「トウキョウソナタ」

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Tokyosonata カンヌ映画祭「ある視点」部門で審査員賞受賞。ようやく見た。リストラされた中年男の家族をめぐる物語で、終盤に非日常的なことが家族それぞれに起こって、バラバラになった家族は再生に向かう。クライマックスのピアノのシーンで弾く手と音が合っていないのは興ざめなのだが、些細な欠点か。厳しい話をファンタスティックに語るところが黒沢清監督らしく、家族を描いてもマイク・リーほど厳しくならず、血の通った自然なユーモアに彩られているのがいい。小泉今日子は「空中庭園」に続いて、どこか憂いのある主婦を演じてうまい。キャスティングした監督にも「空中庭園」の好演が頭にあったのではないか。

46歳で総務課長から突然、リストラされる香川照之の立場が身にしみてよく分かる。この映画が海外でも評価されているのは父親のこうした立場にはどこの国でも共通するものがあるからだろう。香川照之はハローワークに行ったり、公園でホームレスに提供される食事配給の列に並んだりする。そこで同じくリストラされたかつての同級生(津田寛治)に再会する。同級生も失業を家族に言っていなかった。香川照之がリストラを家族に言えないのは家庭での威厳を保ちたいからで、父親としてどう振る舞っていたかは次男(井之脇海)が密かにピアノを習っていることを知った場面のむちゃくちゃで横暴な態度に表れている。

妻はそうした夫の本質を見抜いており、それがどこか憂いを感じさせる描写につながっているのだろう。家族は脆いもので、不協和音を奏で始めると、一気に崩壊していくものなのかもしれない。それが再生するのはそれぞれの非日常的な出来事によって日常の重要性を認識することになったからだ。酔いつぶれて「もう一度やり直したい」とつぶやく夫と、「ここからもう一度スタートしてやり直せるでしょうか」と言う妻。ともに再生の意志があるからこそこの家族は再生していくのだろう。

監督のインタビューによれば、オーストラリア人のマックス・マニックスのオリジナル脚本は父親と次男を中心にしたものだったという。それに監督が長男(小柳友)の米軍入りと母親を連れ去る泥棒(役所広司)の話を付け加えた。これで映画に変化が生まれたが、同時にややリアリティを欠くことにもつながっている。世界的な不況で派遣社員や契約社員が大量に解雇されている現状を考えると、リストラの話に絞り込めば、さらに現実を反映した映画になっていただろう。ただし、家族の再生というテーマは後退するかもしれず、難しいところだ。次男にピアノの「並外れた天才」の才能があったという設定は現実にはありにくいけれども、監督が言う「ある種の希望」を描くためには効果的だと思う。

香川照之が勤めていた会社は健康機器メーカーのタニタ。会社の実名を出すのは珍しいが、タイアップがあったのだろうか。それにしては劇中にタニタの製品は出てこなかったような気がする。小泉今日子が運転する車はプジョー207CC(クーペカブリオレ)。これは2回も出て来て、PR効果が大きい扱いだった。買いたくなった人がいるのではないか。

パンフレットは残念ながら完売。写真はチラシ。

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コメント(4)

職業上、契約社員や正社員の解雇の話は今だからこそ、おそろしい程にリアリティがあります。
小泉今日子に対してもだけど、香川照之の立場や気持ちも痛いくらいに共感します。
日頃の夫婦間での相手に対する心の開き具合で、どの時点で事実を打ち明け問題を分かち合えるのかが
変わってくるというのもあるのかな。
40代50代の男性に自殺が多いのは単なる更年期というだけではなく、夫婦のあり方にも要因があるような気もします。
・・・とも一概には言えないか・・。
いろいろと考えさせられる映画でした。
でも、最後は一筋の希望が見えて少なからずホッとさせられました。
曲に指があっていない事なんてちっとも気になりませんでしたよ。(^^;

弾くところを見せるのであれば、きっちり合わせて欲しいです。
総務課長のリストラも現実にはあまりないような気がします。むしろ部下をリストラする側でしょう。

中高年の自殺は仕事上の悩みが主ではないでしょうかね。中間管理職は上からも下からも責められますから。

ふふふ・・・
どこか憂いを?・・・って、あれぐらいのもん、主婦なら誰だって秘めてますってVVV

ああ、そうでしょうかね。
45さんの場合は分かる気もするけど、誰でもってことはないと思うんだけど(^^ゞ

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このページは、hiroが2008年12月21日 08:48に書いたブログ記事です。

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