It's Only a Movie, But …

シネマ1987online

機動警察パトレイバー2 the Movie

あの完全無欠の前作から早くも4年。再び、特車二課の面々が劇場に帰ってきた。今回のキイワードは“TOKYOウォーズ”。厳戒体制の東京を舞台に緊迫したストーリーが展開される。予告編の絵のタッチがかなりシリアスだったので大いに期待した。そして裏切られることはなかった。「うる星やつら2/ビューティフル・ドリーマー」のように観念的だが、そこが魅力でもある。エンタテインメント志向が前面に出ていた前作とは異なり、押井守は自己の作家性を強く追求し、妥協のない作品に仕上げた。

ストーリーの基になったOVAの「二課の一番長い日」前後編は、余談みたいな話が多いパトレイバーのビデオシリーズの中では異質とも言える力の入った作品だった。自衛隊の一部が突然クーデターを起こし、東京を占拠する。クーデターの首謀者は特車二課第二小隊・後藤喜一隊長のかつての上司。ふだんはボーっとしているが、カミソリの異名を持つ後藤隊長が事件解決に真価を発揮する。

映画の方は単純なクーデターではない。ある日、横浜ベイブリッジにミサイルが投下される。その場面を撮影したビデオテープには自衛隊の主力戦闘機が写っていた。さらに自衛隊の三沢基地から戦闘機が発進、東京へ向かう途中で突然消える。警察は自衛隊のクーデターを疑い、国内の各基地を包囲。東京には警戒のため戦車が出動し、雪の降りしきる中、一触即発の緊張が一気に高まる。そんな折、陸幕調査部の荒川と名乗る男が後藤隊長に接触してくる。二つの事件の背後には元自衛隊員でPKOヘレイバー隊を派遣、自滅した柘植行人がいるらしい。正体不明のヘリコプターと飛行船が空を舞い、そして遂に東京で戦闘が始まる。今はそれぞれ別の道を歩んでいた特車二課の隊員たちは、後藤隊長の指令で再び結集してくる。

前作は泉野明、篠原遊馬の二人の隊員を中心にストーリーが進行したが、今回は後藤と南雲しのぶの二人の隊長がメインキャスト。南雲はかつて柘植の部下だったことがあり、愛人関係にもあったという設定である。全編を貫く緊張感が心地よい。敵の実態がはっきりしない前半には戦争に関する観念的なセリフが多く、耳で聞いただけでは分かりにくい部分もある。それを救っているのは超リアルな絵がもたらすこの緊張感だ。戦争が既に始まっているのかどうかも分からない設定。しかし、危機は確かに目の前にある。コンピューター・ウイルスがレイバーを暴走させ、東京が壊滅しそうになった前作に対して、今回は戦争のシミュレーションが人の心を惑わし、東京を自滅に追い込んで行きそうになる。

押井守はこの映画を「戦争を演出しようとする話」と結論づけている。ただのシミュレーションと思われていた出来事が具現化する瞬間、つまり平和ボケした日本にとって非現実的な戦争が現実となる瞬間を描くことが狙いなのである。「正義の戦争よりも不正義の平和の方がまだまし」という主張もさりげなく込められ、芯の太い作品にしている。

押井守の作品には出来不出来が少なくないが、パトレイバー・シリーズに関してはヘッドギアという集団の総合的な作品なので高い質が保証される。大衆性に乏しく子供には難しいだろうが、作画も伊藤和典の脚本も川井憲次の音楽も一級品だ。(1993年9月号)

【データ】1993年 1時間54分 バンダイビジュアル=東北新社=イング
監督:押井守 演出:西久保利彦 原作:ヘッドギア 脚本:伊藤和典 キャラクターデザイン:高田明美 ゆうきまさみ 音楽:川井憲次
声の出演:富永みーな 古川登志夫 大林隆之 榊原良子 池水通洋 郷里大輔 二又一成 千葉繁 竹中直人 根津甚八

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