It's Only a Movie, But …

シネマ1987online

ガマの油

俳優役所広司の初監督作品。主演もしている。何だか変わった映画というのが第一印象で、時々、自主映画風になったり、冗長な部分があったりする。それは初監督作であるための技術的な拙さであると同時に、個性的で作家性を感じさせもする。主人公が森の中で熊と格闘するシーンなど話の本筋とはあまり関係ないシーンとしか思えないが、それ自体は面白い。そしてその後のシーンで主人公は決定的に変わるのだ。主人公が変わる契機に熊との格闘を持って来たのが個性的と思える。もっともこれは原案・脚本の中田琇子(うらら)の個性なのかもしれない。

タイトルの「ガマの油」は主人公が幼い頃に出会ったガマの油売りに由来する。これは役所広司自身の体験という。役所広司はガマの油売りとその妻を天使のような存在にたとえ、時空を超えて登場させる。ガマの油は息子を失った主人公の心の傷を癒やす妙薬でもあるのだろう。

主人公の矢沢拓郎は1日に何億も稼ぐデイトレーダー。豪邸に住み、「どんなもんじゃい」が口癖というスクルージのような嫌な奴である。家族は妻の輝美(小林聡美)と一人息子の拓也(瑛太)。ある日、拓也は少年院を出所する友人の秋葉サブロー(沢屋敷純一)を迎えに行く途中、車にはねられ、意識不明となる。その拓也の携帯にガールフレンドの光(二階堂ふみ)から電話がかかってくる。折り返し電話した拓郎は光に拓也の死を告げられず、拓郎を拓也と勘違いした光をそのままにしておいた。やがて拓也は死ぬ。「暗い墓の中に入れられるなんて、かわいそう」という妻とサブローの言葉に、拓郎は拓也の骨の埋葬場所を探してキャンピングカーでサブローとともに旅に出る。

拓郎は小さいころ、ガマの油売りから「人は二度死ぬ」と聞かされる。一度目は体が死んだ時、二度目は人から忘れられた時。二度死なせないためには思い出さなければいけないという結論は真っ当で、個性的な外観とは裏腹に映画は正統的な終わり方を迎える。個性的でありながら正統派の演技をする役所広司らしいと思うのは牽強付会か。主人公の変化をもっと明確に描くと、良かっただろう。

役所広司はパンフレットのインタビューで監督を志した理由について「今まで、色んな映画に俳優として参加してきていつも思うことは、監督は大変そうだけど、完成した時の達成感は俳優のそれとは比べ物にならないくらいの喜びがあるのではないかと思ってきました」と語っている。役所広司が主演した「パコと魔法の絵本」の監督、中島哲也はホームページに「監督として、演出家として、役所さんは僕よりずっと先にいる。悔しいけど、パコより断然“響く映画”でした」とのコメントを寄せている。考えてみれば、この映画、「パコと魔法の絵本」に通じるところが多かった。

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