明治時代に3000人の孤児を救った高鍋町出身の石井十次の生涯を描いた山田火砂子監督作品。身も蓋もない言い方をすれば、極めて凡庸な作品である。題材自体はいいのに、料理の仕方が決定的に凡庸すぎる。石井十次の生涯をなぞっただけで、ドラマティックなポイントがない。だから主演の松平健をはじめ出演者にも演技のしどころがない。おまけに自主上映の形での公開が中心のためか、16ミリフィルム。画質の悪さ、画面の狭さが加わって、これならテレビの方がましか、と思えてくる。脚本も担当した山田監督は「私は一人でも多くの方にこの事実を知って頂きたいと思います」とパンフレットに書いている。あまり知られていない事実(というわけでもないのだが)を知らしめることが映画製作の目的にあったとしても、生涯を単になぞっただけの映画にしていいわけがない。出演者には恵まれているのに、これでは惜しい。
映画は日系ブラジル人の西山洋子(今城静香)が病床の祖父から1枚の写真を手渡される場面で始まる。「石井のおとうさんにありがとうと言ってくれ」。祖父からそう言われた洋子は“石井のおとうさん”について知るために宮崎県木城町にある石井記念友愛社に行き、園長の児島草次郎(大和田伸也)から石井十次がどんな人物だったかを聞く。医学生の石井十次(松平健)は明治20年、岡山県大宮村の診療所で代診中に、食べるものにも困っていた浮浪者の女から男の子を預かる。この話が広まり、十次のもとにはたくさんの孤児が集まるようになる。熱心なキリスト教信者であった十次は妻の品子(永作博美)とともに孤児の世話にあたっているうちに、医師になることをやめ、孤児院を開くことを決意。濃尾大地震や東北の大飢饉などで十次が預かる孤児は急速に増えていく。そんな十次の姿勢に芸者の小梅(竹下景子)や資産家の大原孫三郎(辰巳琢郎)は物心両面にわたる援助を積極的に行っていく。
十次が設立した岡山孤児院には最も多い時で1200人もの孤児がいたという。孤児たちが集合した記念写真がパンフレットにも収められているが、この数は相当なものである。石井十次が成し遂げたことに対しては敬服するしかない。それはいいのだが、パンフレットの扉には「一度は放蕩に身を持ち崩しつつも、改心して立ち直り…」とある。この部分を映画はまったく省略している。10年ほど前に放映された日本テレビ「知ってるつもり?!」では性病にかかったことが十次のターニングポイントの一つだったと紹介していた。これを見た時は、それはあんまりだろうと思ったが、一人の人間を描くからにはそういう部分も必要なのである。映画はきれい事で終わった観がある。
だから十次の人間性も分かったようで分からない部分が残る。もっともっと対象に詰め寄り、深い部分をえぐっていく視点がなければ、深みのある映画にはなりようがない。
【データ】2004年 配給:現代ぷろだくしょん
監督:山田火砂子 ゼネラルプロデューサー:山田火砂子 脚本:青木邦夫 松井稔 山田火砂子 プロデューサー:井上真紀子 撮影:長田勇市 プロダクションデザイン:木村威夫 美術:丸山裕司 衣裳:ケイプランニング
出演:松平健 永作博美 辰巳琢郎 竹下景子 今城静香 ケーシー高峰 大和田伸也 牟田悌三 丹阿弥谷津子 堀内正美 小倉一郎 中谷彰宏 石浜朗 草薙幸二郎 磯村みどり 相生千恵子 高村尚恵 和泉ちぬ 星奈優里
ハッピーコーラという清涼飲料水のCMや看板や空き缶が至る所に出てくる。タイアップだとしたらあまりにどぎついと思ったが、そんなコーラはないようだ(同名のお菓子はある)。このCMに何の意味があるのか、2度登場するテレビの無表情な女性アナウンサーと同様に分からない。パンフレットを読むと、鈴木雅之監督は「特に意味やオチはないんですが、全体的にちょっと変な感じにしたかったんです。リアルな現代とは違うハットリくん的な世界観を作りたかった」と言っている。忍者という異形の存在を現代に出すことで、リアリティが失われることを危惧したのかどうかは知らないが、元がコメディなのだから、そういう変な世界にシフトさせるよりは現代そのものに忍者を登場させても別に構わなかった。凝るべきところはそんな部分ではないのだ。同じことは最初に登場する手裏剣のまるで円盤のような見せ方にも言える。あんな風に手裏剣をアップで見せることに何の意味があるのか。意味などないのだろう。鈴木監督の演出はそういうビジュアルに中途半端に凝っている。なのに肝心のドラマがありきたりである。
伊賀忍者最後の服部一族のカンゾウ(香取慎吾)が父親のジンゾウ(伊東四朗)から江戸に修行に行くよう命じられる。最初に会った人が主人で、主人以外に姿を見られてはいけないという条件付き。カンゾウが主人にしたのは小学生のケンイチ(知念侑季)。2人は変な友情を感じながら、ケンイチの両親(浅野和之、戸田恵子)に知られないようにケンイチの部屋で共同生活をすることになる。ケンイチは学校ではいじめられっ子。そのケンイチのクラスに新しい担任のサトー(ガレッジセールのゴリ)が赴任する。サトー先生は超人的な能力を持っていたが、その正体はカンゾウの宿命のライバル、甲賀忍者のケムマキだった。そのころ東京ではおかしな事件が起こっていた。毒物で意識不明の重体とされる事件で、被害者には一見、因果関係はなかった。共通するのは現場に残された棒手裏剣と被害者の腕にある刺青。やがて被害者は甲賀忍者であることが分かる。
原作が月刊「少年」で連載開始されたのが40年前。実写のテレビドラマ(全26話)が放映されたのが38年前だ。僕はこのテレビ版をリアルタイムで見ているが、コメディリリーフの花岡実太(ハナオカジッタ)先生(谷村昌彦)に強い印象がある。今回の映画には登場しないのが残念。鈴木監督もリアルタイムで見ている世代だが、テレビ版と同じ作りにするつもりはなかったのだろう。伊東四朗の起用は「ニン」と言えば、伊東四朗だからだそうで、それならばもっと登場場面を増やしても良かったのではないかと思う。全体的にギャグが幼稚である。子ども向けだからということではなく、ギャグのレベルが低い。
多用されるCGはまずまずのレベルだし、主演の香取慎吾も悪くないけれど、どうもテレビの2時間ドラマで十分な作品を見せられた感じ。フジテレビ製作の映画で、そこそこヒットはするだろうが、刹那的な商売してるなという印象がつきまとう。
【データ】2004年 1時間41分 配給:東宝
監督:鈴木雅之 製作:森隆一 亀山千広 荒井善清 島谷能成 亀井修 柴田克己 原作:藤子不二雄A 脚本:マギー 撮影:高瀬比呂志 美術:清水剛 音楽:服部隆之 特撮:尾上克郎 VFXプロデューサー:大屋哲男 VFXディレクター:西村了
出演:香取慎吾 田中麗奈 ゴリ 知念侑李 戸田恵子 浅野和之 升毅 宇梶剛士 東幹久 伊東四朗
「ウォーターボーイズ」の矢口史靖監督がビッグバンドジャズに打ち込む女子高生たちを描いた青春映画。シンクロをジャズに替えただけと言われそうだが、それでも面白い。ジャズの演奏は出演者たちが猛練習して吹き替えなしだそうで、だんだん楽器の音が出ていくあたりにリアリティがある。元気で溌剌過ぎてトラブルメーカーの主人公をはじめ、漫画みたいなキャラクターの造型に優れており、細かいギャグのセンスも抜群。ゲラゲラ笑って見終わる気持ちの良い映画である。設定からして、どういう映画になるかはほぼ予想がつくのだが、それでも面白く見せる技術は大したものだと思う。悪意を持つ人物が出てこない点、ズッコケたキャラクターばかりな点、細部まで手を抜かない点に矢口脚本の大衆受けする理由があるように思う。ただ、ジャズを扱っていても音楽映画にはならず、あくまでも青春コメディ。そのあたりは「ウォーターボーイズ」と同様で、物足りないと言えば物足りないのだが、素人がジャズに挑戦する話なのだから、バランスを考えれば、こういう仕上がりでいいのだろう。
なぜ、女子高生がジャズをやることになったのかという説明がうまい。東北のある高校。夏休みの補習授業中、吹奏楽部が野球部の応援にいくのをぼんやり見ていた友子(上野樹里)は、遅れてやってきた弁当店を見て、「弁当届けよう」と提案する。補習授業を抜け出すのが目的で、十数人で列車で追いかけるが、途中、弁当1個を食べてしまう。おまけに居眠りして駅を乗り過ごしたため、炎天下、歩いて球場に向かう羽目に。このため、届けた弁当は腐っており、食べた吹奏楽部の生徒と顧問の先生が食中毒でダウン。ただ一人弁当を食べられなかった拓雄(平岡祐太)だけが食中毒を免れる。野球部の試合はまだあるので、責任を感じた(というか、補習を受けない理由のために)友子たちが拓雄の依頼を引き受けて、猛練習に励むことになる。ジャズの魅力も分かって、さあ試合というところで、吹奏楽部の面々が復帰。友子たちはお役ご免となる。吹奏楽部の前では強がりを言っていた友子たちが外に出た途端号泣するのが微笑ましい。ジャズの魅力を知ってしまった友子は買ったのにほとんど使っていなかったiMacを売って、中古のサキソフォンを購入。拓雄をはじめ、スウィングガールズの面々も再結集し、ジャズに詳しい(と思えた)数学教師・小澤(竹中直人)の指導で練習に打ち込むことになる。そして演奏会を目指す。
吹奏楽部は最低24人必要だが、ビッグバンドジャズなら17人でできるというのがジャズを始める理由で、このあたりの脚本の配慮に手抜かりがない。演奏されるジャズは「ムーンライト・セレナーデ」「イン・ザ・ムード」「A列車で行こう」など耳になじんだ有名な曲ばかり。このほか、大イノシシ退治の場面で「この素晴らしき世界」が流れる(ここはホントに漫画チック)。上野、平岡の2人に加えて貫地谷しほり、本仮屋ユイカ、豊島由佳梨の主要メンバーがそれぞれに面白く、キャラクターをきっちり描き分けてある。他のスウィングガールズや脇役の木野花、大倉孝二、白石美帆、徳井優、田中要次、渡辺えり子もうまい。頼りない兄弟デュオの真島秀和、三上真史が失恋の歌をデュエットする場面などは爆笑ものである。その失恋相手のヤンキーな関根香菜、水田芙美子まで含めて、この映画、本当にキャラクターの描き分け、キャラの立たせ方が絶妙だと思う。
【データ】2004年 1時間45分 配給:東宝
監督:矢口史靖 製作:亀山千広 島谷能成 森隆一 エグゼクティブ・プロデューサー:桝井省志 脚本:矢口史靖 脚本協力:矢口純子 音楽:ミッキー吉野 岸本ひろし バンドディレクター:山口れお 倉田俊太郎 撮影:柴主高秀 美術:磯田典宏
出演:上野樹里 貫地谷しほり 本仮屋ユイカ 豊島由佳梨 平岡祐太 関根香菜 水田芙美子 あすか 中村知世 谷啓 桜むつ子 渡辺えり子 小日向文世 大倉孝二 木野花 江口のりこ 高橋一生 田中要次 徳井優 武田祐子 竹中直人 白石美帆 根本直枝 松田まどか 金崎睦美 あべなぎさ 長嶋美砂 前原絵里 中沢なつき 辰巳奈都子
不良の巣窟だった伏見工業高ラグビー部を日本一に導いた山口良治監督を描く熱血青春映画。テレビドラマを見る習慣はないので、山下真司主演のテレビ版は見たことがない。NHK「プロジェクトX」でも取り上げられたそうだが、それも見ていない。監督は関本郁夫。日本映画データベースにあるフィルモグラフィーを見て愕然とするのは、僕が劇場で見た関本監督作品は1本だけで、その「天使の欲望」(「涼子を殺す 殺します」という七五調の字幕が印象的だった)は、25年前の作品だった。すれ違いっぱなしの監督なのである。「スクール・ウォーズ HERO」はその関本監督の30本目の作品に当たる。映画に新しい部分はない代わりにしっかりと作ってあり、熱い映画になっている。ラグビー部と熱血教師という設定はテレビや映画で何度も繰り返され、今の時代なら冷笑的にパロディとしてしか成立しにくい物語だが、時代が1970年代なので、熱血先生がラグビー部を精力的に立て直していく描写に少しも違和感がない。生徒との本音のぶつかり合いに素直に感動できる。一番褒めるべきは映画初主演の照英だろう。自身もスポーツマンである照英は恐らく、この物語を心の底から信じている。だから泣いたり怒ったりの演技が演技らしくなく、本当のように見える。その全力を傾けた姿勢に映画の中の生徒と同様、観客も心を動かされることになる。物語を信じている点では関本監督も同じなのだろう。映画に本物の感情とリアリティをもたらすのは、そうした作り手たちの姿勢なのだと思う。
1974年の京都。ラグビーの元全日本代表だった山上修治(照英)は実業団監督への誘いを断って市立伏見第一工業高に赴任する。荒れる生徒たちを擁護して、校長の神林(里見浩太朗)が言った「生徒たちは寂しいんや」という言葉に惹かれたからだ。しかし、高校は予想以上に荒れていた。酒やたばこは当たり前、校舎の中をバイクで走り回ったり、先生の服に火を付けたり、暴力沙汰も多かった。その不良の中心がラグビー部員と知った山上はラグビー部の監督になり、生徒たちに全力でぶつかっていく。なかなか信用しない生徒を見て落ち込む山上を支えたのは妻(和久井映見)の励ましだった。山上の努力で次第に変化が見え始めたラグビー部だが、京都府高校総体では1回戦で大園高校に112-0で完敗。生徒たちは山上に「俺たちをもっと鍛えてくれ」と泣いて悔しがる。生徒たちを一人ひとり殴って気合いを入れる山上の姿に感銘を受けた生徒たちは心機一転、猛練習に励むようになる。
こうしたメインプロットに映画はさまざまなエピソードを加えていく。京都一のワルと言われた“弥栄の信吾”(小林且弥)の体格を見込んでラグビー部に入れるため、山上が信吾の家を訪れたら、あばら屋に大酒飲みの父親(間寛平)がいる場面とか、その信吾と殴り合って絆を深める場面などはこうした青春ものによくある場面なのにこの映画では十分効果的だ。あるいは朝、校門に立って生徒たちに「おはよう」と声をかけ始めた山上に賛同して他の先生たちが加わる場面、生徒を殴ったために1カ月の謹慎処分を受けた山上のアパートを訪ねた生徒たちが山上を励ます場面などなどはいつかどこかで見た光景であるにもかかわらず、この映画では一直線に感動的である。
ラグビー部員を演じるのは無名の若手俳優ばかりだが、それぞれに懸命に演じていい味を出している。マネジャー役のSAYAKAは「ドラゴンヘッド」などより相当いい。試合場面にも迫力があり、この映画、決して手放しで傑作とは言えないけれど、その熱さだけは十分に観客に伝わってくる。熱血が空回りしない作品はまれである。
【データ】2004年 1時間58分 配給:松竹
監督:関本郁夫 製作:早河洋 迫本淳一 元村武 原作:山口良治(幻冬舎刊) 脚本:佐伯俊道 山田立 撮影:猪本雅三 美術:沖山真保 主題歌:大黒摩季「ヒーロー」Holding Out for a Hero
出演:照英 里見浩太朗 中川剛 井田国彦 石田弘志 河原崎健三 中川礼二 塩屋俊 和久井映見 図司瑛美 間寛平 原日出子 小林且弥 宮川花子 船越英一郎 大八木淳史 CIMA 三浦哲郁 弓削智久 内田朝陽 尾上寛之 SAYAKA