おっぱいバレー
素足の綾瀬はるかがバレーコートに向かう場面でスーッと音が消えていく。あるいはバレーボールを猛勉強した綾瀬はるかが部室に顔を見せる場面で後ろから光りと風を当てる。そういう映像のアクセントがピタリと決まっている。しかしそんな演出の技術的な部分よりも、生徒の信頼を裏切り、「嘘つき」と呼ばれた過去を繰り返さないために誠実であろうとする綾瀬はるかの姿がとても良い。「いい、わたしのおっぱいを見るために頑張りなさい」。このセリフに少しも違和感がないのは変な色が付いてない“スーパーナチュラル”の綾瀬はるかだからこそだろう。思えば、羽住英一郎監督の「逆境ナイン」はスポ根の枠組みを借りた変格青春コメディ映画だったが、今回は真っ当な作劇と演出で極めて気持ちの良い青春映画となった。羽住監督最良の作品だと思う。
1979年の北九州市が舞台。新任の臨時教師・寺嶋美香子(綾瀬はるか)は部員が5人しかいない男子バレーボール部の顧問となる。バレーボール部なのにバレーボールをやったことがなく、女子チームに1点も取れずに負けてしまい、バカ部と呼ばれるどうしようもないチーム。「あなたたちが頑張るなら、先生何でもするから」という美香子に対して生徒たちは「じゃあ、今度の大会で僕たちが1勝したら先生のおっぱい見せて下さい」と頼む。美香子は前の学校で「受験前なのに先生がシーナ&ロケッツのコンサートに誘ったんですか」と問い詰められて否定し、生徒から「嘘つき」と呼ばれた苦い過去がある。だから今回は嫌々ながらも、試合に勝ったらおっぱいを見せるという約束をすることになる。
最初から最後までおっぱいを見るために頑張るバレー部の成長を描くというよりも美香子の教師としての成長を描くのが映画の主眼。美香子は中学生のころ(演じるのは「SAYURI」の大後寿々花)、万引で停学になった時に指導した教師の影響で教師を志した。このエピソードが泣かせるし、物語に奥行きを与えている。脚本は「いま、会いにゆきます」の岡田惠和。亡くなった恩師の自宅で自分が落書きをした本を見つける場面は恩師の人柄をくっきりと浮かび上がらせたうまいシーンだ。
公衆電話ボックスや古いモデルの自動車など70年代の時代色を出した北九州の町並みが良い。「ルージュの伝言」や「風を感じて」「微笑がえし」など70年代のヒット曲が次々に流れるのは羽住監督が映画「グローイングアップ」を目指したからだという。オールディーズを流す手法は同じでも、あの下品なだけのイタリア映画と比べるのも愚かと思えるほど良い出来だった。