トイ・ストーリー2

TOY STORY 2

「トイ・ストーリー2」 4年ぶりの続編でピクサーの長編CGアニメ第3弾。盗まれたウッディを救うため、バズとスリンキー・ドッグ、ミスター・ポテトヘッド、レックスらおなじみの面々が大活躍する。第1作のような意外性はないけれど、脚本にアイデアを詰め込み、スピーディーな展開でまず飽きさせない。おもちゃの幸せというおもちゃたちにとって重要なテーマも掘り下げられている。最先端の技術にオーソドックスな(定石を踏まえた)脚本を組み合わせた所にピクサーの利点はあり、プロットの重要性を製作者たちはよく分かっていると思う。技術的にはマニアックでもお話は圧倒的な大衆性を備えているのだ。いくつかの傷を挙げれば、テーマに本質的な結論がないことと、クライマックスが前作のだめ押し的アクション(前半から伏線が張られていた)よりは劣ること。これがどうも「大変よくできた続編」という印象にとどまる原因のようだ。

まるで「スター・ウォーズ」のような宇宙の戦闘場面で幕を開ける。なんだなんだと思っていたら、これはバズ・ライトイヤーが活躍するゲームの場面だった。おもちゃたちは相変わらず、幸せな日々。前作のラストでアンディに贈られた犬もウッディはすっかり手なずけている。事件は壊れたペンギンおもちゃウィージーをママがヤード・セールに出そうとしたのが発端で、ウッディはウィージーを救うが、自分はセールの箱の中に。マニアックなコレクターのアルから目を付けられ、盗まれてしまう。ウッディは実はかつてのテレビシリーズの人気者だった。アルは日本の博物館(!)に高額で売りつけようとしており、ウッディが連れてこられたアルの部屋にはテレビシリーズでウッディの恋人を演じたジェシーと愛馬ブルズアイ、炭坑夫のプロスペクターがいた。一方、ウッディが盗まれたのを目撃したバズたちは決死の救出作戦を展開する。

快活なジェシーのキャラクターは今回の映画の魅力の一つ。それだけでなく、ジェシーは大人になった持ち主から飽きられ捨てられた悲しい過去を持つ−という設定も深みを持たせている。“When she loved me”という歌に合わせて綴られるこの場面はなかなか泣かせる名場面だ。子どもはいつか成長し、おもちゃに飽きるという現実は、前作の別の新しいおもちゃに興味が移り、飽きられるというテーマとも符合している。プロスペクターも博物館に行くことを望んでいるが、ウッディが一緒でなければ、博物館は引き取らない。アンディの元へ帰るか、博物館のガラスケースで余生を過ごすか、ウッディは究極の選択を迫られることになる。

ピクサーの映画で感心するのはこうしたきちんとしたテーマを持ちながら、決して教条主義的にならないことで、映画はアクションと笑いを織り交ぜて楽しく進行する。洗練されているのである。冒頭の宇宙の場面に登場する悪役ザークが中盤にも登場し、それこそ「スター・ウォーズ」のようなセリフを吐く場面には大笑い。ポテトヘッドがバービー人形を見て「俺にはかみさんがいる、かみさんがいる」と自分を抑える場面など楽しい。またもう一人のバズが登場し、前作の前半のバズとまったく同じ性格なのにも笑った。キャラクターが立っており、画面の隅々まで手を抜いていないのである。今回の作品もビデオ化されたら、子どもたちは絵本のように何度も何度も繰り返し見るだろう。ピクサーは宮崎アニメのようなブランド・イメージを確立したようだ。

僕が見たのは日本語吹き替え版。ウッディ役の唐沢寿明、バズ役の所ジョージとも前作に続いて大変うまい。セリフだけでなく、ちゃんと画面の文字も日本語になっていた。仕事が丁寧ですね。

【データ】1999年 アメリカ 1時間32分 ウォルト・ディズニーピクチャーズ/ピクサー提供 ブエナ・ビスタ・インターナショナル配給
監督:ジョン・ラセター 共同監督:リー・アンクリッチ アッシュ・ブラノン 製作総指揮:アラ・マッカーサー 原案:ジョン・ラセター ピート・ドクター アッシュ・ブラノン カレン・ロバート・ジャクソン 脚本:アンドリュー・スタントン リタ・シャオ ダグ・チャンバリン クリス・ウェッブ 音楽:ランディ・ニューマン 撮影:シャロン・カラハン プロダクションデザイン:ウィリアム・コーン ジム・ピアソン ストーリー監修:ダン・ジュープ ジョー・フラント 
声の出演(カッコ内は日本語版):トム・ハンクス(唐沢寿明)ティム・アレン(所ジョージ)ジョーン・キューザック(日下由美)ケルシー・グラマー(小林修)ドン・リックルズ(名古屋章)ジム・バーニー(永井一郎)ウォーレス・ショーン(三ツ矢雄二)ジョン・ラッツェンバーガー(大塚周夫)アニー・ポッツ(戸田恵子)ウェイン・ナイト(樋浦勉)ジョン・モリス(北尾亘)ローリー・メトカーフ(小宮和枝)エステル・ハリス(楠トシエ)R・リー・アーメイ(谷口節)ジョナサン・ハリス(佐々木梅治)ジョー・フラント(佐古正人)アンドリュー・スタントン(佐々木梅治)ジェフ・ピジョン(桜井敏治)

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シュリ

SHURI

「シュリ」韓国映画史上最大のヒットとなったというアクション大作。朝鮮半島分断の悲劇とラブロマンスにアクションを加えた娯楽映画−と表面的にとらえても構わないし、事実そういう部分もあるのだが、この映画が普遍性を持ち得ているのはひとえに破壊工作を行う北朝鮮特殊部隊の動機に説得力があるからにほかならない。クライマックス、特殊部隊の隊長パク・ムヨン(チェ・ミンシク)が腹の底から絞り出すようにして吐くセリフには心を打たれる。「チーズとコーラとハンバーガーか。おまえたちがそんなものを食べている間に北の人民は飢えに苦しんでいる。飢えて自分の子どもの肉を食べる父と母の気持ちがおまえに分かるか」。「祖国統一を掲げる政治屋たちを信じたばかりに俺たちは苦しんできた。50年間も騙されれば、もうたくさんだ」。

このクライマックスで部隊は北と南の政治家両方を倒し、革命を起こして祖国統一を図ろうとしていることが明らかになる。単なる北の工作員ではなく、腐った体制への反逆部隊なのである。つまりこの映画は北と南の対立ではなく、体制側と反体制側の抗争を描いた映画なのである。反体制側の部隊が国家の手先に過ぎない諜報員によって倒されるというのが本筋であり、南が北の陰謀を殲滅する映画でないことは強調しておきたい。北も南もない、悪いのは体制だ、という構図は冒険小説の常道であり続けてきたものだ。韓国映画でまさかこんなモチーフに出会うとは思いもしなかった。主人公の恋人が北の工作員とすぐに分かるなどプロットに弱さはあるし、荒削りで演出が緩む場面も確かにあるけれど、この映画の価値を著しく損なうものではない。激しく胸を揺さぶり、熱い血を呼び覚まされるような傑作だ。

冒頭の北朝鮮部隊の訓練場面から画面には力がこもっている。死ぬか生きるかをかけた凄絶な訓練の中で、一人の女性隊員に焦点が絞られる。凄腕のこの女はイ・バンヒ。イはその能力を認められて、韓国に工作員として潜入。次々に要人を倒していく。1カ月後に恋人のイ・ミョンヒョン(キム・ユンジン)との結婚を控えた韓国諜報機関OPのユ・ジュンウォン(ハン・ソッキュ)は同僚のイ・ジャンギル(ソン・ガンボ)とともにイ・バンヒを追うが、なかなか行方はつかめない。同じ頃、国防科学研究所が開発した液体爆弾CTXが輸送中に北朝鮮部隊から略奪される。一味は爆弾をソウル市内10カ所に仕掛けたとOPを脅迫、高層ビルが爆発し多数の死傷者が出る。部隊の破壊工作を止めるため、ジュンウォンは必死の捜査を開始するが、なぜか情報は相手に筒抜けになり、ジュンウォンは内部に裏切り者がいるとの疑いを抱く。

凄腕の女スナイパーと来れば、誰もが思い出すのが「ニキータ」。カン・ジェギュ監督は欧米のアクション映画をよく見ているらしく、「ニキータ」のほかにも「ダイ・ハード」や「ブラック・サンデー」などの影響が見て取れる。銃撃シーンの迫力(音響がもの凄い)は香港映画を参考にしたのかもしれない。しかし、そうした参考作品が透けて見えるにもかかわらず、この映画が優れているのは最初に指摘した通り激しいアクションの必然性(理由)があるからで、最近のアメリカ映画のように大した理由もないのに大がかりな破壊を繰り返すだけのB級作品とは一線を画している。出演者の中では凄みのある顔つきのチェ・ミンソクが素晴らしい。チェを中心にした特殊部隊の視点で描いてくれれば、文句なしに好みの映画になっていたところだ。ちなみにタイトルの「シュリ」とは朝鮮半島の澄んだ川に生息する体長7、8センチの淡水魚で、映画では北朝鮮部隊の作戦名、コードネームとして使われている。

【データ】1999年 韓国 2時間4分 シネカノン/アミューズ配給 製作:サムソン・ピクチャーズ
監督・脚本:カン・ジェギュ 撮影:キム・ソンボク 音楽:イム・ドンジュン アクション監督:チョン・ドゥホン CG監修:チョ・ソンベ 特殊効果:チョン・ドアン 主題歌「When I Dream」キャロル・キッド
出演:ハン・ソッキュ キム・ユンジン チェ・ミンシク ソン・ガンホ パク・ヨンウ パク・ウンスク

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ケイゾク/映画

Beautiful Dreamer

「ケイゾク/映画」 元になったテレビシリーズは見たことがない。映画はまったく説明しないので、後半の描写が良く分からない。監督自身、「あえて知らない人を排除する方向に持っていく、確信犯というか。だから、ぜひビデオを見てから劇場に来てほしいですね」などと言っている(キネマ旬報2000年3月上旬号)。今はまだそれができるにしてもこれから先、数年後、数十年後のことをまったく考えていない映画製作の在り方と言わねばなるまい。刹那的で、とりあえず観客を集めればいいという考えであり、寒々とした気持ちになってくる。もっともテレビシリーズの内容について説明があったところで、この程度の脚本・演出では映画が面白くなるはずがない。いつかどこかで見たようなシチュエーションとトリックばかりを集め、映像の遊びで逃げているようでは情けない。中谷美紀と渡部篤郎という良い素材を少しも生かしきれていない。テレビのスペシャル番組で十分だったのではないか。

孤島での連続殺人を描く前半とテレビシリーズの重要な悪役・朝倉(高木将大)のエピソードを引き継ぐ後半とにはっきり別れる構成だ。15年前の沈没事故の関係者に生存者の娘から孤島への招待状が届き、7人が島に集まる−という発端はまるで麻耶雄高「夏と冬の奏鳴曲」である。警視庁捜査一課弐係の係長に就任した柴田純(中谷美紀)と真山徹(渡部篤郎)は生存者の娘章子(大河内奈々子)の依頼で島に同行する。島は疫神島と呼ばれ、昔から周辺で不思議な事故の起こる場所。事故で亡くなった霧島夫妻の娘七海(小雪)が迎えるが、その夜、七海は「両親は故意に殺された」として死のゲームのスタートを告げる。その直後、1人が毒殺される。さらに1人が転落死。犯人は七海以外には考えられないが、証拠がない。柴田と真山はそのからくりを探り始める。

ここだけをじっくり描けば、テレビのレベルではまずまずの推理ドラマにはなったかもしれない。しかし、西荻弓絵の脚本、堤幸彦監督の演出ともに底が浅い。こういうトリック主体の推理ものは海外では半世紀前に死に絶えたタイプなのである(日本ではまだ一部に生き残っている。だからテレビにはこんな勘違いの推理ドラマが溢れている)。おまけに繰り出される映像は安っぽく、出演者の演技もまさにテレビドラマの水準でしかない。前半で捜査弐係長を降格された竜雷太のエピソードなどまったく必要ないものである。コギャルの婚約者の顔を執拗に隠すので、これは何かストーリーに絡んでくるのかと思ったが、まったくなかった。その場の思いつきらしい。映画はすべてこんな調子だ。後半の(アホらしい)展開については僕にはコメントできないが、映像の水準から見る限り、いくらテレビシリーズのファンであっても、満足する人は少ないだろう。

中谷、渡部コンビの漫才的やりとりはおかしく、なるほどテレビならこんな感じでも良かったのかもしれない。「踊る大捜査線 The Movie」のような成功はかなり稀な例であることを改めて痛感させる映画である。

【データ】2000年 1時間59分 製作:TBS 角川書店 キングレコード 配給:東宝
監督:堤幸彦 脚本:西荻弓絵 音楽:身岳章 主題歌:「クロニック・ラブ(remix)」中谷美紀 撮影:唐沢悟 美術:佐々木尚 プロデューサー:植田博樹 田上節朗 浜名一哉
出演:中谷美紀 渡部篤郎 鈴木紗理奈 小雪 泉ピン子 徳井優 高木将大 田口トモロウ 片桐はいり 酒井敏也 伊丹幸雄 矢島健一 有福正志 村井克行 天本英世 大河内奈々子 生瀬勝久 泉谷しげる 竜雷太

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ダブル・ジョパディー

DOUBLE JEOPARDY

「ダブル・ジョパディー」 「ドライビング・ミス・デイジー」のブルース・ベレスフォード監督のサスペンス。というよりも、アシュレイ・ジャッドが魅力を満開させた映画である。この女優、決してそれほどの美人ではないと思うが、とにかく笑顔(とスタイル)がいい。この映画でもラストに満面の笑顔を見せてくれる。必ずしも出演作品に恵まれているとは言えないけれど、着実にキャリアを積み重ねており、将来的にはもっと伸びる女優と見た。タイトルの“ダブル・ジョパディー”とは合衆国憲法修正第5条の「二重処罰の禁止」のことで、同じ罪で2度は裁かれないという規定(日本にも同じ趣旨の法律はあり、松本清張が短編を書いている)。ヒロインは身に覚えのない夫殺しの罪で有罪になった。しかし、夫は生きていた。という発端を見れば、ラストは想像がつくのだが、映画はヒロインの母性愛と追跡劇を絡めて飽きさせない。ヒロインの刑務所での境遇や夫のキャラクターなどにもう少し深みのある描写もほしいところだが、娯楽作だから深すぎず、浅すぎずがいいのだろう。ベレスフォードの演出にも抜かりはなく、楽しめる佳作になった。

セーリングの途中、リビー・パーソンズ(アシュレイ・ジャッド)の夫ニック(ブルース・グリーンウッド)が忽然といなくなる。リビーの服と船内は血にまみれ、船上にはナイフが落ちていた。状況証拠と夫に200万ドルの保険金がかけられていたことから、リビーに夫殺しの疑いがかけられ、有罪になってしまう。収監されたリビーは4歳の一人息子マティ(ベンジャミン・ウィアー)を親友のアンジー(アナベス・ギッシュ)に託すが、アンジーはリビーに黙って姿を消す。ようやく探し当てたアンジーに電話をかけた際、リビーはニックがまだ生きていることを知る。アンジーとニックが共謀し、200万ドルを目当てにリビーを罪に陥れたのだ。親しくなった女囚からダブル・ジョパディーについて聞かされた後、リビーが体力トレーニングに励むショットを挟んだのは的確な演出。これでリビーの決意が明確になった。6年後、リビーは仮釈放され、保護観察官のトラヴィス(トミー・リー・ジョーンズ)監視下のアパートで暮らすことになる。愛する息子を取り戻すためリビーはアパートを抜け出し、マティとニックの行方を捜し始める。それをトラヴィスが執拗に追跡する。

普通なら、刑務所に入れられたヒロインは夫への復讐を誓うはずなのだが、リビーの関心はあくまで息子にある。単純な復讐劇にしなかったのは脚本の工夫で、これが映画を後味の良いものにしている。刑務所内の描写に悲惨な感じはなく、実際にはヒドイ男のはずのニックのキャラクターも小悪人程度の印象しか受けない。母性愛がメインだから、これでいいのだろう。ビリングではトップに来るトミー・リー・ジョーンズは「逃亡者」の捜査官を彷彿させる役。最初はヒロインに敵対するが、事件の真相が分かると、心強い味方になる。まあ、定石的な展開である。ブルース・ベレスフォードの演出はスピーディーだ。過度にトリヴィアルな部分にこだわらず、節度をわきまえたもので、好ましい。娯楽映画のなんたるかを分かっている監督だと思う。

【データ】1999年 アメリカ 1時間45分 パラマウント映画提供 配給:UIP
監督:ブルース・ベレスフォード 脚本:デヴィッド・ワイスバーグ ダグラス・S・クック 撮影:ピーター・ジェームズ 製作:レナード・ゴールドバーグ プロダクション・デザイナー:ハワード・カミングス 衣装:ルディ・ディロン リンダ・バス 音楽:ノルマンド・コーベイル
出演:アシュレイ・ジャッド トミー・リー・ジョーンズ ブルース・グリーンウッド アナベス・ギッシュ ベンジャミン・ウィアー ローマ・マフィア ダヴェニア・マクファデン

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