シネマ 2004年12月

「誰も知らない」
母に捨てられた4人の子供たち
(2004年12月2日)

父親の違う四人の子供たちが母と暮らしている。戸籍はない。母親は「人に見られると一緒に暮らせなくなる」と外へ出ないよう約束させている。ある日、クリスマスには戻るから、と母は出て行き、子供たちだけの生活が始まる。

十二歳の長男(カンヌ映画祭主演男優賞の柳楽優弥)は懸命に弟妹の世話をするが、少年らしい明るい瞳は生活が荒れるに従い、暗い光をたたえた大人の瞳へと変わる。何があっても彼は泣かない。生きていかねばならないから。そのたびに瞳にあきらめの色が宿る。

クリスマスに母は戻らずサンタの奇跡も起こらない。どんなに約束を破られても彼らは母を愛している。サンタを信じているように母のことも信じている。

ラストに救いはない。しかし子供たちの強い生命力、こちらを見上げる純粋な瞳と差し出される手が静かに胸を打ち、彼らの後ろ姿をこのままずっと見守っていたいと心から思った。(手塚)


「モンスター」
美しいセロンが連続殺人犯熱演
(2004年12月9日)

米国初の女性連続殺人犯アイリーン・ウォーノスをシャーリズ・セロンが演じ、今年のアカデミー主演女優賞を受賞した。

彼女はとても美しい女優だが、体重を十三キロ増やし、メークで肌を汚く見せ、荒れた生活をしていたであろう主人公の役作りをした。下着姿の全身を映す場面には正直、驚いた。

虐待され教育も受けず愛される事を知らずに育ち、娼婦になるしかなかったアイリーンが同性愛者セルビーと出会う。「あなたは美しいわ」。誰からも顧みられず生きてきた彼女にとっては無知で世間知らずな女の子のつぶやきが天からの鈴の音に聞こえたのだろう。セルビーとの生活のために職探しをするが、うまくいかず、強盗殺人まで犯すようになる。

良い出会いは良い出来事を生むが、逆もしかり。主人公の不幸はそれにつきる。彼女のような人と友人になれるだろうか?そんな「普通の人々」の思いこそが「モンスター」なのだろうか?(手塚)


「ポーラー・エクスプレス」
北極点向かう機関車の冒険
(2004年12月16日)

毎年この季節になると、クリスマスを題材にした作品が公開される。今年のクリスマス映画はロバート・ゼメキス監督のこの作品である。

クリスマス・イブの夜、もうクリスマスを信じないと思った少年の家の前に巨大な北極点行き機関車ポーラー・エクスプレスが姿を現す。少年は機関車が動きだすと、意を決して飛び乗り、北極点へ旅をする。種々の冒険を乗り越えてたどり着いた北極点ではサンタクロースが世界中の子供たちにプレゼントを渡す旅に出る直前だった。

実際の俳優の演技を全方向からとらえてコンピューターに取り込む「パフォーマンス・キャプチャー」という最新技術が用いられている。最大の魅力は、この技術によってリアルで美しいアニメに仕上がっていることだ。アメリカ映画らしくにぎやかでゴージャスな作品だが、僕はどちらかというと、素朴でもっと温かみのあるクリスマスの方が好きである。(酒井)


「ターミナル」
見事な演技と心温まる物語
(2004年12月23日)

ニューヨークの国際空港に到着した東欧の小国クラコウジアのナボルスキーは母国のクーデターでパスポートが無効となり、入国を拒否される。情勢が安定するまで帰国もできず、空港の中で暮らし始める。

スティーブン・スピルバーグ監督の新作である。主演は「プライベート・ライアン」のトム・ハンクス、共演は「シカゴ」のキャサリン・ゼタ=ジョーンズとなれば、ファンは大いに期待することとなる。しかし、この作品、その期待を少々裏切る出来となっている。

心温まる物語とトム・ハンクスの演技は素晴らしいが、スピルバーグの得意とする華麗なカメラワークは見られず、これまでの作品に比べて、インパクトが弱いのである。

「E.T.」を見終わった後の幸福感や「プライベート・ライアン」で描かれた戦争のむなしさに比べると印象は薄い。スピルバーグはここ数本凡作が続いている。次作で復活を期待したい。(酒井)


「ブラザーフッド」
観客引き込む見事な導入部
(2004年12月30日)

朝鮮戦争に巻き込まれた名もなき市民の怒りと悲劇と狂気を描いた、まさに戦場そのものの映画である。カン・ジェギュ監督が前作「シュリ」を超える衝撃と感動の戦争映画に仕上げた。

突然始まった戦争でソウル市内は大混乱に陥る。十八歳から三十歳までの男は有無を言わさず徴兵され、戦場へと列車で送られる。弟ジンソクを連れ去られた兄ジンテは、弟を守るため列車に飛び乗り、共に戦場へ向かう。

観客を一気に引き込む見事な導入部分である。戦闘の悲惨さ、兄弟家族の愛が息つく間もなく描かれ、リアルに迫ってくる。同じ民族同士が殺し合うシーンには息苦しさを覚えるほど。弟思いの心優しい兄が追い詰められて狂気へと変わる姿は生々しく鋭く心に突き刺さる。

主演は韓国四天王と呼ばれるチャン・ドンゴンとウォンビン。二人とも迫力のある演技を見せている。 (林田)=ビデオ発売中