かつてのライト・スタッフでスペースシャトルに乗ったジョン・グレンがいなかったら、この映画生まれなかったのではないかと思う。むろん、ジョン・グレンの場合は老人の宇宙滞在のデータを取るというミッションもあったのだろうが、40年前に宇宙への夢を断たれた元ライト・スタッフ4人(新聞に“ライプ・スタッフ”とからかわれる)が宇宙を目指すこの映画、決して老人力をひけらかすわけではない。設定の無理を承知の上で今年70歳のクリント・イーストウッドは、宇宙にかける男の夢をファンタスティックに歌い上げた。ジェームズ・ガーナーとドナルド・サザーランドが老人の立場で登場してもイーストウッドとトミー・リー・ジョーンズに関する限り、これは30代、40代の男であっても別にかまわないわけで、自分の老いを逆手にとっているのではないのである。老いを前面に出していたら、コメディにしかならない題材だろう。NASAが全面協力したという後半の宇宙の場面が素晴らしい出来。前半の単調さを大いに補っている。
レトロな雰囲気のモノクロ画面で映画は幕を開ける。1958年、空軍パイロットのフランク・コービン(クリント・イーストウッド)とホーク・ホーキンズ(トミー・リー・ジョーンズ)らチーム・ダイダロスのメンバー4人は宇宙飛行を夢見て訓練を続けていた。しかし、上司のボブ・ガーソン(ジェイムズ・クロムウェル)が最初の宇宙飛行士に選んだのは人間ではなく、チンパンジーだった。40年後、既に引退しているコービンにNASAから協力要請が来る。ロシアの通信衛星アイコンが壊れ、地球に落下しようとしているというのだ。アイコンのシステムはかつてのスカイラブ(懐かしい)のものと同じで、スカイラブの設計を担当したコービンに白羽の矢が立ったのだった。コービンは宇宙での修理を引き受けるが、メンバーにはチーム・ダイダロスの仲間を要求。4人は老骨にむち打って過酷な訓練を乗り切り、念願の宇宙に旅立つ。
イーストウッドは前半の訓練場面にホークとNASAの女性科学者サラ(マーシア・ゲイ・ハーデン)との愛を絡めたりして変化を持たせてはいるが、やや退屈。その代わり、宇宙に行ってからの場面がとにかく良くできている。システムを回復したアイコンがシャトルに衝突し、ガチャンガチャンと本来の姿を現す場面は緊張感にあふれる。なんとなく「アイアン・ジャイアント」を思わせる変貌なのである。無重力の描写からシャトル内部・外部のセットまで宇宙に関する場面は特筆に値する出来。シャトルの機体が損傷したまま大気圏に再突入する場面もいい。細部のリアルさが抜きんでていると思う。宇宙の場面が全体の半分以上を占めていたら、何も言うことはなかった。
ここが短いためにアイコンの修理があまりにも簡単に行きすぎる印象を受けるし、膵臓ガンを病んだホークが自分の運命を受け入れたうえで夢を実現するシーン(分かりにくい書き方で申し訳ない)の気持ちの変化もやや説得力に欠けると思う。イーストウッドの狙いが夢を実現する男たちを描くことにあったことは明らかだが、この技術を使って全編宇宙を舞台にした映画を観てみたいものだ、と長年の宇宙SFファンとしては思わざるを得ない。
【データ】2000年 アメリカ 2時間10分 配給:ワーナー・ブラザース映画
監督:クリント・イーストウッド 製作総指揮:トム・ルッカー 製作:クリント・イーストウッド アンドリュー・ラザー 脚本:ケン・カウフマン ハワード・クラウスナー 撮影:ジャック・N・グリーン 美術:ヘンリー・バムステッド 音楽:レニー・ニーハウス 衣装:デボラ・ホッパー 視覚効果監修:マイケル・オーウェンズ
出演:クリント・イーストウッド トミー・リー・ジョーンズ ドナルド・サザーランド ジェームズ・ガーナー ジェイムズ・クロムウェル マーシア・ゲイ・ハーデン ウィリアム・ディベイン ローレン・ディーン コートニー・B・バンス バーバラ・バブコック シャーベジア ブレア・ブラウン
1970年代にヒットしたテレビシリーズよりもアクションに比重が置いてある。主演のキャメロン・ディアス、ドリュー・バリモア、ルーシー・リューの3人ともカンフーばりばり。ディアスのアクションの決まり方には感心させられるほど。プロデュースも兼ねたバリモアの要望でエンジェルたちは拳銃を持たず素手で立ち向かうが、こんなに強ければ拳銃など不要である。香港から招かれたユエン・チョンヤンが武術指導し、1日6−8時間の練習に励んだ成果で、この映画の成功はひとえにこのアクション場面の切れ味にあると思う。これにディアス、バリモアのセクシーさ、エンジェルとチャーリーの仲介役ボスレー(ビル・マーレー)も絡んだユーモアが満載され、エンタテインメントとして申し分ない出来。監督デビューのマックジーの演出は前半ややモタモタしているけれど、ささいなことと目をつぶってしまえる。上等なところは狙わないが、とにかく1時間38分楽しませてくれる水平線上の傑作とでも言うべき作品。気分良く見られるのが何よりの利点で、シリーズ化を切に希望する。
コロンビア映画のトレードマークである自由の女神の背景にある雲から飛行機の場面に移り、大がかりな空中アクションが展開されるオープニングは快調な出足。エンジェルの3人をさらりと紹介する場面はテレビ調の演出だ(かつてのシリーズのメロディが流れるのがうれしい)。ナタリー(キャメロン・ディアス)、ディラン(ドリュー・バリモア)、アレックス(ルーシー・リュー)の美女3人は謎の富豪チャーリーの指令で動く探偵。今回の任務はノックス社の誘拐されたプログラマー、エリック・ノックス(サム・ロックウェル)を助け出すこと。ノックスが開発した音声追跡ソフトは指紋よりも正確な判定を下し、通信衛星を使って声の主が地上のどこにいても見つけだすことができる。ノックスはこのソフトとともにライバル社にさらわれたらしい。ノックス社の社長ビビアン(ケリー・リンチ)から依頼を受け、3人はライバル社の社長ロジャー・コーウィン(ティム・カリー)の周辺を捜査する。しかし、不気味な拳法の達人がそれを妨害。路地裏での対決が最初のアクションの見せ場となる。
それまでややぎこちない演出に眉をひそめていたのだが、ここで不満は解消された。ディアスのすらりと伸びた足から繰り出されるキックの破壊力、ワイヤーを使った空中戦、決めのポーズまで3人とも見事なアクションを披露する。3人はノックス救出に成功するが、その後一ひねりあり、エンジェルたちは危機にさらされることになる。クライマックスにはまたカンフー炸裂の場面が展開される。エンジェル3人のキャラクターはテレビシリーズのような才媛ではなく、コケティッシュな部分(特にキャメロン・ディアス)があり、チロルの衣装で敵の捜査をする場面などは爆笑もの。最初から最後までほとんど冗談半分のようなお気楽タッチである。セクシーな場面も上品に仕上がっているのに好感を持った。
劇中で登場人物の一人が「またテレビシリーズの映画化か」と揶揄する場面があるけれど、これはテレビシリーズの映画化作品の中では大いに成功した部類に入るだろう。「ミッション・インポッシブル」はテレビシリーズを破壊するベクトルを持っていたのに対して、この映画はテレビシリーズをはるかにパワーアップして見せる方向に振っている。マックジーの演出はビジュアルな場面をつないでいく方法で、まあ、あまり上等とは言えない。脚本も決して良くできているわけではないが、画面の充実度がそれを救っている。主演3人の魅力が弾けているのが勝因なのである。
【データ】2000年 アメリカ 1時間38分 コロンビア映画 ソニー・ピクチャーズエンタテインメント配給
監督:マックジー 製作:レナード・ゴールドバーグ ドリュー・バリモア ナンシー・ジュボネン 製作総指揮:ベティ・トーマス ジェノ・トッピング ジョセフ・M・カラッチオーロ 武術指導:ユエン・チョンヤン 脚本:ライアン・ロウ エド・ソロモン ジョン・オーガスト 撮影:ラッセル・カーペンター 音楽:エドワード・シェームア 衣装デザイン:ジョセフ・G・オーリシ 美術:J・マイケル・リーバ
出演:キャメロン・ディアス ドリュー・バリモア ルーシー・リュウ ビル・マーレー サム・ロックウェル ケリー・リンチ ティム・カリー クリスピン・グローバー マット・ルブラン LL・クール・J トム・グリーン ルーク・ウィルソン ショーン・ウォーレン ジョン・フォーサイス
馳星周の原作を今絶好調の三池崇史が監督した多国籍なハードアクション。新宿を舞台に日系ブラジル人とチャイニーズ・マフィア、ヤクザ、警察が入り乱れ、混沌とした熱気あふれる画面を展開する。だがしかし、そんなにすっきり行かないのが三池崇史の映画らしい。クライマックス、チャイニーズ・マフィアのボス・コウ(及川光博)とヤクザ伏見(吉川晃司)の対決場面でコウは突然、「卓球しませんか」などと言うのだ。もちろんそれ以前にコウが卓球をする場面は挿入されているのだが、まともな映画ならありえない展開。冒頭のどう見てもアメリカの風景にしか見えない場所にボンカレーならぬ“ポンカレー”の看板と埼玉県警のパトカーを登場させ、字幕に“埼玉県”と出すセンスにしても、いい加減と言うにはあまりにも戦略的すぎる演出なのである。リアリズムを力業でねじ伏せるこの演出をどう受け止めるかが映画の是非を左右する事になるのかもしれない。三池演出の形容詞としてよく使われる破天荒と、破綻とは紙一重なのである。僕は不幸にして三池監督の他の作品を見ていないが、今回は必ずしもうまくいっていないと思う。
では演出が破綻しているのかと言えば、そうではない。つまらないのかというと、まずまず面白い。主人公の日系ブラジル人マーリオを演じる新人TEAHの野性味がいいし、吉川晃司や及川光博、まるでやる気のない刑事役の柄本明らいずれも好演している。恐らく、恋人ケイ(ミッシェル・リー)と日本を脱出するためにヤクザの金を強奪し、争いに巻き込まれていく物語が緊密にストレートに描かれていたなら、好みの映画になっていただろう。画面に時折挟まれる本筋とはあまり関係のない描写が緊密さを削ぐのである。例えば、闘鶏の場面。原作者の馳星周と映画評論家の塩田時敏が鶏を戦わせるこの場面、CGの出来が今ひとつなのは我慢できるし、描写のおかしさもむしろ好ましいのだが、その後に塩田時敏が死んだ鶏を中華料理店に持っていき、店主から嫌がられる場面などは単なるその場限りのおかしさに過ぎず、なくてもいいような場面と思う。こんな場面を描くのなら、主人公の怒りと焦燥をもっと具体的に描くべきではなかったか。
あるいはブラジル人の盲目の少女カーラ(勝又ラシャ)。これまたクライマックスに伏見にさらわれて、マーリオが救出に向かうことになるのだが、この少女がなぜブラジル人社会で特別視されているのかをもっと描くべきだったように思う。描写の不足が多いのである。ラストの処理にしてもかつてマーリオと愛人関係にあったルシア(パトリシア・マンテローラ)の描写が不足しているので、唐突な展開にしか思えない。本筋となる描写を不足させてまで、ギャグに場面を割く必要があったのか。
こちらが期待するのが緊密でストレートなアクション映画であり、深作欣二「仁義なき戦い」のような重喜劇であるため、厳しい言い方になるが、本来の描写をないがしろにしてその場限りの描写のおかしさを挟むのは逃げだろう。物語に乗りたいと思っても乗せてくれない苛立たしさがつきまとう映画であり、もっと面白くなるはずなのにこれでは惜しい。三池崇史の映画はそういう映画だといわれれば、それまでだが、それ以上のレベルを目指さないのなら、三池崇史の将来はちょっとヤバイような気がする。
【データ】2000年 1時間43分 大映 徳間書店 東北新社 TOKYO FM製作 配給:東宝
監督:三池崇史 製作総指揮:徳間康快 製作:植村伴次郎 後藤亘 山本洋 原作:馳星周「漂流街」(徳間書店) 脚本:龍一朗 橋本浩介 音楽:遠藤浩二 主題歌:Sads「NIGHTMARE」 撮影:今泉尚亮 美術:石毛朗 衣装デザイン:山下隆生
出演:TEAH(テア) ミッシェル・リー パトリシア・マンテローラ 吉川晃司 及川光博 テレンス・イン セバスチャン・デヴィセント 野村佑人 マーシオ・ロッサリオ 勝又ラシャ 馳星周 麿赤児 大杉蓮 柄本明 塩田時敏
壁を軽やかに駆け上り、屋根を飛び越え、空中を舞い、竹林の上で戦いを繰り広げる。アクションがどれもほれぼれするぐらい見事だ。アクション監督ユエン・ウーピン(「マトリックス」)の指導の下、チョウ・ユンファ、ミシェル・ヨー、そして新人(2作目)のチャン・ツィイーが華麗な演技を見せてくれる。本来ならそれで満足してもいいのだが、この映画、出演者が素晴らしすぎるだけに脚本のまずさが目に付いてしまう。2組のカップルのうち、どちらを中心に描きたかったのか、中途半端なのである。ツィイー演じるイェンを主人公にした原作(全5部作の第4部)にアン・リー監督が第2部のエピソードを挟んだのだそうだ。ユンファとヨーの物語として幕を開けた映画は中盤、長い回想でツィイーの愛を描くことになる。2つの物語を結びつける手法としてはとても褒められたものではない。ラストの処理から見ても、ツィイーの視点で最初から物語を組み立てた方が良かったと思う。清楚で活発な魅力を輝かせるツィイーの演技を見ると、それで十分面白い映画に仕上がったのにと残念でならない。
急いで付け加えておくと、これは見る価値のある映画である。アクションとツィイーの魅力を確認するだけでも十分だ。舞台は19世紀初頭の中国。名剣グリーン・デスティニー(碧名剣)の使い手として知られるリー・ムーバイ(チョウ・ユンファ)はムーダン山での修業を切り上げ、弟子のユー・シューリン(ミシェル・ヨー)の元へやってくる。ムーバイとシューリンは惹かれあっているが、シューリンの死んだ恋人はムーバイの親友でもあった。このためお互いに思いを打ち明けられないでいる。ムーバイは武侠の道から引退することを決意し、グリーン・デスティニーを北京のティエ氏(ラン・シャン)に届けるようシューリンに頼む。シューリンが剣を届けたその夜、黒装束の賊が侵入、グリーン・デスティニーは盗まれてしまう。ここで賊とシューリンが繰り広げる戦いはスペクタクルだ。壁を上り、屋根を飛びといったアクションはここで最初に披露され、それまでのゆったりとしたペースを鮮烈に打ち破る。
賊の正体は結婚を控える貴族のユィ長官の娘イェン(チャン・ツィイー)らしい。しかも長官の屋敷にはムーバイの師匠を殺した女剣士“碧眼狐”(ジェイド・フォックス)が潜んでいるらしいことも分かる。ジェイド・フォックスと、フォックスを仇と狙う警官の決闘の場に現れたムーバイはフォックスを追いつめるが、黒装束の賊が駆けつけ、2人はまんまと逃げおおせてしまう。ジェイド・フォックスの正体はイェンの家庭教師(チェン・ペイペイ)だった。イェンは10歳のころからフォックスの指導を受け、今や師匠を超える技術を身につけていた。そのイェンの元へある夜、一人の男が現れる。砂漠で盗賊生活をするロー(チャン・チェン)。イェンとローはかつて愛し合った仲だったが、結婚を控えるイェンはローに別れを告げる。あきらめきれないローは結婚式当日にイェンの行列を襲い、イェンに復縁を訴える。
映画はこの後、家を出たイェンとそれを追うムーバイ、シューリン、ローを絡め、クライマックスのフォックスとの戦いになだれ込んでいく。各エピソードに挟まれるアクション場面はどれも見応えのある出来。男の扮装をしたイェンが酒場で大暴れする場面などは爽快ささえ覚える。驚いたのはチョウ・ユンファが風格あるアクションを見せること。アクション俳優なのだから当たり前とも言えるのだが、ユンファの演技はいかにも剣の達人といった風情を漂わせ、見事なものである。ミシェル・ヨーのアクションが凄いのは言うまでもない。
静かな情熱を燃やすムーバイとシューリンの描写は心に残るし、溌剌としたイェンとローの激しい愛もいい。こうした素晴らしいアクションと演技があるだけにストーリーにもっと気を配ってもらいたかったとの思いが強まる。ムーバイとシューリンの描写を増やしたのはアン・リー監督の意向らしいが、視点が分散することによる欠陥までは考えが及ばなかったのだろうか。
【データ】2000年 中国=アメリカ 2時間 配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
監督:アン・リー 製作総指揮:ジェームズ・シェイマス デヴィッド・リンド 製作:ビル・コン アン・リー ヒュー・リコン 原作:ワン・ドゥルー「臥虎藏龍」 脚色:ジェームズ・シェイマス ワン・ホエリン ツァイ・クォジュン 撮影:ピーター・パオ アクション監督:ユエン・ウーピン 美術・衣装:ティン・イップ 音楽:タン・ドゥン チェロ演奏:ヨーヨー・マ エンドタイトルソング:ココ・リー
出演:チョウ・ユンファ ミシェル・ヨー チャン・ツィイー チャン・チェン ラン・シャン チェン・ペイペイ リー・ファーツォン ハイ・イェイン ワン・ターモン リーリー