2008年12月アーカイブ

変格SF青春映画。そんな感じの作品である。クライマックス、宇宙の危機を救うのが「歓喜の歌」と寿司というのは普通では考えられない展開なのだが、三池崇史の映画なら納得するし、見ている限りはそれで良いのだと思えてくる(脚本はNAKA雅MURA=なかむら・まさる)。主演の市原隼人がロックを愛する落ちこぼれの寿司職人で、「ROOKIES」を彷彿させる役柄なのが良い。この映画、市原隼人のむちゃくちゃな元気の良さと谷村美月の魅力で持ってると思う。

前半は「宇宙を作れるか」のディベート、後半はパニックスペクタクル。CGもまず良くできていて、これは後半、本格的なSFに突入するのかと思ったら、「歓喜の歌」と寿司なのである。それでもがっくりする感じにならないのが、面白いところ。なぜ、あの場所にマイクがあったのかという細部はこの際、無視して良い。市原隼人と三池崇史のパワーで見せられるのである。もっとSFっぽくなると、良かったとは思うけれど、これはこれで悪くないと思う。

人工授精で生まれた天才少女穂瑞沙羅華(ほみずさらか)役の谷村美月はいつもジャージを着ていて、スラリと伸びた足とふっくらした胸が印象的。まったく笑顔を見せない演技を見て、ああそうか、「おろち」にも出たんだったなと思い出した。「エコエコアザラク」の黒井ミサも演じられそうだ。その谷村美月の笑顔を最後に見せるのがこの映画の主題でもあったろう。

機本伸司の原作は第3回小松左京賞を受賞したそうだ。ライトノベルっぽい表紙だが、小松左京賞ということなら、ハードSFの要素もあるのだろう。ハルキ文庫に入っているそうなので、読んでみたいと思う。

「K-20 怪人二十面相・伝」パンフレット クライマックス、ビルから落ちる金城武を間一髪、松たか子がジャイロコプターで救いに来る場面を見て確信した。これは「ルパン三世 カリオストロの城」だ。パンフレットのインタビューで監督の佐藤嗣麻子はまったく触れていないけれども、この空中アクションの多さと令嬢の松たか子の在り方、事件が終わった後に思わず2人が抱き合いそうになる場面などなど「カリオストロの城」との類似点が多い。

もちろん、一見すれば、主人公が持つ武器から「バットマン」や「スパイダーマン」を思い起こすのは当然だし、怪人二十面相のダークな扮装は「バットマン」そのものなのだけれど、本筋は「カリオストロの城」である。時代錯誤的な企画としか思えなかったこの題材をエンタテインメントに仕上げた佐藤嗣麻子の手腕は褒められて良い。しかし、それより何より金城武のアクションと山崎貴が加わったVFXを褒めるべきだろう。金城武は演出の緩みが気になったところで軽やかにアクションを見せ、画面を引き締める。こういう優れた俳優を中国や香港映画にばかり出していて良いわけがない。最近の日本のアクション映画の中で出色の快作。シリーズ化を望みたい。

第二次世界大戦が回避された1949年の日本が舞台。そこでは一部の金持ちである華族と貧困層に二分され、両者の間では結婚もできないという厳然とした差別があった。という説明で始まり、上空からVFXで描いた帝都を移すカメラワークが良い。帝都では華族を専門に狙う泥棒の怪人二十面相が暗躍していた。主人公のサーカス団員遠藤平吉(金城武)はカストリ雑誌の記者(鹿賀丈史)から明智小五郎(仲村トオル)と華族羽柴家の令嬢羽柴葉子(松たか子)との結婚式を撮影するよう頼まれる。厳重な警備をかいくぐって天窓から写真を撮ろうとしたその時、ビルの中で爆発が起こり、平吉は怪人二十面相と間違えられて逮捕されてしまう。護送の途中、天才カラクリ師の源治(國村隼)らの手助けで脱走した平吉は無実の罪を晴らすため怪人二十面相を追うことになる。

金城武がビルから飛び降りたり、鉄塔に上ったりするアクションは明らかにワイヤーで吊られているが、それでもアクションに慣れていないとできない動きだろう。この映画、ベタなギャグもあるけれど、ユーモアを散りばめた展開とアクションのバランスが良い。アクション監督は海外の作品にも参加している小池達朗と横山誠。この名前は記憶しておきたい。

帝都には東京タワーのようなタワーがあるが、時代を考えれば、まだできていないはず。昭和33年を舞台にした「ALWAYS 三丁目の夕日」で建設途中の東京タワーを見せた山崎貴の遊び心なのだろう(VFXディレクターは渋谷紀世子で、山崎貴は協力とクレジットされている)。空撮で貧困層の街並みとその奥にある近代的な建物を対比させるのがうまいところで、この帝都もまた現代以上の格差社会なのだ。佐藤嗣麻子はそうした世相を反映させつつ、映画の架空世界を構築している。僕は佐藤嗣麻子作品は吉野公佳主演の「エコエコアザラク」しか見ていないが、あれもまたVFXに見るべき所のあった作品だった。

松たか子はコケティッシュでキュートな役をうまく演じている。國村隼の妻役・高島礼子もユーモラスな部分を見せて良かった。「カリオストロの城」と似ているなと思って見ていると、浪越警部(益岡徹)は銭形警部に見えてくる。

Tokyosonata カンヌ映画祭「ある視点」部門で審査員賞受賞。ようやく見た。リストラされた中年男の家族をめぐる物語で、終盤に非日常的なことが家族それぞれに起こって、バラバラになった家族は再生に向かう。クライマックスのピアノのシーンで弾く手と音が合っていないのは興ざめなのだが、些細な欠点か。厳しい話をファンタスティックに語るところが黒沢清監督らしく、家族を描いてもマイク・リーほど厳しくならず、血の通った自然なユーモアに彩られているのがいい。小泉今日子は「空中庭園」に続いて、どこか憂いのある主婦を演じてうまい。キャスティングした監督にも「空中庭園」の好演が頭にあったのではないか。

46歳で総務課長から突然、リストラされる香川照之の立場が身にしみてよく分かる。この映画が海外でも評価されているのは父親のこうした立場にはどこの国でも共通するものがあるからだろう。香川照之はハローワークに行ったり、公園でホームレスに提供される食事配給の列に並んだりする。そこで同じくリストラされたかつての同級生(津田寛治)に再会する。同級生も失業を家族に言っていなかった。香川照之がリストラを家族に言えないのは家庭での威厳を保ちたいからで、父親としてどう振る舞っていたかは次男(井之脇海)が密かにピアノを習っていることを知った場面のむちゃくちゃで横暴な態度に表れている。

妻はそうした夫の本質を見抜いており、それがどこか憂いを感じさせる描写につながっているのだろう。家族は脆いもので、不協和音を奏で始めると、一気に崩壊していくものなのかもしれない。それが再生するのはそれぞれの非日常的な出来事によって日常の重要性を認識することになったからだ。酔いつぶれて「もう一度やり直したい」とつぶやく夫と、「ここからもう一度スタートしてやり直せるでしょうか」と言う妻。ともに再生の意志があるからこそこの家族は再生していくのだろう。

監督のインタビューによれば、オーストラリア人のマックス・マニックスのオリジナル脚本は父親と次男を中心にしたものだったという。それに監督が長男(小柳友)の米軍入りと母親を連れ去る泥棒(役所広司)の話を付け加えた。これで映画に変化が生まれたが、同時にややリアリティを欠くことにもつながっている。世界的な不況で派遣社員や契約社員が大量に解雇されている現状を考えると、リストラの話に絞り込めば、さらに現実を反映した映画になっていただろう。ただし、家族の再生というテーマは後退するかもしれず、難しいところだ。次男にピアノの「並外れた天才」の才能があったという設定は現実にはありにくいけれども、監督が言う「ある種の希望」を描くためには効果的だと思う。

香川照之が勤めていた会社は健康機器メーカーのタニタ。会社の実名を出すのは珍しいが、タイアップがあったのだろうか。それにしては劇中にタニタの製品は出てこなかったような気がする。小泉今日子が運転する車はプジョー207CC(クーペカブリオレ)。これは2回も出て来て、PR効果が大きい扱いだった。買いたくなった人がいるのではないか。

パンフレットは残念ながら完売。写真はチラシ。

「ターミネーター4」は「3」の話をなかったことにして話が作られているらしい。その代わりに「2」と「4」をつなぐのがアメリカで1月から始まった「ターミネーター サラ・コナー クロニクルズ」。予告編は以下。

サラ・コナー役は「300」のレナ・ヘディ。ジョン・コナーはトーマス・デッカー。この親子を守る少女のターミネーターが出てくる。ファーストシーズンのDVDは1月に発売される。amazonを見たら、1、2話が880円ぐらい。3?9話が6000円弱。amazonには「24」を上回る視聴率とあるが、Wikipediaには「視聴率は良くない」とある。アメリカのテレビシリーズの常で、出だしは面白くてもそのうちに失速するパターンなのかもしれない。

でも、まあ「ターミネーター4」の見る前の予習を兼ねて注文。1、2話が届くのは1月8、9日ごろか。

amazonと言えば、ミステリマガジンのレビューで「恐怖の足跡 ビギニング」が紹介されていて、興味を持ったので買ってしまった(980 円)。「怪奇映画マニアの間で幻の怪作」と言われている1961年の作品。引用すると、「暑苦しい夜を過ごす女性の悪夢?殺人、ドラッグ、デブ男の恐怖、幼い日のトラウマ?を一夜の出来事として描く中編映画で、全編スタイリッシュというか不可思議な映像と音楽で構成されている」とのこと。

ゴールデングローブ賞のノミネート作品が発表された。 作品賞は
「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」
「レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで」
「スラムドッグ・ミリオネア(原題)」
「Frost/Nixon」
「The Reader」

の5本。この「The Reader」は「朗読者」の映画化。ベルンハルト・シュリンクの原作は数年前に読んだ。amazonからあらすじを引くと、「15歳の少年ミヒャエル・バーグは、謎めいた年上の女性ハンナとの激しい恋の虜になる。だが彼女の身の上についてはほとんど知らないうちに、ある日ハンナはミヒャエルの前から姿を消してしまう。…二度と彼女に会うことはないと思っていた彼だったが、戦慄(せんりつ)の再会が実現する」。ナチスのホロコーストが絡んでくる話で、監督がスティーブン・ダルドリーなので期待できそうだ。

ノミネートの詳細は以下。
http://www.varietyjapan.com/news/movie/2k1u7d00000guwox.html

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