大恐慌後の1930年代を舞台に、酒浸りの生活を送っていたゴルファーが試合を通じて再起をかける。ロバート・レッドフォード主演の野球映画「ナチュラル」(1984年、バリー・レビンソン監督)によく似た展開だ。レッドフォード監督は自分が主演した「ナチュラル」を気に入っていたのだろう。自分が監督する際に過去の作品を参考にするのは当然か。「ゴルフは人生の比喩」とのセリフがあるが、野球も人生の比喩だから同じような印象になるのは仕方がない。美しい撮影、魅力的な時代背景、主演のマット・デイモン、シャリーズ・セロンの好演でまず楽しめる映画となった。ただし、「ナチュラル」ほどの仕上がりには至っていない。「ナチュラル」は落雷で折れた木でバットを作る冒頭からファンタスティックな雰囲気に彩られていたが、この映画の場合、そういう部分が足りない。試合場面にもう少し工夫が欲しいところ。タイトル・ロールのウィル・スミスには神秘的な雰囲気をもっと持たせた方が良かった。
ジョージア州サヴァンナ。ラナルフ・ジュナ(マット・デイモン)は16歳でアマチュア優勝を成し遂げ、天才ゴルファーの道を順調に歩む。富豪の娘アデール(シャリーズ・セロン)と愛し合い、人生は幸福に彩られていた。しかし第一次大戦への出征で運命は変わる。悲惨な戦場を体験したジュナは英雄として故郷に帰ることを拒否。ひっそりと帰郷した後は酒浸りの生活を送るようになる。アデールの父親は南部一のゴルフ場を建設するが、大恐慌の影響で資金繰りに行き詰まり自殺。アデールはゴルフ場売却を迫る町の有力者たちに対抗するためトッププロ2人を呼んで、賞金1万ドルのエキシビジョン・マッチ開催を計画する。その試合に地元代表としてジュナに白羽の矢が立つ。アデールの説得と、ジュナを尊敬する少年ハーディ(J・マイケル・モンクリーフ)、不思議なキャディーのバガー・ヴァンス(ウィル・スミス)に出会ったことで、ジュナは試合への出場を決意する。
ハーディの父親はゴルフショップを経営していたが、大恐慌で店を手放し、道路掃除で生計を立てるようになる。そんな父親を恥じるハーディに対して、ジュナは「君のお父さんは箒で必死に逆境と闘っているんだ」と話す。よその父親は破産を宣告し、安易な道を選んでいるのに比べてハーディの父親の潔い生き方だと指摘するのである。試合でバガー・ヴァンスがジュナにアドバイスする言葉も人生にそのまま通じる金言と言ってよく、セリフや描写の多くには心に染みるものがある。レッドフォードのリベラルで真摯な姿勢から生まれたものだろう。
残念なのは後半のポイントである試合場面の演出がやや冗長になったこと。試合場面をもっと切り詰め、ジュナの人生そのものを(ダイジェスト的に説明するのではなく)十分に描いた方が良かったと思う。「ナチュラル」のように人生の大きなうねりみたいなものが感じられれば、この映画はもっと輝きを増したはずだ。
【データ】2000年 アメリカ 2時間6分
監督:ロバート・レッドフォード 製作:マイケル・ノジック ジェイク・ロバーツ ロバート・レッドフォード 脚本:ジェレミー・レビン 原作:スティーブン・プレスフィールド 撮影:ミヒャエル・バルハウス プロダクション・デザイン:スチュワート・クレッグ 衣装デザイン:ジュディアナ・マコフスキー 音楽:レイチェル・ポートマン
出演:ウィル・スミス マット・デイモン シャーリズ・セロン ジャック・レモン マイケル・モンクリーフ ブルース・マックギル ジョエル・グレッチ レイン・スミス アンドレア・ポーウェル E・ロジャー・ミッチェル マイケル・オニール リカルド・バンジ ダーリン・ペイジ・ホックマン
ロンドンを舞台に86カラットのダイヤを巡る争奪戦がスピーディーに描かれる。主要登場人物は14人。キャラクターはいずれもすねに傷をもつ人物ばかりなのに、どこかエキセントリックでおかしい。ミュージック・ビデオ出身のガイ・リッチー監督は短いショットをポンポン入れ、コミカルでテンポの良い映画に仕上げた。軽く軽く作ってあるが、逆に言うと、そこが弱さでもある。ラッセル・マルケイ(「ハイランダー 悪魔の戦士」)の昔からミュージック・ビデオ出身の監督に共通するのは、映像は魅力的なのに映画自体の印象は薄いということ(「マグノリア」のポール・トーマス・アンダーソンはその数少ない例外)。ガイ・リッチーの映画もまた、とりあえず楽しく見れるだけで何かもう一つ深みがない。この程度の映像を新しいなどと褒め上げるのはどうか。コメディであってもドラマは必要なわけで、ドラマ性が希薄な映画は個人的には魅力に欠ける。映像の技術はあるのだから、あとは脚本の問題と思う。もっとメリハリをつけ、どこか大きなポイントを設定すると良かった。
主人公はいちおう裏ボクシングのプロモーター、ターキッシュ(ジェイソン・ステイサム)ということになっているが、ほとんど狂言回し的な役回り。パンフレットでもチラシでも一番右端に写っているのだから、ホントの主人公であるわけがない。あくまでもナレーター的な存在である。そのターキッシュの回想で映画は始まる。人間関係が入り組んでいるのに加え、細かいエピソードも多いので(これがどれもおかしいのだが)、ストーリーの要約は難しい。宝石泥棒のフランキー(ベネチオ・デル・トロ)が盗んだダイヤを巡り、ダイヤの故買屋デニス・ファリーナ、ノミ屋に強盗に入って偶然ダイヤを手に入れる黒人トリオ、その黒人トリオからダイヤを取り上げるロシア出身ギャングのボリス・ザ・ブレイド(ラデ・シェルベッジャ)、これに暗黒街のボスのブリック・トップ(アラン・フォード)が絡み、ブラッド・ピットを筆頭とするアイルランド人のグループが入り乱れる。ターキッシュと相棒のトミー(スティーブン・グレアム)はこれらの凶悪な悪党たちに翻弄され、生命の危機に脅されながらも何とか切り抜けていく。
映画が始まってしばらくはこうしたキャラクターの描写が次から次へとあるため目が回るよう。後半、登場人物が次々に(殺されたりして)リタイアしていき、ストーリーが収束していく。この脚本の整理の仕方は決してうまいとはいえない。出色なのはキャラクターの設定で、強力なパンチを持つボクサー役ブラッド・ピットは強いアイルランド訛りでほとんど何をしゃべっているのか分からない。ブリック・トップは気に入らない奴は殺して豚に食わせるというハンニバル・レクターも真っ青の非情さ。一ひねりもふたひねりもあるデフォルメされたキャラクターばかりである。
こうしたキャラクターがひたすら忙しく動き回る。ボクシングにたとえて言えば、ジャブの応酬ばかりで足を止めて打ち合う場面がないのが、物足りなさの原因かもしれない。前作「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」は見ていないが、これと同じような手法の映画らしい。ガイ・リッチーの実力はほかのパターンの映画を見ないと、はっきり分からない。才能はあると思うので、次作には別のパターンを期待したい。
【データ】2000年 イギリス 1時間42分
監督:ガイ・リッチー 製作:マシュー・ボーン 脚本:ガイ・リッチー 撮影:ティム・モーリス・ジョーンズ 音楽:ジョン・マーフィー 美術:ヒューゴ・ルチック・ワイコフスキー 衣装デザイン:ベリティ・ホークス メイク:フェイ・ハモンド
出演:エイド ウィリアム・ベック アンディ・ベックウィズ オーエン・ブレムナー ニッキー・コリンズ ティーナ・コリンズ ソーチャ・キューザック ベネチオ・デル・トロ サム・ダグラス デニス・ファリーナ ジェイソン・フレミング アダム・フォーガティ アラン・フォード ロビー・ジー リンカーン・ゴールディ スティーブン・グレアム レニー・ジェイムズ ビニー・ジョーンズ ブラッド・ピット マイク・リード レデ・シェルベッジャ ジェイソン・ステイサム
南米で起きた誘拐事件をプロの交渉人ラッセル・クロウが解決するアクション。といってもビリングのトップはメグ・ライアンだから、ライアンとクロウのお互いに秘めた愛も同時に描かれることになる。「愛と青春の旅だち」(1982年)のテイラー・ハックフォードは手慣れた演出で、オープニングのチェチェンの誘拐交渉の場面にスピーディーな描写を見せてうまいのだが、どうも物語の展開には今ひとつキレがない。クロウはいったん誘拐交渉をやめて帰国するのに、なぜか再び舞い戻り(この理由がよく説明されない)、最後はランボー並みの捕虜奪還作戦を展開することになる。キャラクターの心理描写が足りず、余計な場面もいくつかあり、ちょっと乱暴な脚本である。今絶好調のクロウといつまでもチャーミングなライアン(1961年生まれだから今年40歳)の魅力は十分に堪能できるものの、これでは困る。考えてみれば、「愛と青春の旅だち」でも最近の「ディアボロス 悪魔の扉」(1997年)でも演出の歯切れ自体は良くなかったから、ハックフォードはこういう演出をするタイプなのだろう。
ダム建設で南米のテカラに来ていた技術者ピーター・ボーマン(デヴィッド・モース)が反政府ゲリラに誘拐される。ピーターの会社はロンドンのK&R(誘拐身代金)企業に事件解決を要請。交渉人テリー・ソーン(ラッセル・クロウ)が派遣される。ピーターの妻アリス(メグ・ライアン)、姉ジャニス(パメラ・リード)とともにゲリラと交渉するが、経営不振のピーターの会社が保険を解約していたことが発覚。テリーはアリスの頼みを振り切り、帰国する。アリスは会社が雇った地元の警備員を交渉人にせざるを得なくなる。警備員とその怪しげな仲間に言われるまま身代金の一部を用意し、金を詰めていたところへテリーが舞い戻り、無償で交渉に当たることになる。ゲリラと粘り強い交渉を続けた結果、事件発生から110日後に条件面で合意に達する。しかしそのころ、ピーターは脱出を試み、足にけがを負った。ゲリラとの交渉も中断。ピーターは同じゲリラに誘拐された人質の救出を計画していたライバル社のディーノ(デヴィッド・カルーソー)らと奪還作戦を展開する。
雑誌「ヴァニティ・フェア」の記事が脚本の基になったという。警察も当てにならない政情不安な南米での誘拐事件の困難さはよく分かるし、場面の絵作りは水準に達しているが、脚本に余計な要素を盛り込みすぎたきらいがある。テリーが息子を訪ねる場面など後にほとんど生かされないし、いったん交渉をやめる場面も不要だった。プロは金で動くのが本筋。個人的な感情で動くと、仕事に支障があるだろう。第一、アリスに最初から恋愛感情を抱いたわけでもあるまい。どうも動機づけに弱い部分が残る。テリーの心境の変化をもっと十分に描く必要があっただろう。物語の根幹にかかわる部分だけに気になった。ゲリラをばたばたと殺して人質を救出するというのも安易な発想ではある。
【データ】2000年 アメリカ 2時間15分 配給:ワーナー・ブラザース
監督・製作:テイラー・ハックフォード 脚本・製作総指揮:トニー・ギルロイ 撮影:スラウォミール・イドゥジアク 美術:ブルーノ・ルービオー 音楽:ダニー・エルフマン 衣装:ルース・マイヤーズ
出演:メグ・ライアン ラッセル・クロウ デヴィッド・モース パメラ・リード デヴィッド・カルーソー
女性心理学者がシリアル・キラー(連続殺人犯)の脳(セル)に入り、誘拐された女性の居場所を突き止めようとするスリラー。女性は水槽の牢(セル)に閉じこめられ、40時間以内に救出しないと、溺れ死んでしまうという時間制限がある。精神世界の異様な描写が見どころで、馬を生きたたままガラスで輪切りにしたり、生きた人間の腸をぎりぎりと巻き上げたりの気色悪さと、石岡瑛子が担当した絢爛豪華な衣装の同居したイメージが繰り広げられる。ただしこのイメージは強烈なので好き嫌いは別れそうだ。監督はCM出身でこれがデビューのターセム。ビジュアルな部分のうまさはいかにもCM出身らしいが、独自の映像感覚があるようだ。加えてビジュアル面に頼りすぎることなく、ストーリー・テリングもまともである。「羊たちの沈黙」などサイコ・サスペンスの定石を踏まえつつ、「マトリックス」を彷彿させる異世界の構築に成功している。ジェニファー・ロペスの魅力を大いに引き出したのも功績だろう。
心理学者のキャサリン(ジェニファー・ロペス)は最新の装置で、自閉症の少年の精神世界に入り、治療を試みていた。しかし、少年の恐怖心から失敗。「自分のところへ少年を招き入れるしかない」とキャサリンは感じる。そのころ、女性を誘拐し、惨殺する連続殺人が繰り返されていた。FBIの捜査で精神分裂症の男スターガー(ヴィンセント・ドノフリオ)が容疑者として浮かび上がるが、FBIが家に踏み込んだ時、スターガーは発作で倒れ、昏睡に陥る。誘拐された女性の居場所はスターガーしか知らない。FBI捜査官ピーター(ヴィンス・ヴォーン)は医師の紹介でキャサリンの研究所を訪れ、捜査協力を要請する。男の精神世界に入ったキャサリンはそこに少年のころのスターガーが父親に虐待され、脅えている姿を見る。荒廃した精神世界の中で、少年スターガーを助けようとするキャサリンと、手がかりを得て女性の居場所を探すFBIの姿が交互に描かれ、サスペンスを盛り上げる。
精神分裂病患者の精神がこの映画で描かれているようなものであるかどうかは別にして、冒頭の少年の精神世界のイメージから面白い描写と思う。抽象的、アヴァンギャルドなイメージと皮膚感覚で気持ちの悪い場面、ホラー的場面などターセムの描くイメージには独自のものがある。しかもターセムは筋の通ったストーリーを大きく逸脱せず、ストーリーを効果的に語るためにこの独自の映像感覚を用いている。よくあるイメージ先行でストーリーをないがしろにしたつまらない作品ではないのである。SF的設定とサイコ・サスペンスをミックスしたストーリーを破綻させなかった演出力は認めていいだろう。ラスト、「私の精神の中では私が王様」と言い放ち、邪悪なスターガーを撃退するキャサリンの姿は「マトリックス」のキアヌ・リーブスに似た快感があった。
監督名は日本語ではなぜか、ターセムとしか表記されていないが、パンフレットにはTARSEM SINGH(ターセム・シン)とある。M・ナイト・シャマラン(「シックス・センス」「アンブレイカブル」)、シェカール・カプール(「エリザベス」)と同じくインド出身。そう聞くと、イメージにどこか東洋のにおいが感じられてくる。
【データ】2000年 アメリカ 1時間49分 ギャガ=ヒューマックス共同配給
監督:ターセム 製作:エリック・マクレオド スティーブン・R・ロス 脚本:マーク・プロトセヴィッチ 撮影:ポール・ローファー 美術:トム・フォーデン 衣装:エイプリル・ネイピア 衣装(スペシャリティ):石岡瑛子 メイク:ミシェル・バーク 特殊効果:クレイ・ピニー 視覚効果:ケヴィン・ドット・ホー 音楽:ハワード・ショア
出演:ジェニファー・ロペス ヴィンス・ヴォーン ヴィンセント・ドノフリオ マリアンヌ・ジャン・バプティスト ジェイク・ウェバー ディラン・ベイカー タラ・サブコフ ジェイク・トーマス ジェームズ・ギャモン パトリック・ボーショー キャサリン・サザーランド