2006年1月号

 出席者:♂ 鬼束 加賀 金川 酒井 笹原 杉尾(隆) 横山 ♀ 手塚 林田 杉尾(久)(書記)

 早いもので今年最後の合評会となりました。毎年、一年が経つのを早く感じるのは、やっぱり年をとったということでしょうか・・。今年は、金川さん、杉尾(隆)さん、池堂さんと新しい仲間も増えて、ますます賑やかになったシネマ1987。来年も盛り上がっていきましょう。

イン・ハー・シューズ

監督: カーティス・ハンソン
出演: キャメロン・ディアス トニ・コレット シャーリー・マクレーン 他

杉尾(隆) 今年「ミリオン・ダラー・ベイビー」に続く良い作作品でした。何も起こらないんですよね、それがいい・・。姉妹が、小さい頃からいろんな事が重なりながら成長していくというのをよくあらわしている。自分の靴をはきなさいというのがよく象徴していて・・。シャーリー・マクレーンもいいんですけど、キャメロン・ディアスが頑張っているなぁと感じましたね。特に、教授から、褒められた時にみせる笑顔がよかったです。最後、あの詩を朗読するところで涙がでました。凄く良い映画だと思いました。その後「同じ月を見ている」を見てレベルの違いを感じましたね。

鬼 束 弁護士事務所に勤める姉と、体以外に何の取りえもない妹の話で、ストーリーはまとまっていたんですけど、僕はあまり面白くありませんでした。

横 山 林田さんと手塚さんにどやって対抗しようかと思ってきたんですけど・・(林田さん、手塚さんはこの映画に批判的だったので)杉尾(隆)さんの感想がよくって良かったです(笑)。基本的に人が立ち直っていく話は好きなので、これも非常に良かったですね。出てくるのが皆欠点だらけの人間で、あの姉妹がどうしてあんなふうになったかとたどっていくと、母親の自殺に関係していたり、それがまた、夫とお母さんに関係していったりするのが解って、非常に良かったと思います。特に、僕もキャメロン・ディアスがよくって、今年の主演女優賞にノミネートされるんじゃないかと思っています。監督の演出も今回良かったと思います。

金 川 最初は気乗りしないで見に行ったんですけど、途中からキャメロン・ディアスが職を変えたり転々として落ち着かないというのが、彼女自身が読字障害を持っているということが分かり、自分を認めてくれる人がいなかったのが、老人ホームに行って、教授と会ったり、まわりの事たちと会ったりして認められ、彼女自身が立ち直っていくというか元気を取り戻して生き生きとなっていくというところが良い映画だなと思いました。姉や親にも認められず、ああいう奔放な生活をせざるを得なかったのかなという感じで観ると、わりと面白かったです。詩を読むことによって、彼女が存在感を持ち始めるのもよかった。老人たちの明るさが羨ましかったし、シャーリー・マクレーンがいろいろな場面で表情を変えるとこが非常に上手いなぁと思いました。

林 田 ま〜ったく、面白くなかったの!だから、これはどこがどうとかでなくて、私自身がなぜ何の感動もしなかったのかって考えたとき、まず、第一はデァスは好きなんだけど、あれぐらいの演技だったら誰でも出来そうな気がするし・・・・あれぐらいで、皆感動するんですかぁ?(笑)読字障害というのは、生まれつきの障害なの?そこのところが分からなかったです。私は、人の引き出しを開けるところから、イライラして、こんな女・・私が姉なら絶対にゆるさないだろうなと思ったので、キャメロン・ディアスの役自体が嫌いと思った時点で全然面白くなかった。あれぐらいのことで・・うそ臭いなぁと思って・・。ま、映画と思えばいいのかもしれないのだけど(笑)。これくらいの物語いくらでもあるわぁ。姉さんが靴を集めているのは、ちょっとじ〜んとしたけどね・・。(この後、読字障害について皆さんからいろいろな説明がありましたが割愛)

手 塚 ま、もう林田さんが全部言ったから・・・(笑)似たようなことなんだけど。私は、最初、トニ・コレットが全然男っ気のない女性でかわいそうなお姉さんで、それに比較して、奔放な妹っていう感じで思っていたもんだから、な〜んだ、男いるじゃんっと思ったんですよ。なので、姉が地味な感じにしているけど寂しい女性とは思えなかった。また、最後まで見て、新しいストーリーでもないし、普通の話かなってのが正直なところでした。トニ・コレットは、昔見た「ミりエルの結婚」とイメージがかぶってしまいました。私も他の人が褒めるほど、そこまでの映画かなって疑問でしたよ、正直。

杉尾(隆)  お母さんがいなくなって、姉さんが妹を大事に大事にしてきたってのは、感じてよかったですけどねぇ。姉さんがんばってましたよね。

手 塚  それから、詩をあんなに短時間にスラスラと読んだものどうかと・・。

この後、学習障害児とか、人とのコミュニケーションのとり方が分からない子供とか、計算が出来ない子供とかが実際に多くいて、対応の仕方とかむずかしい面があるという話にまで発展しました。

ALWAYS 三丁目の夕日

監督: 山崎 貴
出演: 堤 真一 薬師丸 ひろ子 吉岡 秀隆 小雪 須賀 健太 他

加 賀 昨年、三丁目の夕日が映画になると聞いて、僕は、このマンガのファンなんですけど、これを映画にしても絶対にヒットしないんじゃないかなって心配していたんですけど、結構ヒットしているみたいで嬉しく思っています。やっぱり、昭和30年代っていうのが、見ていて懐かしいですね。宮崎は、東京より遅れていたから、あの駄菓子屋のシーンとか・・。原作でほとんど読んでいるので映画に出てくるシーンとか全部どこかで見たシーンばかりで、六ちゃんだけは違うんですけど・・。マンガの世界をよく具象化していて、CGのシーンとか、よく出来ていたなと思います。横山さんがテーマパークみたいだといっていましたが、僕もそう思いました。この映画自体が昭和30年代をとてもよく描いているんで、これをそのまま博物館とかで上映したら、それだけで、価値があるんじゃないかと思うくらい良かったです。

手 塚 私もビックコミックをバ〜ッと見て、何もみるところがなく暇なときに三丁目の夕日を読むっていう感じなんですけど。本当は映画は見る気はなかったんですけど、うちの母から、すっごく笑って、泣いて、自分が小学5、6年の頃の話であの頃の家族とか思い出してよかったとメールが来たので、見に行きました。私はあの時代というのは知らないんですけど、祖父が市川雷蔵がすごく好きだったので・・。中村町には映画館が二つあって、雷蔵の映画がくるとカッコいいシーンでは、「よっ、雷ちゃんっ!」って言っていたんだよ、と話していて・・そういうのがいいなぁって子供心に思っていたんですけど、その私の知らない時代にみんなが生き生きと映画を楽しんでいたっていうことに、私なりの憧れがあり、この映画を見て、祖父、母がその時代を思い描きながら凄く泣けたんだなぁと思いました。CGもあんな使い方ならいいなぁと思います。

杉尾(久) とにかく感動できて、とてもかわいく温かい映画だと思いました。三丁目に住んでいる人たちが、とても人情味があって、悪い人も出てこず、そんなとこが良くって・・。これから日本が発展していくという時で、いろんな事にまだまだ可能性を見出せて、がんばったら未来が開けるんじゃないかなって思える、そんなところをコミカルに優しく描いてあるから、それが見ていて、凄く感動しました。堤真一は、今回も大好きでゴジラになって迫ってくる時は、嬉しくてワクワクしました。吉岡くんと小雪の指輪のシーンでも感動。子供がでるともう・・ね、いいですね。古行淳之介くんの言葉少ない中での感情表現がすごく上手くって良かったし、もたいまさこも最高でした。

笹 原 私は、このマンガは全然だめなんですよ。でも、映画はそんなに違和感もなくよかったです。話は、良く先が読めてしまい、まったくその通になって、でも泣けてしまうというのが不思議な感じですね。やっぱ、持っていき方、演出が上手いのかなと思いました。感心しましたね。もちろん、俳優陣も上手いし、ちょっとオーバーなところが、またよけいに良かったです。薬師丸ひろ子や須賀健太くんとか大活躍で感動しました。

林 田 私の中学生、高校生の時代なので、本当に懐かしかったです。昔は良かったとか言いたくないんですけどね、今もいいから・・。でも、本当にはあのままの時代だった、大げさではないて。何か、こう日本中が浮き足立っていたような、ワクワクしていたような、そんに時代の話で・・・。マンガは、知らないんですけど、こんなふうに上手に作ってあって、スジもたいしたことはないのに、どこにでもあるテレビドラマでもできそうな軽い映画でしたけど、それなりに時代背景がちゃんと出来ていて面白かったです。中途半端の東京タワーを見た人はあまりいないと思うけど、私は、ちょうど見ました、私くらいかな(笑)。

酒 井 僕の好きな話なんですけど、なんかいまいちインパクトがないというか・・ノスタルジーに浸りきって、そんなところから外に出るという部分がなかなかないというのが残念かな気がしました。確かに、あれもあった、これもあったって懐かしいんですけど、僕らのジェネレーションには非常に受けが良いと思います。でも、10代20代の子がみたらどう思うかという疑問があって、そういう世代の人にも受けるというか、そういう発見もほしいですね。印象が段々薄れてきているというのは、たとえば、子供が母親に会いに行ったときのエピソードでの母親の対応が中途半端な描き方であったり・・・、そんな部分が2、3あったりしたからだと思います。そうは言っても、非常に良くできた映画だったと思います。

金 川 ちょうど八歳で小2年のときでした。昔に浸ったという感じでした。映画を見終わった後、昔家族で近所の人と一緒に近くの浜に行っておにぎりを食べたこととか思い出しました。懐かしかったです。一つ一つのエピソード自体は、それほど心には残りませんでした。予告編で見たときは泣いたんですけど、本編で見たときは泣きませんでした。最後吉岡が追いかけて子供が帰ってくるというシーンがある程度よみがずばりあたっている感じなんで、感動できたかなと思ったんですけど・・・。本当に良い映画だと思いました。

横 山 僕もよくできた映画だと思いました。SFXの監督でもドラマがちゃんと撮れるというのがわかった映画でしたね。昭和30年代の話となるとある程度オーバーになってもおかしくないという感じがあって、時代劇といっしょかなって気はしました。で、気になったのは、話のつくりが非常に”作ってる”という感じ、作った話だなぁという気がして・・。もちろん原作があるからしようがないんですけど・・・。人工的な部分があるなと感じました。あくまでも書割のなかで作ってるって感じの映画でリアリティのない感じがしましたね。

鬼 束 僕たちの少し前の時代背景になっていて、それが見事に再現されていて、懐かしさがこみ上げてきました。売れない小説家の茶川と古川淳之介少年の話と、東北から集団就職してきた女の子の話、テレビや冷蔵庫の話など、いろいろありました。一番好きだったのは、薬師丸ひろ子の演じるお母さんが子供の肘当てに入れたのが「困ったときにつかいなさい」という言葉を添えたお金だったというところです。

杉尾(隆) 私も良かったです。最初に紙飛行機がずっと飛んで行って、大通りに出て行くと東京タワーがパッと見えるシーンは感激しました。集団就職の女の子たちがビルの話をするところで、自分が初めて東京に行った時に丸ビルを見たいと思って見に行ったのを良く覚えていて思い出しました。そのとき、東京タワーにも行きました。あと、エピソードで、横山さんが作ってあるといいましたが、私は、それはまったく思わず、そのままだと感じました。テレビがきて、力道山、三十三年の天皇のご成婚の時、近所の人たちが集まって階段の隅から見た覚えがあるんですけど、それと同じ風景ですよね。あと、近所の人たちがいろいろでましたけど、昔、橘通にも商店街があって、周りの事たちとのやりとりも頻繁にあって親しかった。今の人たちに感じてほしいのは、親子関係であり、隣人関係であり、そういう世界が昔あったということから、今を反省・・ではないが、ちょっと違う世の中になってしまったなぁという事です。CGの使い方もよく、本当に良い映画でした。

この後、懐かしい話が沢山出て、しばし盛り上がりました。サンタのシーンは子供には見せられないという話もでたりしました。

大停電の夜に

監督: 源 孝志
出演: 豊川 悦司 田畑 智子 田口トモロヲ 原田知世 井川 遥 他

酒 井 僕は好きな映画でよかったと思います。エピソードで六つ、全体的な雰囲気がファンタスティックでいいんですよね。うっとりとしてとってもいいです。最後に話が絡み合ってくるんですけど、ただ1つ異質だったのが、少年と乳がんの少女の話だけ全体の話に絡みつかないんですよね。あれもやっぱり結びつけて欲しかったなと思いました。ゆったりと心地よい気持ちで見られて、良いクリスマスプレゼントになったんじゃないかという気がしました。

金 川  思い切り泣きました。泣いた場面というのが、田口トモロヲと淡島千景が抱き合うシーンで、あれは、夜あの暗さじゃないと出来ないんじゃないかなと思いました。あと、淡島が宇津井健に告白するシーンも、昼日中明るい場面で言われたら男はたまらないなという感じもしました。暗いからこそのものがあるんではないかなと思いました。いろんなエピソードが出てきたんですけれどもあの原田知世の絡む部分とかスーッと終わってしまったかなという気がしないでもないですね。

横 山 全体的には、好きなんですが、田口トモロヲはですね、役に無理があるんじゃないかと思いますね。あれ、お父さんが死にかけていて、愛人と別れて、その後仲直りしそうになって・・・ですね、一応母親が分かって・・ね、(笑)一晩で、これはちょっと無理なんじゃないかと思いますよね。それを除けば、原田知世は良かったし田畑智子が上手くて感心しました。監督の作品の「東京タワー」を昨日見ましたがあまりのひどさに・・・。脚本次第で違うなぁという気がしました。

鬼 束  残念ながら、前半でウトウトしてしまいました(笑)。暗い中で、ちょうどお昼寝タイムの時間で電気が消えて暗くなったので、後半は良い話が展開していただけにもったいないことをしてしまいました。

杉尾(隆) テレビの2時間ドラマかなという気がしないでもないんですけど・・・。原田知世が非常に良かったなと思いました。話が最後の方に繋がっていくという面白い作りではあったんですけど、ま、そんなに感動するということはなかったですね。12名、6対6の話なんですが、もちょっと編集とか上手くやるともっとよかったのではないかとも思います。ひとつひとつは上手く出来ているのになんとなく・・・という気がしました。でも、ま、話としては良く、テレビでやると良かったんじゃないですかね(笑)。

加 賀 なかなか雰囲気のあるいい映画だったと思います。こんな映画どう言っていいのか・・。ちょっと分かんないんですが・・ひとつは、停電で暗くなってろうそくの灯で撮影するというのでいい雰囲気というのが出ているのかなと思いました。僕個人的には、エレベーターのボーイと女性のシーンが一番好きでした。ろうそく屋の娘がろうそくに火を灯すシーンで、急に沢山のろうそくが灯っているのは少し無理があるから、途中でぶつぶついいながらマスターが手伝うシーンがあってもよかったんじゃないかと思いました(笑)。でも、久々になんか、こう、和む映画だったと思います。

杉尾(久) ろうそくの灯と、全体を包み込むようなジャズのメロディがとてもお洒落な映画でした。誰もが心の底に大切に思うものを持ち続けていて、いろんな人生のすれ違いで成就できなかった想いをほんの束の間交差させるというのが、とてもロマンチックでした。なんか、全体がろうそくの灯のように頼りなさげで切なかったです。印象に残ったシーンが二つあって、ひとつはエレベーターの中で井川遥が「私一番なりたくない女になってみっともない」みたいな事をいうところでボーイが「そうなってあたりまえだよ」って言うところです。本気で人を好きになったら、時には理性をかなぐりすてて、かっこつけることも忘れて、自分の気持ちに抗うことなく子供みたいにわがままになってもいいと思います。だから、あの女性にとってもは、とても肩の力のぬけてありがたい台詞だったと思いました。あと1つは、ジャズバーに原田知世が現れた時の見つめ合う二人のなんともいえない深い微笑みです。何も語らなくても、触れ合わなくても、沢山の言葉が聞こえてくるようでした。この先、二人が絶対逢うことがなくてもそれだけで充分シアワセなシーンでした。その場にいた一人ひとりの立場が彼女に「来て欲しい」「来て欲しくない」という気持ちが上手く表現されていて良かったです。井川の「ダメだって分かっていても、でも、一目だけでも逢いたいと思うのが女なの」って台詞は、女性の全てを語っていると思いました。トヨエツと田畑智子のシーンはどれも大好きです。

笹 原 泣きました・・。12人がものすごくバランスが取れているんですよね。子供から淡島千景の年齢まであってバランスよく中年の話も入ってくるし・・。その辺がうまくいっていたんじゃないかな。私にぴったりの映画でした。特に、田畑智子の演技がすごくって、もう、それだけでもっていかれたなぁって感じでしたね。最初は静かで、段々と盛り上がって自分の気持ちをだしてとか、酔っ払って気持ちを出していったりとか、最後は、ちゃんと彼を応援してっていうところが上手いなぁと思いました。原田知世は、今までで一番いい演技をしていました。私は、田口トモロヲはいいと思いますけどね(笑)。全体的に感動した映画でした。今年の邦画の一位です。

林 田 見た瞬間は、ああ一位だなと思ってみたんですよ(笑)。でね、「ふたりの五つの分かれ路」を見て、少し考えてみたら杉尾(隆)さんが言われたように何かもうちょっと上手い人が作ったらもっと凄い映画になったかなと惜しい気がします。「ラブアクチュアリー」と比べると小さくまとまった感じがします。ただ、田畑智子が停電にもならない前から、ずっとトヨエツを見ている瞬間から、私はトヨエツが好きなのでドキドキして自分が見つめているみたいな感じになれて、だから、あの二人のシーンは最後まで好きでした。それと、悪いけど宇津井健の話は、あまり面倒くさくって、しらじらしくてよくありませんでした。淡島千景がすこし年寄りすぎますね。もっと色気のある人でも良かったんじゃないかと思います。私もエレベーターのシーンは好きでした。

酒 井 あまりに夜が長いですよね(笑)。田口トモロヲの一晩の行動に無理がありすぎますよね、確かに。

この後雑談で盛り上がりました。

今月の一本

酒 井 中島みゆきのCD  夜会

金 川 「大停電の夜に」

横 山 「エリザベスタウン」

林 田 「ふたりの五つのわかれ路」

加 賀 「クリムゾクリバー2」

杉尾(隆) 「イン・ハー・シューズ」

鬼 束 「私の頭の中の消しゴム」

手 塚 「スカーレット・レター」

笹 原 「エリザベスタウン」

杉尾(久) 「エリザベスタウン」