洗練されているという点で、昨年の邦画では「シコふんじゃった。」と双壁だと思う。出演者もよく、特に小泉今日子の良さに感心した。

映画の冒頭でいきなり主演の小泉今日子は死んでしまう。これはラストに死の場面を持ってくると、どうしても従来の“お涙ちょうだい"ものになってしまうから、それを回避するための措置である。ここから小泉今日子はどのように死んだのか、という話になる。急性アルコール中毒で病院に運び込まれた小泉今日子は吐瀉物の中に血が混じっていたことから胃ガンを発見される。若い女性に多いスキルス・ガンで、発見された時には既に手遅れだった。この病院には真田広之と三上博史という対照的な考え方を持つ兄弟の医師がいる。真田はあくまで延命措置が医師の使命と考え、三上は助からない患者には安らかな死をと願って、試験的にホスピスを建設した。一般的な意味から言えば、真田が悪役となるが、この映画は類型的な描き方をせず、どちらが正しいとの判断は控えている。これによってキャラクターに深みが出た。

入院した小泉今日子は抗ガン剤の副作用で髪の毛が抜け、弱って立つこともできなくなる(夜中に絶望して、体中に付けられた管を取り去り、鮮血にまみれる場面が強烈だ)。ホスピスに入ることを決めたのは、治療で弱っていくことに耐えられなかったためである。ホスピスでは延命治療は一切行わず、末期ガンの痛みを取り除くことに主眼が置かれる。治療をやめた小泉今日子が元気を取り戻し、日光を浴びて芝生を歩く場面は生のきらめきを感じさせる良い場面だ。

そのまま安らかに死んで行くのなら普通の映画だが、一色伸幸の脚本はここで大きな転換を図る。小泉今日子はホスピスを抜け出して生命保険のCMに出演するのである。余命3ヵ月であることを公表して「私も(保険に)入っていませんでした」と訴えるこのCMはショッキングであり、実際に胸を打つ。だから小泉今日子が一躍脚光を浴び、アイドルとなる展開にも納得させられるのである。

残された短い命を懸命に生きようとする小泉今日子のひたむきさがとても良い。三上博史とのラブシーンには際どいセリフと場面があり、大人っぽい魅力も見せてくれる。前作はスラップスティック過ぎてそれほど好きではなかったが、今回はよく練られた脚本と的確な演出、出演者たちの好演に支えられて満足できる映画となった。ガンにかかった病院長が詳しく描かれないとか、コンサート場面で小泉今日子が役柄を離れて自分自身に戻るとかの小さな傷はあるにしても、昨年の収穫の1本であることは間違いない。(1993年2月号)

【データ】1992年 フジテレビジョン=メリエス 1時間50分
監督:滝田洋二郎 製作:村上光一 脚本:一色伸幸 撮影:浜田毅 美術:中沢克己 音楽:梅林茂
出演:小泉今日子 三上博史 真田広之 柄本明 木野花 ベンガル 天本英世 もたいまさこ

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