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2013年06月06日 [Thu]
■ GPIFは株価暴落の主犯か?
時々読ませてもらっているインデックス投資ブログの「ホンネの資産運用セミナー」に「レベルが低いGPIFの運用弾力化に関するハフィントンポスト記事 」という記事があった。ハフィントンポストの「GPIF 年金の運用を見直し、杓子定規な無理な売却・買い増しを無くし損失を防ぐ」という記事について「編集部とライターは基本的な資産運用を理解していない可能性が高い」と批判している。元の記事を読んでみると、確かに資産運用に詳しくない記者が書いたのだろうなあと思う。記事の作りも産経ニュースとロイターとWikipediaの記述を組み合わせてお手軽に作った感がありありだ。
しかし、それよりも僕が気になったのはハフィントンポストの記事の下にあったコメント。「GPIFの年金運用見直しが課題として上がった原因は、5/23の大暴落が原因のようですね。というのも、まさにその運用割合が株価が上がってしまったために、割合が19%を突破したために年金が4兆円もぶん投げてしまったそうです」。5月23日の株価暴落の原因はGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が4兆円分の株を売却したからだという意味で、これと同じような書き込みはYahoo!ファイナンスの掲示板にもあった。
こうしたコメントのソースは見つけられなかったが、常識的に考えて4兆円もの株を1日で売るわけがない。マーケットインパクト(株価への影響)が過大なものになるし、それは売却側にも跳ね返ってくるからだ。100兆円以上の資産を運用するGPIFは世界最大の運用機関だから、リバランスはそれを考慮しながら行っているはずだ。
具体的な数字を見てみる。東証ホームページの投資部門別売買状況には週間の売買状況の資料がある。5月20-24日のデータを見ると、GPIFが大部分を占めるとされる信託銀行の売却額は8816億円だ。5日間でこれなのだ。いったいどこを見たら1日で4兆円というとんでもなくデタラメな数字が出てくるのか、訳が分からない。
もっとも、この週に信託銀行(つまりGPIF)は4658億円も売り越しており、暴落の主犯とは言えないにしても一翼を担ったのは否定できない。投資支援サービス会社のFISCOは「年金基金のリバランスによる4000億円超もの売りが値下がり幅の大きさにある程度つながったようだ」と指摘している([Miniトピック]日本株暴落の原因が「外国人が大幅に売り越しに転じたため」というのは嘘(Fisco) )。
この記事が指摘しているように、外国人投資家のこの週の売り越しは44億円に過ぎない。国内の生保・損保は53億円、都銀・地銀等は164億円の売り越し。一方、個人投資家は4080億円も買い越している。当然のことながら株式市場では買う人がいなければ、売ることはできない。その意味で個人投資家は株価暴落の一番の被害者であると同時に一翼も担ったということになる。
なぜ個人投資家は買い越したのか。上げの局面、あるいは上げに転じると思って買った人も多かっただろうが、信用取引が個人投資家の6割強を占めるという事情も影響しているだろう。株価が上がると思って信用取引で株を買った人は大幅な下げで損失が膨らむ。泣く泣く損切りせざるを得なかったが、逆に空売りをした人にとっては、暴落は絶好の買い戻しの場面だっただろう。それを考えると、個人投資家の中には暴落で儲かった人もいたはずだ。もちろん、海外のヘッジファンドも利益を上げたに違いない。
ちなみに5日付の日経電子版は今回の暴落の主因について「ヘッジファンド、CTA、個人、銀行……。総強気で買い上げてきた多様な投資主体が一斉に売ったというのが今回の相場急落の主因だろう」と書いている(『株価急落「高速取引犯人説」は本当か』)。よく暴落の原因とされるコンピューターによる高速売買は5月23日には売り買いがほぼ同数だったそうだ。