ファインディング・ニモ

Finding Nemo

「ファインディング・ニモ」パンフレット「トイ・ストーリー」「バグズ・ライフ」「モンスターズ・インク」でおなじみのピクサーの3DCGアニメ。本編が始まる前に「 Knick Knack 」という短編が流れる。スノウボールの中の雪だるまがなんとか外に出ようとする話。他愛ないが面白い。

本編の方はオーストラリアのグレートバリアリーフに住む魚のカクレクマノミのマーリンが主人公。おもちゃ、アリ、お化けと来て今回は海の中の魚たちの様子がCGで表現される。CGの技術は1作ごとに進歩しているようで、水の表現やスピーディーな魚たちの動きに感心させられる。しかし、ピクサーアニメの良さはストーリーとキャラクターの造型に凝っていることだ。ニモの生まれつきの障害(胸びれが少し小さい)やマーリンの臆病さ(慎重さ)をはじめ、他の魚たちもそれぞれに深いキャラクターばかりである。話の展開にも少しも無理がない。普通なら不可能に思える水槽に入れられたニモをどう助けるかが見どころになるが、その救出(脱出)方法もなるほどよく考えてある。笑って笑って手に汗握って、最後は親子の絆にホロリとさせる上質のファミリー映画と思う。

マーリンは400個の卵が間もなくふ化するという時、凶暴なバラクーダに襲われ、卵1個を残して愛する妻も失ってしまう。残った卵に妻が提案していたニモと名付け、マーリンは「絶対にこの子を守ってみせる」と誓う、というオープニングからうまい。マーリンがその反動で過保護な父親になるというのが納得できる展開なのである。ニモは成長し、小学校に行くことになるが、付いてきた心配性の父親への反発もあって、船に近づき、人間にさらわれてしまう。船が落とした水中眼鏡にあった住所を手がかりにマーリンはニモの行方を探し求める。それを助けるのがナンヨウハギのドリー。物忘れが激しいのが難点だが、ドリーは人間の文字を読めて、気のいい女。サメに襲われたり、深海魚の攻撃をかわしたりしながらマーリンとドリーは旅を続ける。

マーリンは旅の苦難を通じて、過度の心配性を克服していく。一方、ニモが入れられた水槽の中では他の魚たちと一緒に脱出計画が展開され、体の小さなニモが活躍する。これにタイムリミットを設定しているのは「トイ・ストーリー」などと同様の趣向で、早く脱出しないと、乱暴な子供ダーラにもらわれてしまうのである(ダーラは魚の入った袋を振り回して魚を殺してしまう常習犯だ)。細かいギャグを散りばめながら、本筋が真っ当に作ってあるので映画の完成度も高くなるわけだ。

僕が見たのは日本語吹き替え版。ウィレム・デフォーやジェフリー・ラッシュもいる英語版の声優も豪華だが、日本語版ではマーリンを木梨憲武、ドリーを室井滋が担当している。特に室井滋が絶妙のうまさ。あわてん坊で早口のドリーにぴったりな感じだった。

【データ】2003年 アメリカ 1時間41分
監督・原案・脚本:アンドリュー・スタントン 共同監督:リー・アンクリッチ 製作:グラハム・ウォルターズ 製作総指揮:ジョン・ラセター 脚本:ボブ・ピーターソン デイヴィッド・レイノルズ 音楽:トーマス・ニューマン
声の出演(カッコ内は日本語吹き替え版):アルバート・ブルックス(木梨憲武) エレン・デジュネレス(室井滋) アレクサンダー・グールト(宮谷恵多) ウィレム・デフォー(山路和弘) オースチン・ペンデルトン(津田寛治) ジェフリー・ラッシュ(後藤哲夫) アンドリュー・スタントン(小山力也)

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アンダーワールド

Underworld

「アンダーワールド」パンフレット吸血鬼(ヴァンパイア)と狼男(ライカン)一族の数世紀に渡る戦いを描くホラーアクション。アイデアからしてB級で、内容も「ブレイド」を思わせるようなものである。主役のヴァンパイアを演じるケイト・ベッキンセールだけは黒いロングコートにタイトなボディスーツがよく似合い、魅力的に撮られている(このファッションとか動きは、日本のアニメを参考にしたのではないか)。監督のレン・ワイズマンはMTV出身でこれが長編デビュー作。画面構成などにはセンスを感じるが、話にあまりオリジナリティがないし、狼男の変身シーンも水準的なレベルで、「ハウリング」のころからあまり進歩していない感じがある。2時間1分もかけて語るべきほどのものではなく、平凡な出来に終わっている。

ヴァンパイアのセリーン(ケイト・ベッキンセール)は処刑人として狼男一族を追っている。戦いがなぜ始まったのかはもはや明らかではないが、長年の戦いでライカンはもはや絶滅寸前と言われている。ある夜の戦いでセリーンはライカンたちがある男を探していることを知る。その男、マイケル・コーヴィン(スコット・スピードマン)は普通の人間だった。セリーンはマイケルのアパートを突き止めるが、狼男たちが襲撃。マイケルは、死んだと思われていたリーダーのルシアン(マイケル・シーン)に噛みつかれてしまう。このままでは2日後の満月の夜に、マイケルは狼男に変身してしまうことになる。一方、ヴァンパイア一族の中にもリーダー、クレイヴン(シェーン・ブローリー)の不穏な動きがあった。

戦いで銃を使うのはやはり「ブレイド」を参考にしたのかもしれない。スタイリッシュなアクション自体は悪くないが、途中で飽きてくる。話が大きく動くのはクライマックスからで、ヴァンパイアと狼男の血を巡る出自が明らかにされ、いかにも続編ができそうなラストを迎えることになる。その通り、続編の製作が決まっているとのこと。しかし、もう少し話を深くして、VFXを炸裂させないと、続編は難しいように思う。

狼男のことをライカンと呼ぶのは初めて知った。パンフレットで仁賀克雄が「ライカンはドラキュラに匹敵するだけの傑作を生んでいないのは残念である」と書いている。原作ということで言えば、確かにそうだが、狼男ものでは平井和正のウルフガイシリーズがある。

【データ】2003年 アメリカ 2時間1分 配給:ギャガ=ヒューマックス共同配給
監督:レン・ワイズマン 製作:トム・ローゼンバーグ ゲイリー・ルケシ リチャード・S・ライト 製作総指揮:スキップ・ウィリアムソン ヘンリー・ウィンタースターン テリー・A・マッカイ ジェームズ・マッカイド ロバート・ベルナッチ 原作:ケヴィン・グレヴィオー 脚本:ダニー・マクブライド 撮影:トニー・ピアース=ロバーツ 美術:ブルトン・ジョーンズ 衣装デザイン:ウェンディ・パートリッジ クリーチャー・デザイン:パトリック・タトポロス
出演:ケイト・ベッキンセール スコット・スピードマン マイケル・シーン シェーン・フローリー アーウィン・レダー ビル・ナイ ソフィア・マイルズ ロビー・ジー ケヴィン・グレヴィオー

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ミスティック・リバー

Mystic River

「ミスティック・リバー」パンフレット冷たい感触。この映画は冷え冷えとした雰囲気に終始する。暗鬱な曇り空の下、25年前の忌まわしい事件で幕を開けた映画はクライマックス、誤解から生じた悲劇を引き起こすことになる。ネタバレになるので、詳しく書けないが、ラスト、パレードのシーンの演出は奥が深い。殺人事件を経た登場人物たちのそれぞれの表情が次々に描写される。夫の姿を探し求める妻、父親がいなくなってうつむいたままパレードに参加する少年、やっと帰ってきた妻と一緒にパレードを見つめる夫、その視線は恐らく友人を殺したであろう男に注がれており、手で銃の形を作り、男に向ける。殺人事件の犯人は捕まるが、登場人物たちの苦悩は残されたままだ。それが作品の感触をさらに冷たく、厳しいものにしており、ミステリというよりは悲劇的な人間ドラマになっている。実質的な主人公であるケヴィン・ベーコンとショーン・ペン、ティム・ロビンスの好演に加えて、ロビンスの妻役マーシャ・ゲイ・ハーデン、ペンの妻役ローラ・リニー、ベーコンとコンビを組む刑事ローレンス・フィッシュバーンとスキのないキャスティングも良い。

ボストンのダウタウンで遊んでいた3人の少年ジミー、デイブ、ショーンに1台の車が近づく。車を降りた男は腰に手錠をぶら下げ、舗道にいたずら書きをしていた3人を叱りつけると、デイブを車に乗せて連れ去った。監禁され、レイプされたデイブが逃げ出せたのは4日後だった。そして25年後。3人はそれぞれ別の道を歩み、付き合うこともなくなっている。デイブ(ティム・ロビンス)は質素な家庭を築き、一時期犯罪社会にいたジミー(ショーン・ペン)は雑貨店を営み、ショーン(ケヴィン・ベーコン)は刑事になっている。ある夜、ジミーの娘が惨殺される。ショーンは事件の捜査を担当し、事件当日の夜にジミーの娘と同じ酒場にいて、血まみれで帰宅したデイブが容疑者として浮かび上がってくる。

デニス・ルヘインの原作をクリント・イーストウッドが監督したこの作品、撮影や編集などの技術も高い水準にあり、感心させられる。ただし、話の悲痛さは意外に伝わってこない。バランスの良さと役者たちの演技の充実は最初から最後まで維持されるにしても、何かが足りないのだ。それは何か。最も釈然としないのは殺人事件の真相だった。これまたネタバレになるので詳細は避けるが、こういうことであるならば、犯人は関係者ではなく、まったく別の人間であっても良かったのだ。犯行の裏にどんな動機があるのか期待して見ていると、肩すかしを食うことになる。

もちろん、この犯人像に人生の皮肉はある。犯人の凶器の出所や元々の凶器の持ち主と被害者とその父親との関係は、因果関係があってなるほどと思わせる(当事者たちはまったくそれを知らない)。一つの殺人事件が過去を掘り起こし、現在の苦悩を浮き彫りにするというのは特にハードボイルド・ミステリではよくある手法であり、映画の狙いもそこにあったのかもしれない。しかし、この映画の場合、登場人物たちの苦悩に有機的な結びつきがないのである。これを束ねるのが殺人事件の真相であれば、映画は一つの大きな根幹を持つことになっただろう。これが機能しないので、それぞれの苦悩がバラバラなままで深みに欠けてくる。具体的に書けないので、どうも書いていてもどかしいが、要するに、この映画の話の組み立て方には欠陥があると思うのである。付け加えれば、犯行当日の夜に偶然が2つも3つも重なることも興を削ぐ。重厚な雰囲気を持つ作品であるにもかかわらず、そんな不満が残った。

脚本のブライアン・ヘルゲランドは「L.A.コンフィデンシャル」では良い仕事をしていたが、あれはもしかすると、カーティス・ハンソンの力量なのかもしれず、今回もまた、脚本が良いと思うのは大きな間違いでイーストウッドが力業でねじ伏せたのかもしれない。

【データ】2003年 アメリカ 2時間18分 配給:ワーナー・ブラザース
監督:クリント・イーストウッド 製作:ロバート・トーレンツ ジュディー・G・ホイト クリント・イーストウッド 製作総指揮:ブルース・バーマン 原作:デニス・ルヘイン 脚本:ブライアン・ヘルゲランド 撮影:トム・スターン 美術:ヘンリー・バムステッド 音楽:クリント・イーストウッド
出演:ショーン・ペン ティム・ロビンス ケヴィン・ベーコン ローレンス・フィッシュバーン マーシャ・ゲイ・ハーデン ローラ・リニー トーマス・ギーリー エミー・ロッサム

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シービスケット

Seabiscuit

「シービスケット」パンフレット大恐慌時代に活躍したチビの競走馬シービスケットとそれを取り巻く人々を描いた実話。非常にゆったりとしたペースで、シービスケットが登場するまでに40分余りかかる(上映時間は2時間21分)。それまでは主要登場人物の人柄と背景を描いている。普通ならシービスケットの登場をもっと早くするはずで、いかにも原作がある映画らしい(というか、監督のゲイリー・ロスは競馬ファンではないのではないか)。ゆったりとしたペースはその後も変わらず、ここまで徹底されると、時代背景と合わせたのかなと思いたくなる。アカデミー賞にノミネートされたぐらいだからアメリカでは評判がいいのだろう。ウェルメイドな作りは好ましいけれど、作品賞ノミネートに値するのか疑問。技術的に特に優れた部分も見当たらないし、普通の作品と思う。

ローラ・ヒレンブランドの原作「シービスケット あるアメリカ競走馬の伝説」は400万部以上売れたそうだ。大恐慌で一家離散となった騎手のジョニー・ポラード(トビー・マグワイア)と息子を自動車事故で亡くした資産家の馬主チャールズ・ハワード(ジェフ・ブリッジス)、時代遅れのカウボーイで調教師のトム・スミス(クリス・クーパー)が力を合わせてシービスケットとともに栄光をつかむ物語である。3人ともそれぞれに挫折の経験があるため、一度の失敗で人を否定するなというメッセージが根底に流れる。だから右目を失明し、足を骨折したジョニーと、靱帯を傷めたシービスケットが再起する場面がクライマックスとなる。その前に映画は全米一と言われた名馬ウォーアドミラルとシービスケットのマッチレースを描く。ここもクライマックス並みに盛り上がるシーンだ。ただし、非常に分かりやすい話で、先が読める展開ではある。

監督のゲイリー・ロスはシービスケットの活躍だけでなく、時代そのものを描くことにも重点を置いたようだ。アメリカの当時の風俗が再現されており、アメリカ人ならそれを見るだけでも楽しいのかもしれない。感心したのはクリス・クーパーの演技で、いつもながら役にぴったりとはまった感じがする。

レース中のトビー・マグワイアのアップは明らかに合成。馬の首と騎手の体の上下する頻度が多すぎて、遠景のショットとまるで合っていず、この演出はあまりうまくない。ディック・フランシスの競馬シリーズが好きなので、競馬を題材にした映画はひいき目に見たいのだが、傑作と呼べる映画はあまり思いつかない。フランシスの傑作「本命」を映画化した「大本命」もがっかりするような出来だった。「シービスケット」も全体的には成功しているとは言い難く、競馬の魅力を十分に伝える映画にはなっていないと思う。ゲイリー・ロスの興味はあくまで、シービスケットを取り巻く人々にあったのだろう。

【データ】2003年 アメリカ 2時間21分 配給:UIP
監督:ゲイリー・ロス 製作:キャスリーン・ケネディ フランク・マーシャル 製作総指揮:ゲイリー・バーバー ロジャー・バーンバウム トビー・マグワイア アリソン・トーマス ロビン・ビッセル 原作:ローラ・ヒレンブランド 脚本:ゲイリー・ロス 撮影:ジョン・シュワルツマン プロダクション・デザイン:ジャニー・オッペウォール 衣装デザイン:ジュディアナ・マコフスキー 音楽:ランディ・ニューマン
出演:トビー・マグワイア ジェフ・ブリッジス クリス・クーパー エリザベス・バンクス ゲイリー・スティーブンス ウィリアム・H・メイシー デヴィッド・マックロウ キングストン・デュクール エド・ローター マイケル・オニール マイケル・アングラーノ アーニー・コーレイ ヴァレリー・マハフィー

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