ISOLA 多重人格少女
同じ超能力者を主人公にしていても、紛れもないホラーの「リング0」と違って、これはSFとミステリー方面にシフトしている。人の意識を読む超能力者(エンパス)が多重人格の少女を救おうとする話。少女には13番目の人格として邪悪なISOLAが宿っているが、実はこの人格、他者の霊魂だったという筋立てで、阪神大震災直後の神戸を舞台にストーリーが繰り広げられる。題材を詰め込みすぎたためか、どのエピソードも未消化に終わった感がある。sfxの予算も十分ではなかったようで、テレビの2時間ドラマを見ているような気分になった。
超能力者の賀茂由香里(木村佳乃)が震災直後の神戸にボランティアとしてやってくる。由香里は人の意識が自分の中に流れ込んでくるのに耐えられず、向精神薬でそれを抑えている。神戸の街で不思議な少女千尋(黒沢優)と出会った由香里は心理カウンセラーの野村浩子(手塚理美)から千尋が多重人格者であることを知らされる。千尋は幼い頃、交通事故で父母を亡くし、遺産目当ての叔父夫婦に育てられた。叔父から性的虐待を受けたことで、人格が12に分裂。最近、それに13番目の人格ISOLAが加わった。ISOLAは凶暴で他の人格を支配しようとしているという。由香里は千尋を救うことを決意。「雨月物語」の怨霊・磯良(いそら)の話にヒントを得て、ISOLAの秘密を探るため、幽体離脱の実験をしているという高野弥生(渡辺真起子)を訪ねるが、弥生は震災で既に死んでいた。弥生の講師で恋人でもあった真部和彦(石黒賢)によると、弥生は幽体離脱に成功したが、その時に震災に見舞われて死んだのだという。由香里は戻るべき体をなくした弥生の霊が千尋の人格に入ったことを突き止める。
話は悪くない。描写がどれも中途半端なのが敗因だろう。映画初主演の木村佳乃はまずまずなのだが、エンパスの苦悩があまり伝わらない。これをもっと描いてくれないと、なぜ千尋を助けるのか、分からないのである。また、千尋を助けることで自分の能力に自信を持つとか、主人公の人間的成長の描写も必要だったのではないか。これは例えば、「シックス・センス」にもあったし、監督が好きだという「デッド・ゾーン」にもちゃんとあり、こうした悩む超能力者を主人公にした映画には不可欠なのである。クライマックスにもエンパスとしての能力が生かされていず、主人公をエンパスにした必然性が感じられない。原作者の個人的な事情だろうが、物語を震災直後にする必要もなかった。映画としては「リング0」のように原作のストーリーを無視して物語を組み立て直す必要があったのではないかと思う。
【データ】2000年公開 1時間32分 製作:「ISOLA 多重人格少女」製作委員会 配給:東宝 製作総指揮:原正人
監督:水谷俊之 原作:貴志祐介「十三番目の人格 ISOLA」 脚色:水谷俊之 木下麦太 脚本補:桑原あつし 畑島ひろし 撮影:栗山修司 音楽:デイヴィッド・マシューズ 主題歌:氷室京介 ビジュアル・エフェクト:松本肇 杉木信章
出演:木村佳乃 黒沢優 石黒賢 手塚理美 渡辺真起子 山路和宏 寺島進