アキラ
待望の映画化と言うべきだろう。原作は第4巻までで300万部の大ベストセラー。それが原作者の大友克洋自身の手で、アニメになるというのだからファンにはたまらない。「幻魔大戦」でキャラクター・デザインを担当し、「迷宮物語」と「ロボット・カーニバル」でそれぞれ第3話とプロローグ、エピローグを演出しているとはいっても、長編ではこれが初めてのオール・アバウト大友克洋。僕がどれくらい期待していたかについては、昨年8月号に書いたとおりだ。製作費10億円、セル原画15万枚。これは日本のアニメ史上空前のことで、恐らく絶後にもなるのではないか。
原作はまだ完結編の第5巻が出ていないから、映画の方は設定だけは同じだが、話は大幅に簡単にしてある。核戦争後に構築された2019年のネオ東京。暴走族の金田と鉄男がある夜、事故を起こしたことから政府の極秘プロジェクトに巻き込まれていく。鉄男は薬を投与され、超能力を得る。同じ能力を持つ少年たちはほかにもおり、それぞれ番号が付けられている。その中心が、アキラ(28号)と呼ばれる少年である。アキラはデュワー壁に囲まれた絶対零度の中に閉じ込められている。鉄男はそのアキラに接触を図る…。
これは単純に超能力SFと見ることもできる。薬を投与した結果の超能力とは、スティーブン・キング「ファイアスターター」を想い起こさせる。しかし、アキラの能力はこれまでのSFに登場したどの超能力者と比べても桁違いに大きい。「伝説巨神イデオン」の無限エネルギー・イデのように、宇宙の根源にある力と深くかかわっているようだ。少年たちは兵器として開発された。その力を制御できなかったために東京は壊滅した。核爆発を起こしたのはアキラなのだ。
映画はアキラの謎を解き明かしながら、鉄男と金田の確執を描いていく。幼いころから金田に主導権を取られてきた鉄男は、金田に対して愛憎半ばする感情を抱いており、超能力を得たことでそれが一気に表面化してしまう。大友克洋はこの二人の確執に焦点を当てることに力を入れている。SF的で難解なラスト(これは主に説明不足のためだ)があるにしても、これは結局、金田と鉄男の物語として収斂していく。だから、「ファイアスターター」がそうであったように設定はSFでもテーマ的にはSFとしてそう深くはない。原作との一番の違いはそこだろう。まだ完結していないから分からないのだが、劇画の「アキラ」は宇宙の力とアキラの関係をもっと詳しく描きこむのではないか。映画では、ケイが金田に少し説明するだけだ。
サイバーパンクSFに特徴的なジャパネスク趣味が、当然のことながらこの映画にはあふれており、緻密な作画と相まって独特の世界を作りだしている。そうでなくても日本のアニメは世界のトップレベルにあるのだから、外国にも十分通用するだろう。ただ、アニメーテイングに関しては、宮崎駿の諸作に比べるとスピード感で劣る面があることは否めない。前半のゆったりとしたペースに比べて、後半が駆け足になったのも残念である。
ともあれ、これが画期的な作品であることは間違いなく、芸能山城組の音楽を使ったセンスの良さとも併せて大いにほめておこう。あとは来年発売される第5巻を首を長くして待つだけである。それこそが本物のアキラなのだ。(1988年8月号)
【データ】1988年 2時間4分 アキラ製作委員会
監督・原作・脚本:大友克洋 脚本:橋本以蔵 作画監督:なかむらたかし 美術:水谷利春 撮影:三沢勝治 音楽:山城祥二
声の出演:岩田光央 佐々木望 小山芙美 玄田哲章 大竹宏 北村弘一 池水通洋 渕崎由里子 大倉正章 荒川太郎 草尾毅