映画とネットのDIARY(tDiary版)
検索エンジンからのアクセスで、お探しのキーワードが見あたらない場合はNamazuで再検索してみてください。
【映画の感想一覧】 2004年7月以降 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年
2013年04月06日 [Sat]
■ 「日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル」
橘玲の本を5冊続けて読んだ。順番に(1)「不愉快なことには理由がある」(2)「日本人というリスク」(3)「「黄金の羽根」を手に入れる自由と奴隷の人生設計 」(4)「日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル」(5)「(日本人)」。(1)は単行本、(2)は文庫本、残り3冊は電子書籍で読んだ。電子書籍の方がすらすら読める気がするのは気のせいか。電子書籍の場合、外出先でもスマホで読めるので読み終えるのが早くなるメリットはあるなと思う。
面白かった順番で並べれば、(2)→(5)→(1)→(4)→(3)ということになる。(2)と(5)は東日本大震災を経た日本の社会と日本人についての考察という点で共通している。(1)は週刊誌の連載をまとめたもので、進化心理学について説明したプロローグが一番面白い。連載部分は文章が短いのでどうしても食い足りない思いが残るのだ。(4)は2004年の本だが、本質的なことは今も変わっていないだろう。(3)は取り扱い注意の本で、資産防衛マニュアルと言いながら、レバレッジを用いたFXや先物取引についても書いてある。こうした投機は資産を減らす(なくす)リスクが大きいことを注意して読んだ方がいい。以下、この本について書く。
まえがきの中で橘玲はアベノミクスによって次の3つのシナリオが想定されると書いている。
(A)楽観シナリオ アベノミクスが成功して高度経済成長がふたたび始まる
(B)悲観シナリオ 金融緩和は効果がなく、円高によるデフレ不況がこれからも続く
(C)破滅シナリオ 国債価格の暴落(金利の急騰)と高インフレで財政は破綻し、大規模な金融危機が起きて日本経済は大混乱に陥る
このうち、一番起こって欲しくないのは言うまでもなく破滅シナリオだが、日銀の新たな金融緩和策(ロイターは「黒田日銀のバズーカ砲炸裂」と書いた)によって国債価格の暴落は短期的には起きにくくなったとみていいだろう。何しろ、毎月7兆円の国債を日銀が買い入れるのだ。これは日銀が国債価格の下落を防ぐために買い支えるということだ。日経電子版だったか、「池の中のクジラ」と評していたが、これが続いている限りは国債価格が暴落する可能性は低く、ということは金利の高騰も予想しにくい。一方で通貨供給量を2倍に増やせば、金利が低いままインフレになる可能性が大きい。もちろん、日銀もそれを狙ってやったことなのだ。
国債価格の暴落を想定しているこの本は破滅シナリオの途中までは「普通預金が最強の資産運用法」と書いているが、前提が崩れた以上、普通預金最強説も崩れたことになる。金利が低いままインフレが起きれば、預金は目減りする。となれば、資産バブル一直線のように思えるが、何が起こるか分からない。5日の長期国債の先物市場がサーキットブレーカーを2回発動するという歴史的な乱高下をしたのは市場もこの緩和策をどう受け止めて良いか分からなかったからだろう。異次元の金融緩和策は異次元の事態を引き起こす可能性がある。従来の破滅シナリオは通用しなくなったが、別の破滅シナリオが起きることも考えられるのだ。
というわけで積極的にこの本を読む必要はなくなったという結論になる。気になったことを一つだけ書いておくと、これまで海外投資を勧めてきた橘玲は本書で「海外投資はしなくていい」と結論づけている。それは金融機関の利益を追求しただけの投資信託が多くなってきたからで、こういう商品を使っての海外投資はむしろ有害ということだろう。ただし、海外投資するなら、ネット銀行の外貨預金で十分と書いていることには大きな疑問がある。預金保険機構の対象にならず、銀行が倒れたら何も救済策がない外貨預金が国家破産の際に何のリスクヘッジになるのか。ヘッジになるどころかリスクを拡大するであろうことは投資初心者でも分かることだろう。