ファイナル・デスティネーション

FINAL DESTINATION

「ファイナル・デスティネーション」搭乗するはずの飛行機が爆発するのを予知夢で知った主人公と友人ら7人が離陸の直前に飛行機を降り、危うく死を免れるが、死ぬ運命(死神が立てた死の筋書き)は変えられず、一人一人事故死していく。それだけのストーリーである。死の筋書きを知った主人公たちは何とか運命に逆らおうとするが、よくあるホラーの殺しても殺しても死なない殺人鬼を相手にするよりも分が悪い。勝てるわけがないのである。脚本もそのように進行していく。もう少しひねった話を期待したいところなのだが、相手が運命ではどうしようもないだろう。発展しようのない脚本と言える。監督のジェームズ・ウォンはテレビの「X-ファイル」などの演出を経て、これが映画デビュー。破綻なくまとめており、B級ホラーの味わいには好感を持つが、アイデアが足りないのが致命的だ。出演者はほとんど無名の若者たち。これまた可もなく不可もなくといったところか。

主人公のアレックス(デヴォン・サワ)は普通の高校生。級友たちとフランスへ修学旅行に行くため、飛行機に乗り込んだところで一瞬眠り込んでしまう。そこで飛行機が爆発し、乗客すべてが死ぬ悪夢を見る。あまりにもリアルな夢にアレックスは戦慄し、飛行機を降りると騒ぎ出す。パニックに陥ったアレックスと親友トッド(チャド・E・ドネーラ)ら7人が騒いだのをとがめられ、離陸直前に飛行機を降ろされる。しかしロビーで離陸する飛行機を見ていたアレックスたちの目前で飛行機が爆発。乗客は全員死んでしまう。アレックスには飛行機爆破の疑いが向けられ、周囲からも白い目で見られる。しかし、それだけでは終わりではなかった。トッドが浴槽で奇怪な死を遂げる。自殺と断定されるが、やがて1人また1人と生き残った7人に死が訪れる。

飛行機の爆発シーンは迫力たっぷり。次々に死んでいく7人の死に方も工夫が凝らされている。浴槽でじわじわと苦しみながら死んだり、あっという間にバスにはねられたり、そのあたりの描写はよくできている。しかし、ストーリーの先が読めるし、なぜアレックスが予知夢を見たのかという説明もまったくない。中盤に登場し、「死は必然だ。再び君たちを襲うだろう」と話す黒人の葬儀屋(トニー・トッド)が重要な人物としてストーリーに絡んでくるのかと思ったら、それもなかった。怪奇現象を描いただけで終わり、そこそこ恐怖を煽るけれども、よくあるスラッシャーと比べて格段に出来が良いわけではない。話の展開次第では面白い映画になったと思うが、これだけでは不満が残る。

【データ】2000年 アメリカ 1時間38分 ギャガ=ヒューマックス共同配給
監督:ジェームズ・ウォン 製作:グレン・モーガン ウォーレン・ザイド グレーグ・ペリー 脚本:グレン・モーガン ジェームズ・ウォン ジェフリー・レディック 原案:ジェフリー・レディック 撮影:ロバート・マクラクラン 美術:ジョン・ウィレット 衣装:ジョリ・ウッドマン 音楽:シャーリー・ウォーカー 視覚効果スーパーバイザー・製作:アリエル・ベラスコ・ショー 特殊撮影コーディネーター:テリー・ソンダーホフ
出演:デヴォン・サワ ジョーン・ウィリアム・スコット チャッド・E・ドネーラ アリ・ラーター カー・スミス アマンダ・デッドマー クリスティン・クローク トニー・トッド

[HOME]

ペイ・フォワード 可能の王国

PAY IT FORWARD

「ペイ・フォワード 可能の王国」「でも中にはとてもおくびょうな人たちもいる。変化が怖いんだ。本当は世界は思ったほどクソじゃない。だけど日々の暮らしに慣れきった人たちは、良くない事もなかなか変えられない。だからあきらめる。でもあきらめたら、それは負けなんだ」。ラスト近く、善意の先贈りを始めた少年トレバー(ハーレイ・ジョエル・オスメント)が記者(ジェイ・モアー)のインタビューに答える場面。まるでフランク・キャプラ映画のジェームズ・スチュアートのようなセリフである。このまま終わってしまえば、映画はキャプラ映画のような心地良さを残しただろう。しかし、この後に続く場面がぶち壊しにしてしまった。なぜ、こんなエピソードを入れたのか、僕には理解できない。観客を泣かせるためとしか思えないこのラストの処理、まったくあざとい。この映画、ケヴィン・スペイシーとヘレン・ハントの中年の恐る恐るといった感じの愛や家庭の悲劇を描いたシリアスな部分がとてもいいのだが、肝心のペイ・フォワードの部分で安易な手法を用いてしまった。これがアメリカでの不評の一因ではないか。

善意の先贈りは新任の社会科教師シモネット(ケヴィン・スペイシー)の「世界を変える方法を考えろ」との課題からトレバーが考えたアイデア。1人が3人に善意を贈る。その3人はそれぞれ別の3人に同じように善意を贈る。これが広がっていけば、もっとましな世界が生まれるというわけ。トレバーはまずホームレスの男(ジェームズ・カヴィーゼル)に食事と服を買う金を与える。次にシモネット先生と母親アーリーン(ヘレン・ハント)を何とか結びつけようとする。シモネットは顔にやけどの跡を持ち、自分の生活を完全にコントロールしている男。アーリーンは暴力を振るった夫(ジョン・ボン・ジョヴィ)とのひどい生活のためアル中になっている。この2人の描写がいい。2人とも恵まれない家庭に育ったことが現在の不幸な境遇の原因となっているようだ。他人が自分の領域に入ってくることを拒んでいたシモネットが徐々に心を開いていく過程が好ましく、「アメリカン・ビューティー」のようにアメリカの家庭の悲劇を浮かび上がらせてもいる。

このままこの2人の愛と新たな家庭の誕生を描いただけで終わっても良かったと思う。タイトルとはあまり関係ないけれど、タイトルと中身の関連が薄い映画はいくらでもある。しかし、問題の結末がやってくる。この描写をちょっと別のものに変えれば、映画の印象は随分違ったものになったはずなのに、まったく残念。また、トレバーが知らないところで広がっていたペイ・フォワードの描写もちょっと安易ではある。単純に描写不足のためだが、ヘレン・ハントと母親(アンジー・ディキンソン)の和解もよく分からない。過去にどんな確執があったのか、詳しく描かれていないからだ。

ミミ・レダーの演出は細部の描写に冴えを見せるが、映画をまとめていく過程で計算違いがあったようだ。原作がどういうものか知らないけれど、原作を大きく変えてでも映画の結末には気を配る必要があった。まるで「フィールド・オブ・ドリームス」をパクったようなラスト・ショットも減点対象である。正義と理想を信じて奔走する青年を描き続けたキャプラの映画は「世の中そんなにうまくいかないよ」ということが分かってはいても希望を与えられた。この映画の結末はハリウッド的ハッピーエンドを回避するためだったのかもしれない。しかし、それではやはり映画としては機能しないのである。キャプラの単純だが、力強い映画の方が好ましいのである。

【データ】2000年 アメリカ 2時間3分 配給:ワーナー・ブラザース
監督:ミミ・レダー 製作:スティーブン・ルーサー ピーター・エイブラハムズ ロバート・L・レビー 製作総指揮:メアリー・マクラグレン 原作:キャサリン・ライアン・ハイド 脚本:レスリー・ディクソン 撮影:オリバー・ステイプルトン 美術:レスリー・ディリー 音楽:トーマス・ニューマン 衣装:レネー・アーリック・カルファス
出演:ケヴィン・スペイシー ヘレン・ハント ハーレイ・ジョエル・オスメント ジェイ・モアー ジェイムズ・カヴィーゼル ジョン・ボン・ジョヴィ アンジー・ディキンソン

[HOME]

アンブレイカブル

UNBREAKABLE

「アンブレイカブル」 主人公の秘密はあっさりわかってしまい、そこから先に大きな発展はない。「シックス・センス」のように最後に主人公の秘密が明かされるミステリを期待すると肩すかしを食うことになる。その代わり、主人公に秘密を教える男の話が興味深い。これはつまり、アメリカン・コミックスの世界を真実と信じてしまった男の悲劇。それは他人から見れば妄想としか思えないものだが、真実の証明として主人公が現れてしまう(男が強引に見つけだしてしまう)。M・ナイト・シャマランの語り口は前作同様ミステリがかっており、パズルを組み立てるように物語を構成していく。ここがシャマランの利点でもあるのだが、今回は大きなツイストはない。パズルが組み合わさった後に明らかになる物語を肯定するか、否定するかは観客の嗜好に委ねられる。脇役の男が自分の役割を初めて理解するシーンは悲劇に彩られるけれども、主人公の悲劇性が浮き彫りになった「シックス・センス」に比べると、物語としては弱い。本当はこの脇役の男の立場から描くべき話だったのではないか。脇役の男を主人公にしてしまえば、前作と同様、悲劇と意外性はいっそう強調されただろう。シャマランは前作と同じ映画になることを避けて、こういう展開を選んだのだろうが、主人公の設定をひねりようがないので中盤が単調に感じられる。

131人が死んだ列車事故で主人公デヴィッド・ダン(ブルース・ウィリス)はただ一人生き残る。しかもまったくの無傷で。「なぜ自分だけが」と不審に思うデヴィッドにある日、手紙が届く。「君は今まで病気にかかったことがあるか?」。“Limited Edition”と書かれた手紙の差出人はアメリカン・コミックスの収集家イライジャ・プライス(サミュエル・L・ジャクソン)だった。イライジャはデヴィッドに生き残った理由として驚くべき真相を伝える。この段階でイライジャの語る真相は想像に過ぎないが、デヴィッドは自分でもそれを一つ一つ確かめ、事実であることを知らされるのだ。自分の役割を知り、それを実行した時、デヴィッドは長年悩まされてきた、朝の目覚めの悪さを克服していることに気づく…。このプロットは小説で言えば、短編のアイデアだろう。シャマランはデヴィッドと妻の不仲や息子との交流など家庭的な部分を追加して膨らませているが、本筋とはあまり関係ない描写に終わっている。中盤が起伏に乏しいのはこのためでもある。

「シックス・センス」の映画評を読み返してみたら、“好みから言えば、ウィリスの立場よりも少年の立場から描いた方がSF的になって良かったとは思う”と僕は書いている。実は今回はこれを実践した映画となっている。誤解されないようにはっきり書いておくと、これは超能力者の立場から描く、という意味である。超能力者が自分の力に目覚め、実践していく話。だから今回、SF方面では評価が異常に高い。しかしこれは精神科医が少年の力を役立つ方向に向かわせた「シックス・センス」を裏返しただけであり、テーマ的にはほとんど同じなのである。シャマランは超能力者の立場から描きながら、前作と同じ手法を視点を変えただけで繰り返してしまった。「デッド・ゾーン」や「マトリックス」のようにストレートに描くべきだったのである。

シャマランの脚本は500万ドルももらった割には芸がないと言えば芸がないのだが、シャマランがこのジャンルに大きな関心を持っていることはこれで証明されたと言える。今回の語り口が成功しているとは思わないけれど、シャマランの映画には注目していきたい。デヴィッド・クローネンバーグあたりのSFセンスを取り入れると、シャマランはSF映画の中心的存在になるのではないかと思う。

【データ】2000年 アメリカ 1時間47分 配給:ブエナ・ビスタ・インターナショナル
監督:M・ナイト・シャマラン 製作:バリー・メンデル サム・マーサー M・ナイト・シャマラン 脚本:M・ナイト・シャマラン 撮影:エドゥアルド・セラ プロダクション・デザイナー:ラリー・フルトン 編集:ディラン・ティシュナー 音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード コスチューム・デザイナー:ジョアンナ・ジョンストン
出演:ブルース・ウィリス サミュエル・L・ジャクソン ロビン・ライト・ペン スペンサー・トリート・クラーク シャーレーン・ウッダード

[HOME]

キャスト・アウェイ

CAST AWAY

「キャスト・アウェイ」 撮影に1年間の休止期間を設け、トム・ハンクスはこの間、25キロ減量したそうだ。前半、無人島に漂着した直後はいつもより太っている感じだが、それから4年を経た設定の後半は精悍な体つきになっている。トム・ハンクスに関してはアカデミー主演男優賞ノミネートに恥じない熱演と言っていいだろう。映画全体としてみると、無人島での4年間で、主人公がすっかりアクティブさを失っていることが気になる。冒険小説でよくある「死の直前から生還した男」は過酷な体験を経て自分のネガティブな部分を克服するのが常だけれど、この映画の主人公の場合、それはなく諦観に至るだけなのである。描写のそれぞれには納得しながらも、映画が今ひとつ魅力に欠けるのはこういうアクティブな部分がないからだろう。主人公が到達したのが「生き続けるにはただ息をすることを続ければいい」という認識ではあまりにも収穫がなさすぎるのではないか。

映画の主人公チャック・ノーランドは宅配便会社フェデックスで働く。時間を大事にし、分刻みで世界を飛び回っている。恋人ケリー(ヘレン・ハント)とのデートもままならない仕事人間だ。ある日、出張で乗った会社の飛行機が太平洋上でトラブルを起こし、海に不時着する(このシーンの迫力は凄い)。チャックだけが生き残り、無人島に流れ着く。ここから過酷なサバイバルが始まる。道具を工夫し、ヤシの実を割って食べ、手を傷だらけにしながら火をおこす。けがや病気になっても治療の手段はない。チャックは恋人の写真を入れた時計とバレーボールに描いた顔ウィルソンを話し相手に無人島で4年間過ごす。映画は丹念に丹念にこうした場面を描いていく。ただし、無人島生活のノウハウはよく分かるものの、主人公が精神的に追いつめられた切実さはそれほど伝わらない。後で自殺を図ったことなどがセリフで説明されるだけだ。ノウハウ的部分よりもそういう部分こそ十分に描くべきだった。

島の周囲には高い波が打ち寄せ、脱出は不可能なのだが、チャックは流れ着いた材料を使い、イカダに帆を張ることを思いつく。そして風の力で高波を乗り越え、外洋に出ることに成功する。長期間の漂流の後、帰還。しかしケリーはチャックが死んだと思い、既に別の男と結婚していた。ここでまた主人公は苦難を乗り越えなければならないことになる。映画は生き続けることの意味とか、主人公の考え方の変化をここで描くのだが、どうも無人島生活の意味が際だたない。これでは単に不幸な経験をした男の話に過ぎないのではないか。たとえ、人生の真の意味を見つけたにしても、主人公が前半のアクティブさを失っているのでは面白くない。

もちろん過酷な経験をした人間が必ず弱さを克服するわけではないだろう。ダメになる人もいるだろうし、何も変わらない人もいるかもしれない。序盤の描写が終盤に生きてこないのが困るのである。過酷な体験をした主人公の変貌を描きたかったのなら、序盤にもう少し伏線をちりばめ、変化をもっと明確に描く必要があっただろう。無人島での生活とそこからの脱出に1時間半近く割かれるため、ここが中心の映画としか思えないのである。それならば、序盤と終盤を長々と描く必要はなかった。この映画の休止期間中に撮影された「ホワット・ライズ・ビニース」の場合もそうだったが、どうも最近のゼメキスは描写に無駄が多い。

【データ】2000年 アメリカ 2時間24分 配給:UIP
監督:ロバート・ゼメキス 製作:スティーブ・スターキー トム・ハンクス ロバート・ゼメキス ジャック・ラプケ 脚本:ウィリアム・ブロイルス・Jr 撮影:ドン・バージェス プロダクション・デザイナー:リック・カーター 音楽:アラン・シルベストリ 衣装:ジョアンナ・ジョンストン 視覚効果スーパーバイザー:ケン・ラルストン
出演:トム・ハンクス ヘレン・ハント ニック・サーシー ジェニファー・ルイス ジョフリー・ブレイク ヴォン・バーグ クリス・ノリス ラリ・ホワイト

[HOME]