■シネマ 2004年10月

「スウィングガールズ」
吹き替えなしで見事な演奏披露
(2004年10月7日)

あの「ウォーターボーイズ」から三年、矢口史靖監督がまたひらめいた。山形県のとある高校で、ひょんなことからビッグバンドジャズをやる羽目になった十六人の女子と一人の男子のある夏の物語である。

女子高生のジャズバンドとは聞いたことがないが、うそっぽい話にリアリティーを感じるのは、出演している女優さんたちが映画の主人公の成長と同じく、一から楽器をこなし、しかも本人たちが実際に吹き替えなしで見事に演奏を披露しているからだろう。

主役の友子を演じるのは「チルソクの夏」や「ジョゼと虎と魚たち」の上野樹里。六月の宮崎映画祭でゲストとして来県した「ジョゼ―」の犬童一心監督が、彼女を絶賛していたのは記憶に新しい。

コメディーとして十分笑わせてくれるし、山形弁の彼女たちが終始「スウィング」していて、それに乗せられてか、最後の演奏では感動さえ覚えた。(笹原)


「アイ,ロボット」
反乱を起こす新型ロボット
(2004年10月14日)

二〇三五年のシカゴ。街を歩く人々の半数くらいはロボットである。三十年後の世界ではロボットは家庭用としてさまざまな分野で働き、人間と共存している。

そんな社会でロボット工学の第一人者が殺される。主人公の刑事スプーナー(ウィル・スミス)は新型ロボットのサニーが犯人とにらむ。しかし、ロボットは「ロボット工学三原則」によって人間に危害を加えないはず。なぜ殺人は起きたのか。やがて大量のロボットが反乱を起こし始める。

目を奪われるのは計算し尽くされた幾何学的美しさのシカゴの街であり、道路であり、車である。主人公が多数のロボットに襲われるカーチェィスシーンでは思わず身を乗り出してしまった。

今までのSF映画の大半にはうそくささを感じたが、この映画ではまったく感じなかった。ロボットの柔軟な動きと目の表情にもよるのだろうか。人間への警告も含めて、とにかく超お薦めの大作である。(林田)

「イン・ディス・ワールド」
難民キャンプ脱出の旅物語
(2004年10月21日)

パキスタン難民キャンプで生活するアフガニスタン人少年二人のロンドンまでの命をかけた旅の物語である。過酷な状況の中、少年たちはどんなことにもあきらめず、夢の国イギリスへ向けて突き進む。演じた二人の少年は実際に難民キャンプで生まれ育ったという。

パキスタンからイラン、トルコ、イタリア、フランスを経由してイギリスまでバスとトラックとフェリーを利用して、うさんくさい仲介者を頼りにした六千四百キロに及ぶ旅は息も抜けない。何の希望もない難民キャンプからの脱出には彼らの親の希望も託されている。息詰まる物語である。

監督はイギリスの実力派として知られるマイケル・ウィンターボトム。昨年のベルリン映画祭でグランプリを受賞した。ハリウッド映画ばかりでなく、こんな映画こそ多くの映画館で上映してほしいと思うが、宮崎では公開されなかった。ビデオでぜひ見てほしい。(林田)=ビデオ・DVD発売中。


「赤い月」
激動の時代の日本人を描写
(2004年10月28日)

中国を侵略してから終戦までの日本人の姿が描かれる。外地に取り残された人々はどのようにして日本に帰ったのか。当時五歳だった私にはぼんやりとした記憶しかないが、それをくっきり突き出されたようで、涙があふれた。

画面いっぱいに映る赤い月は激動の時代を強く物語る。主人公の森田波子(常盤貴子)は自分の運命を誰のせいにもしない。「私は生きたいのです。生きて子供たちを生かしたいのです」。波子の利己的と思える強さは美しい。

同じ時代を生き延びた日本人には思い出したくない映像かもしれない。しかし年月は流れ、この時代を知る人々は少なくなった。中国から祖国に帰った日本人も、祖国を踏みにじられた中国人も歴史の中に消えようとしている今、この映像は見ておくべきだろう。降旗康男監督以下スタッフの情熱で、原作者のなかにし礼にも満足できる作品になったと思う。(林田)=ビデオ発売中。