ウォーターボーイズ
男子高の唯一の水泳部員がひょんなことからシンクロナイズド・スイミングを始める青春映画。なんだか「リトル・ダンサー」みたいなシチュエーションだが、感動的な展開だったあの映画とは異なり、こちらはゲラゲラ笑って見終わる。下品な笑いはなく、実にさわやか。気持ちがいい。矢口史靖監督の演出はスピーディーかつ的確で、くだらないしみじみやペーソスとは無縁のカラリとした世界。あれよあれよと言う間の1時間31分である。細かいギャグとアイデアが詰め込んであり、充実した映画に仕上がっている。ただし、クライマックスのシンクロのシーンがそれなりに見応えがあるのを認めた上で言うと、ややぎこちない部分も残る。ハリウッドがリメイクしたいといってきたらしいが、ハリウッド(のミュージカルに精通した監督)なら、ここをミュージカル的に素晴らしいシーンにしてくれるのではないか。
3年生最後の大会で唯野高校唯一の水泳部員・鈴木智(妻夫木聡)が100メートルを泳ぎ終わると、コースの左右に他の選手がいない。まだ他の選手はゴールしていないのか? 「え、まさか」とつぶやく智に「早く上がれよ」の声。何のことはない、他の選手はとっくにプールから上がっていたのだった。というオープニングから快調そのもの。廃部寸前だった水泳部はスタイル抜群の若い佐久間先生(眞鍋かおり)が顧問になったことで、活気を帯びる。佐久間先生を目当てに28人が加入するのだ。しかし、佐久間先生、実は水泳ではなくシンクロの先生であることが分かり、一挙に5人にまで減ってしまう。男子のシンクロに意欲を燃やす先生は文化祭で披露することを勝手に決めるが、なんと妊娠8カ月であることが判明(確かに水着になったら、おなかの出っ張りが目立った)。出産準備のため実家に帰ってしまう。「あとは自分たちで頑張ってね」。このあたりのつるべ打ちのギャグが最高である。智たち同様、観客もあっけにとられるほかない展開。
5人はこれ幸いと文化祭での発表は取りやめにする。しかし、周囲からバカにされたのに腹を立て、やはり文化祭を目指すことになる。ところが、プールは既にバスケットボール部が釣り堀にするため、魚を放流していた。「魚をすべてすくい上げたら、プールを使わせてやる」とのバスケット部と魚屋のおっさん(竹中直人)の言葉にカチンと来ながらも5人は魚をかき集めようとする。水を抜いて捕まえようとしたのはいいが、途中でガードマンに見つかり、作業は中断。魚がすべて死んでしまう。こうなったら、文化祭で入場料を取って弁償するしかない。という風に追いつめられた設定を用意しているのが非常にうまい。
落ちこぼれの生徒が困難を克服しながら目標に突っ走るというのはスポーツ映画の常套的描き方。「がんばれ! ベアーズ」や「タイタンズを忘れない」まで必ずこういう展開を用意している。矢口監督はそうしたスポ根映画になるのを嫌ったそうで、確かにスポ根とは異なるベクトルの笑い満載の青春映画になっている(文化祭の最大の目標が近くの桜木女子高の生徒をいかに多く集めるか、という点で実行委が一致するのがおかしい)。しかし、成功の要因はやはり落ちこぼれがヒーローになるというスポ根映画の快感にある。この映画はその過程にギャグをたくさん詰め込んでいるので、単純なスポ根映画には見えないが、路線としては同じだろう。だから生徒たちがシンクロの専門家に教わらず、独力で上達するのがちょっと気になる。佐久間先生に話を聞きに行くとか、そんな専門家に教わるシーンを少し入れれば、説得力は増したと思う。
主人公をはじめ高校生を演じる役者たちはややオーバーアクト気味で、決して演技がうまいわけではないが、実に好感が持てるキャラクターばかり。主人公のガールフレンドで空手の達人を演じる平山綾もいいし、水族館のイルカの調教師役で5人に(いいかげんな)合宿特訓をする竹中直人も「Red Shadow 赤影」よりおかしかった。
【データ】2001年 1時間31分 配給:東宝
監督:矢口史靖 製作:宮内正喜 平沼久典 塩原徹 脚本:矢口史靖 撮影:長田勇市 美術:清水剛 音楽:松田岳二 冷水ひとみ 装飾:鈴村高正
出演:妻夫木聡 玉木宏 三浦哲郁 近藤公園 金子貴俊 平山綾 眞鍋かおり 竹中直人 杉本哲太 谷啓 柄本明 徳井優