シルベスター・スタローンが「クリフハンガー」以来8年ぶりにレニー・ハーリンと組んだカーレース映画。スタローンは製作・脚本も兼ねている。ただし、この脚本少しも面白くない。こういう映画の場合、挫折した主人公が再起をかける話に重点を置くのがポイント(「クリフハンガー」もそうだった)だが、スタローンにはそういう観点がないらしく、ここが実にいい加減である。その割に主人公と元妻の関係とか、若いレーサーとライバル、恋人の関係とかに時間を割いている。こういう部分、点景としてあれば十分。肝心のレース場面にもっと力を注ぐべきだった。事故の場面に頼るのではなく、レースの魅力を十分に伝える方向での演出が望ましかったと思う。ちょちょいのちょいとお手軽に作ったとしか思えない作品で、場面がすべて軽すぎる。レニー・ハーリン、今回は(も?)手を抜いたのに違いない。
世界各国を転戦して競うCART。今シーズンはベテランのボー・ブランデンバーグ(ティル・シュワイガー)と新人のジミー・ブライ(キップ・パルデュー)が接戦を繰り広げている。ジミーはシカゴのレースでボーの車に接触しリタイア。自信をなくしてしまう。チームのオーナー、カール・ヘンリー(バート・レイノルズ)はかつての仲間で花形レーサーだったジョー・ダント(シルベスター・スタローン)に支援を頼み、ジミーを優勝させようと計画。レース中の事故がもとで隠遁生活を送っていたダントは久しぶりにレースに復帰する。ここからダントがジミーのコーチとなって優勝に導くのかと思ったら、一応アドバイスめいたことは言うものの、ダント自身もレースに出て、競い合うのである。思えば、「ロッキー5」でもスタローンはコーチ役に徹するかと思わせて結局、自分も試合に出てしまった。あれに似た展開である。裏役に徹してしまっては主演の意味がないというわけか。しかし、このために映画は主人公が2人いるような変な感じになってしまった。加えてどちらの人物にもレースに勝たなければならないという切実さが欠けている。切実なのはむしろレース一筋に打ち込んでいるライバルのボーの方だろう。このあたりは脚本の計算違いと思う。
その上、ボーの恋人ソフィア(エステラ・ウォーレン)がボーと別れてジミーと付き合い、やはり忘れられずに再びボーの元へ帰るという、どうでもいいエピソードが加わる。ダントの元妻で今は別のレーサーと結婚しているキャシー(ジーナ・ガーション)の意地の悪さや、その夫メモ(クリスチャン・デ・ラ・フュエンテ)の人の良さなども描かれるが、こちらも本筋とはあまり関係がない。自暴自棄になったジミーとそれを追うダントが公道をレーシングカーで走り回るという場面もただ見せ物のためだけで、意味がない。こんな余計な要素を詰め込みすぎたためにレーサーの再起というテーマが完全にぼけてしまった。映画が軽い印象なのはそのためだ。こういう詰めの甘い脚本で映画を撮れば、失敗するのは目に見えている。
【データ】2001年 アメリカ 1時間57分 配給:日本ヘラルド映画 松竹
監督:レニー・ハーリン 製作総指揮:アンドリュー・スティーヴンス ドン・カーモディ ケヴィン・キング 製作:エリー・サマハ シルベスター・スタローン レニー・ハーリン 脚本:シルベスター・スタローン 音楽:BT 撮影:マウロ・フィオレ 衣装デザイン:メアリー・マクレオド
出演:シルベスター・スタローン バート・レイノルズ キップ・パルデュー ティル・シュワイガー ジーナ・ガーション エステラ・ウォーレン クリスチャン・デ・ラ・フュエンテ
ジェット・リー主演のアクション映画。麻薬組織の幹部逮捕に協力するためパリに行った中国の捜査官が殺人の濡れ衣を着せられ、悪徳警部率いる組織と戦う。監督は新鋭のクリス・ナオンだが、製作・脚本のリュック・ベッソンの映画に雰囲気がよく似ている。凶暴で狡猾な悪徳警部の設定は「レオン」のゲイリー・オールドマンを彷彿させ、クレイグ・アームストロングの音楽も「レオン」のようにセンチメンタル。ホテル、街頭、船上、警察署で次々に繰り広げられるジェット・リーのキレのあるアクションは素晴らしく、ブリジット・フォンダ演じるヤク中の薄幸な娼婦役もぴたりと決まっている。「レオン」のような強いエモーションには欠けているけれど、アクション映画の定石を踏まえ、きっちりと楽しませてくれる佳作。リーの寡黙な在り方はいかにも武術家出身らしい好ましさ(クライマックスの警察署殴り込みシーンは高倉健の映画をイメージしたという)で、時折見せる人なつこい笑顔もいい。根強いファンは多いが、もっと一般的な人気が出ていいスターだと思う。
中国のエリート捜査官リュウ(ジェット・リー)がパリ・ドゴール空港に降り立つ。フランスと中国の間で麻薬密売を企てている中国人ギャング、ソングの逮捕に協力するためだ。リュウはチャイナタウンのアンクル・タイ(バート・クウォーク)の店に居を借り、約束のホテルに向かう。フランス側の捜査の責任者はリチャード警部(チェッキー・カリョ)。リチャードはリュウの拳銃とパスポートを不要だからと預かり、無防備のまま捜査に協力させる。ソングが数人のボディガードとともに到着。そこに2人の女ジェシカ(ブリジット・フォンダ)とアジャ(ローレンス・アシュレイ)が現れ、ソングとともに部屋に入る。ソングのボディガードが部屋から出た途端、アジャがソングを襲う。テレビカメラで監視していたリュウは部屋に駆けつけてアジャを止めるが、後から来たリチャードはアジャとソングをリュウの拳銃で撃ち殺し、リュウを罪に陥れようとする。リュウはリチャードの殺人の場面を録画したテープを盗み、部下の襲撃から必死の思いで逃れて、アンクルの店に帰る。
ホテルで生き残ったジェシカは実はリチャードの愛人で、麻薬に縛られて逃げ出せないでいる。またも麻薬をうたれ、街角に立たされる。そこはチャイナタウンでアンクル・タイの店の前、というのは実に都合のいい展開だが、見ている間はあまり気にならない。店にトイレを借りに来たジェシカとリュウの間に次第に交流が芽生え、ジェシカの娘がリチャードに奪われ、孤児院に入れられていると知ったリュウはジェシカと協力し、自分の身の潔白を証明すると共に、娘を取り戻そうとする。プロット的には簡単な映画だが、満載されたアクションと主役リー、フォンダ、カリョの3人の演技で飽きさせない。
ジェット・リーは製作にも名をつらね、アクション場面で自らアイデアを出したという(アクション監督は長年リーと組んでいるコーリー・ユエン)。ジャッキー・チェンのような危険と隣り合わせのスペクタル性には欠けるが、各場面を的確にこなし、アクション映画の主役としては申し分ない。ハイヒールを履いたフォンダと背の高さが逆転しているのはちょっと残念で、これは演出次第でどうにでもなると思う。CM出身のクリス・ナオンの演出はスピーディーで、映画第1作としては合格点だろう。ただし、リュック・ベッソンの影響がかなりあったらしく、演出に個性的なものは見えてこない。真の評価には次の作品を待つ必要がある。
【データ】2001年 アメリカ=フランス 1時間38分 配給:K2
監督:クリス・ナオン 製作:リュック・ベッソン ジェット・リー スティーブン・チャズマン ハッピー・ウォルターズ 脚本:リュック・ベッソン ロバート・マーク・ケイメン アクション監督:コーリー・ユエン 音楽:クレイグ・アームストロング 撮影:ティエリー・アルボガスト プロダクション・デザイン:ジャック・ブフノワ
出演:ジェット・リー ブリジット・フォンダ チェッキー・カリョ ローレンス・アシュレイ バート・クウォーク シリル・ラフェーリ ディディエ・アズーレイ ジョン・フォーガム ヴィンセント・ウォン コリン・プリンス
テレビには登場しない特殊強化装甲服G4をフィーチャーした番外編とでもいうべき内容。G4はG3-Xの次の世代に当たるパワードスーツだが、装着員の死を招くため研究が途中で放棄された。それを自衛隊が盗み出して完成させる。G4を装着するのはかつてアンノウンに為すすべもなく敗れた自衛隊員で、自分の死も厭わない覚悟ができている。G4を中心に人を超えた存在の悲哀を描けば、映画はもっと面白くなっていたと思う。しかし、その描き方が決定的に足りない。良くも悪くもテレビシリーズと同一線上にある内容である。いや、一話完結ではない長いストーリーが綴られるテレビシリーズは十分面白いらしいが、「仮面ライダー」のタイトルを背負う以上、主人公のアギトもG3-Xもギルスも描く必要があるわけで、そうなると上映時間1時間10分では少し苦しくなるのである。演出的に見ても映画として優れた部分は見当たらず、ダメではないが、良くもないという典型。表面的なプロットをなぞっただけで終わってしまった。
無数のアンノウンが超能力研究所を襲う。超能力を持つ沙綾香とレイは難を逃れるが、離ればなれになってしまう。数週間後、警視庁G3ユニットの小沢澄子(藤田瞳子)のもとに自衛隊から深海理沙(小沢真珠)が派遣される。理沙の狙いは澄子が開発を途中でやめたG4の研究を盗むことだった。理沙は翌日、一方的に辞めてしまう。沙綾香は津上翔一=アギト(賀集利樹)に助けられ、美杉家で暮らすようになる。一方、レイはアンノウンに襲われたところを葦原涼=ギルス(友井雄亮)に助けられる。2カ月後、流行を始めた携帯サイト「ESPクイズ」が呼び水となり、ふたたびアンノウンの群れは蠢動を始める。アンノウンは超能力者に感応して現れるらしい。アギトと氷川誠=G3(要潤)がアンノウンと戦っているところにG4も現れ、圧倒的な強さを見せつける。しかし、G4には弱点があった。それを装着する人間の命をやがて奪ってしまうのだ。理沙はG4のパワーを高めるため、超能力者を利用しようとしていた。そして超能力者・風谷真魚(秋山莉奈)を誘拐。アギトとG3はアンノウンの襲撃を迎え撃ちながら、真魚の救出に向かう。
G4を装着する水城史朗(唐渡亮)は超能力研究所の警備にいた際、アンノウンの殺戮を止められなかった過去がある。それが「G4の危うさも、理沙が自分をただの道具として利用していることも、承知のうえで、あえて身を挺しようとする」要因なのだが、演技も含めて今ひとつ説得力には欠ける。自衛隊が警視庁の研究を盗むという設定からしてあまり現実的ではない。監督の田崎竜太をはじめスタッフはテレビシリーズと同じだから内容も作りもテレビとあまり変わらない印象。テレビシリーズを見ている人にはあまり不満はない作りになっていると思うが、テレビを見ていない人には細かい設定が分からないのではないか。1本の映画として、こうした作りでいいのかどうかには疑問も残る。テレビと並行しての製作だっただろうから、予算と時間にも制約があったと思える。軍隊アリをモチーフにしたアンノウンのフォルミカ・ペデス、フォルミカ・レギアの動きはゾンビのようで面白かったし、アギトの物語世界の設定はなかなか凝っているので、さらに充実した映画にできる余地が大きい。十分な時間をかけて再挑戦してみてはどうか。
【データ】2001年 1時間10分 配給:東映
監督:田崎竜太 製作:福湯通夫 泊懋 早河洋 原作:石ノ森章太郎 脚本:井上敏樹 撮影:松村文雄 音楽:佐橋俊彦 主題歌:ウルフルズ「事件だッ!」 キャラクターデザイン:早瀬マサト 出渕裕 草なぎ琢仁 美術:大嶋修一
出演:賀集利樹 要潤 友井雄亮 秋山莉奈 唐渡亮 木村茜 大高力也 藤田瞳子 山崎潤 うじきつよし 中村俊介 渡辺典子 藤岡弘 升毅 RIDER CHIPS
「マユミさんと別れてよ。ねえ、別れてよ」。約束の1年が過ぎてもなお、タムラ(小澤征悦)と別れたくないエリコ(田中麗奈)が喫茶店でタムラに迫るクライマックスが圧巻である。鬼気迫る場面とはこういうことを言う。もともと田中麗奈の表情は少しきついのだが、顔のアップだけでここまでの迫力を出すには相応の演技力も要求される。女優の底力といったものが鮮やかに浮かび上がるシーンだ。そしてこの凄い場面の後に来る絶妙のエピソード。それまでの物語を180度違う観点から見直さなくてはいけなくなるようなエピソードが、映画の余韻をすこぶる心地よいものにしている。田中麗奈の硬質で直線的な演技を受ける小澤征悦の柔軟な演技と役の設定もいい。タムラは映画のコピーにあるような記号的に“ダメ男”といわれるような存在では断じてない。なぜ嘘をついたのか、結局泣き崩れなければならないのになぜ嘘をついてエリコと別れなければならなかったのか。もちろん結果的にタムラが行った仕打ちはひどいものなのだが、市川準は単純にタムラをダメ男とは描いていない。キャラクターのとらえ方が重層的なのである。淡々とした映画であるにもかかわらず、描写には深みがあり、これは市川準の作品の中でも上位に位置する出来だと思う。
契約社員の酒井エリコが合コンでエリート・ビジネスマンのタムラと出会う。酔っぱらったタムラを介抱したエリコにタムラは「携帯の番号もらってくれないか」と手渡す。なんとなく電話をかけたエリコはタムラとデートするが、そこでタムラにはアメリカに留学している恋人がいることが分かる。もう会うこともないと思っていたが、ある小劇場で偶然再会。タムラを本当に好きになってしまったエリコは「彼女が帰ってくるまでの1年間だけでいいから、わたしとつき合って」と言ってしまう。ここから1年間の期限付きの恋愛が始まる。この設定でいけば、ラストは別れるか、続けるかの2つしかない。2人の同棲生活を淡々と描きながら、映画もそのように進行するが、結末の後に描かれるエピソードによって映画は単なるラブストーリーを超えて、1人の女性の成長を描くものになった。スーザン・オズボーン「ラブ・イズ・モア・ザン・ディス」が流れる中、晴れ晴れとした表情を見せるエリコ。この表情は再びタムラと交際できるという希望から来るものではないだろう。失恋=挫折を乗り越えた喜びにあふれたものなのだと思う。
タムラにとって、エリコの「恋人いるの?」という質問に「いるよ…。このトシで普通の男だったら、たいていいるんじゃないか」と答えてしまったことが、不幸の始まりではあった。1年間の猶予があるわけだからそれを撤回する機会は何度もあったはずだが、結局タムラは最後まで本当のことを言えない。恐らく、タムラの嘘は過去の失恋の痛手を繰り返さないため、自分を防御するためのものなのだろう。ストレートなエリコに対してタムラは臆病で複雑なのである。もちろん、それがダメ男だと言われれば、それまでなのだが、僕はそう思わない。
市川準は東京のさまざまな風景を織り込みながら、男女の1年間の微妙な心の揺れ動きを描いている。登場人物は市川準のいつもの映画のようにボソボソとしゃべり、描写に力がはいっているわけでもないのだが、主演の2人の好演でタイトな映画に仕上がった。繰り返すが、田中麗奈は特筆に値する。「彼女の表情を見たくて、どんどんカメラが寄っていった部分も」あると市川準は語っている(キネマ旬報2001年5月下旬号)。それも当然だと思われる魅力にあふれているし、市川準が意図したようにこの映画で大人の女優の仲間入りを果たしたと思う。タイトルのマリーゴールドは1年で花を咲かせて散ってしまう1年草。期限付きの恋愛とかけているわけだ。同時に正社員になりたいと思いながら、1年間の契約社員であるエリコの境遇とも符合している。
【データ】2001年 1時間37分 配給:オメガエンタテインメント
監督:市川準 製作:塩原徹 小林栄太朗 横浜豊行 真塩〓嗣 原作:林真理子「1年ののち」 脚本:市川準 撮影:小林達比古 美術:間野重雄 音楽:周防義和 主題歌:スーザン・オズボーン「ラブ・イズ・モア・ザン・ディス」 劇中歌:螢「カゼドケイ」
出演:田中麗奈 小澤征悦 斉藤陽一郎 寺尾聰 樹木希林 石田ひかり 螢 三輪明日美 長宗我部蓉子