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シネマ1987online

ホーホケキョとなりの山田くん

「平成狸合戦ぽんぽこ」以来五年ぶりの高畑勲監督の新作。水彩画調の絵を使い、冒頭と最後の場面を除けば、いしいひさいち原作のエピソードをほぼ忠実にアニメ化している。しかし、困ったことにほとんど笑えない。ほほえましく、クスクス笑いを誘う場面はいくつかあるけれど、続かない。退屈。「火垂るの墓」「おもひでぽろぽろ」というアニメの枠を超えた写実的な傑作を放った高畑監督、今回は題材の選定を誤ったとしかいいようがない。映画が終わって印象に残るのが、矢野顕子の歌「ひとりぼっちはやめた」だけなのでは悲しくなる。

高畑監督はパンフレットにこう書いている。「となりの山田くん」は“一見ギャグ漫画のようにも見えますが、じつは、家族とはなんだろう、ということについて、ひとつの(あくまでも<ひとつの>かもしれませんが)「真実」「ほんとうのこと」が描かれています。だから笑えるのだと思います。”
生真面目な高畑監督らしい言葉だけれど、ギャグの中にいくらかの真実があるのは、どんなギャグでも同じことだろう。だからといって、真実の方に力点を置くのはギャグ漫画の映画化として決して正しくはないと思う。しかもそのやり方が中途半端だ。原作のキャラクターだけを借りてまったく違う映画になっているなら、まだあきらめもつく。しかし、原作のエピソードをなぞりながら、ところどころに芭蕉や蕪村の俳句を入れて自分なりの解釈を示すこの映画のやり方は、ひどい言い方をすれば、野暮である。四コマ漫画のオチは人それぞれに感じ取ればいいのである。解説まがいのものを付け加える必要はない。

恐らく、高畑監督に観客を精いっぱい笑わせてやろうなどという意図は微塵もなかったに違いない。そこがそもそもの誤りなのではないだろうか。まず笑いが先、それから何らかのプラスアルファがあればいいのではないか(なくてもかまわないが)。高畑監督の良識が映画のじゃまをしている。冒頭のキャベツ畑やコウノトリ、桃太郎、かぐや姫などの描写は、なにを今さらという感じがするし、エピソードの羅列で構成が若干平板になった点も惜しまれる。

ただ、水彩画調の絵は悪くない。相当なデジタル技術を使って表現したとはとても思えず、単なる手抜きのような誤解を受けるほど簡単な絵だが、いしいひさいちの原作の雰囲気を損なわずにやるにはこれしかなかったと思う。この映画を写実的にやられたら、ますます笑えなかっただろう。映画の内容も、この絵のように単純にしておけば良かったのにと思う。

「ホーホケキョ」というまったく関係のない言葉がタイトルに付いた理由についてはパンフレットに書いてある。ヒットした高畑作品にはみんな「ほ」の字が入っているから、付けようということになったのだそうだ。「の」の字が入っている宮崎駿作品と同じ理屈で、ジンクスみたいなものだろうが、今回は通用しなかったようだ。

【データ】1999年日本映画 1時間44分
監督・脚本:高畑勲 原作:いしいひさいち 音楽 矢野顕子
声の出演 朝丘雪路 益岡徹 荒木雅子 五十畑迅人 宇野なおみ
 柳家小三治 中村玉緒 ミヤコ蝶々 富田靖子

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