2001年の宮崎の映画界最大のトピックはなんといっても宮崎キネマ館の開館に尽きると思う。宮崎東映の閉館で見られなかった東映作品がこれで見られるようになったほか、単館系の作品を積極的に上映していく方針には頭が下がる。たぶん、宮崎の映画状況は九州では福岡に次いで良くなったはずである。オープンまでが大変だったが、単館系の作品で観客を集めるのもなかなか難しいと思う。しかし映画ファンとしては大いに支援していきたい。今後も頑張って欲しい。
奇しくもそのキネマ館で上映された「GO」と「初恋のきた道」が邦画・洋画の1位となった。 「GO」はキネマ旬報ベストテンでも1位。主演女優賞を除く監督、主演男優、助演男優、助演女優、脚本、新人男優を制した。在日韓国人の主人公(窪塚洋介)の日常とラブストーリーを描いて2時間2分をエネルギッシュに駆け抜ける。主人公の環境には重たいものがあるのだが、それを真正面から深刻に取り上げず、青春映画として進行する構成がいい。宮藤官九郎の脚本は直木賞受賞の原作をさわやかにまとめている。「バトル・ロワイアル」(3位)で強烈だった柴咲コウをはじめ出演者たちが端役に至るまで好演しているのは監督の行定勲の演出力に負うところが大きいと思う。
2位に入った「千と千尋の神隠し」はベテラン宮崎駿の集大成的な作品。日本の興行収益記録を塗り替える大ヒットとなった。映画館は超満員で整理券を発行。個人的には2度行っても映画館に入れず、公開から1カ月後、3度目にしてようやく見ることができた。小学生の千尋が不思議な世界に迷い込み、豚になった両親を助けようと奔走する。宮崎駿は異世界の物語で現代の日本を語り、10歳の少女に託して人間の本質を語っている。物語に身を委ねることの快楽を覚えずにはいられず、続きの物語を知りたくてたまらない気持ちに駆り立てられてしまう。登場する神々の造型などアニメの技術も含めて恐ろしく完成度の高い作品だ。
昨年は超ベテランと若手の活躍が目立った年だった。若手としては行定勲のほかに7位「ウォーターボーイズ」矢口史靖がいる。高校の水泳部員がひょうんなことからシンクロナイズド・スイミングを始める青春映画。脳天気な内容なのだが、エンタテインメントの定石を踏まえており、きっちり楽しませてくれた。一昨年の「スペース・トラベラーズ」で芳しい評価を得られなかった本広克行は自分の思念波(意思)を周囲10メートルに発散してしまう能力者を描いた「サトラレ」(9位)で名誉を回復。「バトル・ロワイアル」で殺人鬼を演じた安藤政信が純真な青年を演じて好感を持たせた。
ベテランの代表と言えば、「バト・ロワ」の深作欣二もだが、「かあちゃん」(8位)の市川崑。これでなんと75作目である。山本周五郎の原作を基に人情長屋の時代劇を手堅くまとめた。銀残しと呼ばれる現像など技巧派の側面が健在なのがうれしい。ベストテンには入らなかったが、11位「赤い橋の下のぬるい水」の今村昌平も健在ぶりを示した。かつての粘着質の描写は影を潜めたものの、女性の性を取り上げるところはいかにも今村昌平らしい。
中堅の阪本順治「顔」(3位)、市川準「東京マリーゴールド」(5位)も充実していた。前者は藤山直美、後者は田中麗奈の好演が光る。藤山直美は映画の主演は初めてなのに存在感があった。黒沢清「回路」(10位)は幽霊の侵食で破滅していく世界を描く。物語のオリジナリティーと描写の怖さにかけては一級品だ。残念なのは「風花」(6位)が遺作になってしまった相米慎二。既に傑作を何本も残したとはいえ、まだまだこれからの人だった。53歳での死は早すぎる。冥福を祈りたい。
映画には賛否両論、毀誉褒貶が付き物だが、1位の「初恋のきた道」に限っては悪評を聞いたことがない。完璧な作品ではないけれど、主演のチャン・ツィイーのかわいさと少女の恋の一途な思いが万人に共感を与えたためだろう。はっきり言って、このストーリー、ツィイーほどかわいい女優が演じなければ、ストーカーまがいのシーンもあるのだ。一部の評論家にのみ評価される監督だったチャン・イーモウは美しい風景の中で恋の物語を叙情的に描き、圧倒的な大衆性を得た。これは貴重なことだと思う。ツィイーは「ラッシュ・アワー2」にも出演したが、悪女役のうえにセリフもクロースアップも少なく、大いに不満の仕上がり。魅力を十分に伝える監督を選んで大女優になっていってほしい。
2位の「リトル・ダンサー」はイギリスの炭坑町の少年エリオット(ジェイミー・ベル)がバレエに目覚め、一流ダンサーを目指す。父親と兄は炭坑で働いているが、ストライキで失業中。ストを破って炭坑で働けば、労働組合の仲間から裏切り者と非難される。しかし、ビリーの父親はそれを承知で息子の夢をかなえる資金を得るためにスト破りをしようとする。といったドラマ部分がしっかり作られているうえに、ジェイミー・ベルの感情を表現するダンスがとにかく素晴らしい。ジョー・ジョンストン「遠い空の向こうに」のバレエ版といったプロットで、「ダンサー・インザ・ダーク」に苦い思いをしたミュージカルファンにお薦め。そのジョンストンの「ジュラシック・パークIII」はスピルバーグの前作より良い出来なのに、ベストテンには入らず。個人的には好きな作品だが、さすがに3作目ともなるとインパクトが薄れるのは仕方ない。
「トラフィック」(3位)はアメリカの麻薬戦争を描いた力作。元になったのはイギリスのテレビシリーズで、ソダーバーグはそれをアメリカに置き換え、緊密な演出で傑作に仕上げた。複数のドラマが同時進行する脚本を混乱なくまとめた手腕は大したもの。主演のマイケル・ダグラスよりメキシコの警官を演じるベニチオ・デル・トロの演技が圧倒的だった。ドラッグと言えば、「キス・オブ・ザ・ドラゴン」(9位)。中国の麻薬捜査官ジェット・リーがパリに行き、麻薬組織のボスを追いつめる。決してA級の大作ではないけれど、リーのアクションはキレが良く、娼婦役のブリジット・フォンダも哀愁を漂わせた。監督は新人クリス・ナオン。映画の雰囲気は製作・脚本のリュック・ベッソンの映画によく似ていた。もう1本、ベストテンにかずりもしなかったが、「レクイエム・フォー・ドリーム」を忘れてはいけない。ロマンティックな題名とは裏腹の凄まじい描写に終始する。ダーレン・アロノフスキーの映像タッチは独自のものである。
4位は「ショコラ」と「スターリングラード」。「ショコラ」は人を幸福にするチョコレートを作る親子の話。ラッセ・ハルストレム監督は寓意に満ちた話をチョコレートのように甘く心地よく映画化してうまい。「スターリングラード」は実在のスナイパーがモデル。スナイパー同士の対決に力点を置いた冒険小説風のプロットがよく、ジュード・ロウの魅力満載だった。
SFでは「ギャラクシー・クエスト」(7位)も面白かった。テレビシリーズ「ギャラクシー・クエスト」の俳優たちが遠い星に住むサーミアンたちの頼みで、実際のスター・ウォーズに参加させられる。コメディタッチで進みながら、基本的にはSF作品とファンとの関係を幸福に描いており、SFファンの共感を集めた。2000年度のヒューゴー賞映像部門で最優秀作品賞を受賞したのも当然なのである。「オーロラの彼方へ」(10位)は時間テーマのSF。30年前の父親と無線通信した主人公が父親の死を避けようと、必死のアドバイスを送る。前半は父と子の関係がウェルメイドに描かれるのに、後半はよくあるサイコものになったのは残念。自分たちだけ幸せになれば歴史を変えてもいいのか、という疑問も少し残った。