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シネマ1987online

男たちの大和 YAMATO

「男たちの大和」チラシ

辺見じゅんの同名ノンフィクションの映画化で、大和の乗組員に焦点を絞った話である。語り手役は海軍特別年少兵として大和に乗艦した神尾克己(松山ケンイチ)。神尾は生き残り、現在は鹿児島県枕崎市で漁師になっている(現在の神尾役は仲代達矢)。そこへ同じく大和乗組員だった内田守の娘(鈴木京香)がやってくる。娘は父親の遺骨を大和が沈んだ海に散骨したかったのだ。神尾は自分の小さな船で大和の沈んだ海域まで娘を連れて行くことになる。そして大和の運命と乗組員たちを回想する。

一般の兵士に焦点を当てた戦争映画と言えば、「二百三高地」(1980年)「大日本帝国」(1982年)の笠原和夫脚本とついつい比較したくなる。「三反百姓には現金収入がないんです」。神尾の友人の西が「なぜ志願したのか」という神尾の母親に対してそう答える場面があるが、笠原和夫ならば、これを膨らませて観客の紅涙を絞っただろう。実際、「二百三高地」には東北の貧しい農村出身の男の話があった。戦争に行かされるのはいつも貧しい層なのだ。上が始めた戦争で庶民がばたばたと犠牲になる。そうした庶民の思いを描き尽くしていただろう、笠原和夫ならば。「さようならあ、おかあさーん」。出撃を前にした年少兵たちが本当にそう言ったのかどうかは知らないが、描き方としてもう少しリアルなものが欲しい。これに限らず、この映画のセリフは下手である。真に迫っていない。だから設定は悪くないのに心を動かされない。佐藤純弥は誰かに脚本の応援を頼む気持ちはなかったのか。右も左もない、庶民の思いをすくい上げることのできる脚本家がこの映画には必要だったのだと思う(当初は野上龍雄が脚本を書いたが、途中で降板したそうだ。クレジットはされていない)。

映画は大和の実寸大セットを6億円かけて造ったそうだ。これがいかにも作り物という感じなのは興ざめだが、それ以上に戦闘シーンの工夫のない撮り方の方が問題だろう。大和の全体構造さえ分からず、爆撃を受けて死んでいく兵士を単調に積み重ねるのみ。撮影監督の阪本善尚は「パール・ハーバー」のようにならないようにと注意したそうだが、「パール・ハーバー」の方がましだった。全体としてひどい出来ではないのだが、凡庸を絵に描いたような映画。描きたい思いはあるのに技術が伴わなかったということか。もっとしっかり作ってほしかった。

俳優の序列では中村獅童と反町隆史がトップに来るが、映画の構成では神尾役の松山ケンイチが中心になってしまう。これも計算違いだろう。東映配給の大作らしく渡哲也や林隆三、奥田瑛二、長嶋一茂、本田博太郎、勝野洋などがチラリと顔を見せる。チラリとしか出てこない俳優では寺島しのぶが良く、中村獅童との絡みの部分でドラマの雰囲気が立ち上る。

【データ】2005年 2時間23分 配給:東映
監督:佐藤純弥 製作総指揮:高岩淡 広瀬道定 製作:角川春樹 原作:辺見じゅん「男たちの大和」 脚本:佐藤純弥 撮影:阪本善尚 音楽:久石譲 美術:松宮敏之 近藤成之
出演:反町隆史 中村獅童 鈴木京香 松山ケンイチ 渡辺大 内野謙太 崎本大海 橋爪遼 山田純大 高知東生 平山広行 森宮隆 金児憲史 長嶋一茂 蒼井優 高畑淳子 余貴美子 池松壮亮 井川比佐志 勝野洋 本田博太郎 林隆三 寺島しのぶ 白石加世子 奥田瑛二 渡哲也 仲代達矢

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