ブリジット・ジョーンズの日記

Bridget Jones's Diary

「ブリジット・ジョーンズの日記」 世界23カ国でベストセラーとなったヘレン・フィールディングの原作を映画化したロマンティック・コメディ。笑顔がキュートなレニー・ゼルウィガーの好演で、クスクス笑って見られる楽しい映画になった。ゼルウィガー、とびきりの美人ではないが、憎めない等身大のキャラクターを演じたら、とてもうまい女優だと思う。監督はこれまでドキュメンタリーやCM監督を務め、これが映画デビューのシャロン・マグワイア。細部のエピソードに説得力があるのは原作も脚本(フィールディングが加わっている)も映画も女性の視点で統一されているからだろう。30代の女性はこの映画を見て共感できる部分が多いのではないか。ブリジットがたどり着く結論は常識的なのだが、なかなかそれが見えない脚本(アンドリュー・デイヴィスとリチャード・カーティス)にうまさを感じる。

主人公のブリジット・ジョーンズは「体重61キロ、タバコ42本、アルコール30〜 40杯。何よりも10キロの減量、次にパンティーは洗濯カゴに。そして良識あるボーイフレンドを見つけること」と日記に書く、結婚を焦っている32歳。新年に実家で開かれたパーティーでバツイチの弁護士マーク(コリン・ファース)を紹介されるが、ダサいトナカイのセーターにがっかり。実はマークとは子どもの頃、裸で水遊びをしたらしいのだが、そんなことブリジットは覚えていない。タバコをふかし、二日酔いのふりをしてマークを幻滅させる。出版社に勤めるブリジットは上司でプレイボーイのダニエル(ヒュー・グラント)が気になっていた。ミニスカートで出勤したブリジットにダニエルは目をとめ、食事に誘う。司会を務めた(そして大失敗した)出版記念パーティーで、ブリジットは美人弁護士を連れたマークと再会。ダニエルからマークは大学時代の親友で、マークがダニエルの恋人を奪ったひどい奴であるとを聞かされる。その夜、ダニエルと結ばれたブリジットに甘い生活が始まるが、それもつかの間、やがてダニエルにはニューヨークにある本社に婚約者がいることが分かる…。

映画はマークとダニエルの間で揺れ動くブリジットをコミカルに描いていく。30代の独身女性のけなげな努力(?)の実態はおかしいし、友人たち(独身女性2人とゲイ)のアドバイスやブリジットの一人暮らしの様子なども共感を呼ぶようなエピソードで綴られる。ダニエルとのデートの前に「セクシーなのはこれ、でもおなかを引っ込めるにはこれ」とデカパンを選んでしまい、ダニエルにしっかりデカパンを見られる羽目になるエピソードなどは実際にありそうだ。しかし、一番の魅力はゼルウィガーだろう。「オール・バイ・マイセールフ…」(私は独りぼっち)とラジオに合わせて歌う冒頭から快調。いつもより太めだなと思ったら、この映画のために6キロ太ったそうだ。映画「プロポーズ」で「君の勝ちだ」と、ひねくれたプロポーズをするクリス・オドネルをうんざりした表情で見つめるレニー・ゼルウィガーを見たとき、この人はコメディエンヌなんだなと思ったが、その本領が発揮されている。ゼルウィガーは1969年生まれだから今年32歳。ちょうどブリジットと同じ年齢で、その意味でも等身大なのだった。

【データ】2001年 イギリス 1時間37分 ミラマックス・フィルムズ スタジオ・カナル ワーキング・タイトル・フィルムズ UIP配給
監督:シャロン・マグワイア 製作総指揮:ヘレン・フィールディング 製作:ティム・ビーヴァン エリック・フェルナー ジョナサン・キャベンディッシュ 原作:ヘレン・フィールディング 脚本:ヘレン・フィールディング アンドリュー・デイヴィス リチャード・カーティス 撮影:スチュアート・ドライバーグ 美術:ジェマ・ジャクソン 衣装:レイチェル・フレミング 音楽:パトリック・ドイル
出演:レニー・ゼルウィガー ヒュー・グラント コリン・ファース ジェマ・ジョーンズ ジム・ブロードベント シャーリー・ヘンダーソン サリー・フィリップス ジェームズ・コリス

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トゥームレイダー

LALA CROFT: TOMB RAIDER

「トゥームレイダー」 ヒットゲームの映画化で、アメリカでは「女性主演映画のオープニング興行収益ベスト」というスマッシュヒットになった冒険アクション。サイモン・ウエスト(「コン・エアー」「将軍の娘 エリザベス・キャンベル」)の演出自体は緊密さを欠くが、アンジェリーナ・ジョリーが適役といえる活躍を見せ、退屈しない出来になっている。厳しいトレーニングを積んで撮影に臨んだというジョリーの体型と二丁拳銃を鮮やかに操るアクション場面は合格点で、水準的なSFXと併せてビジュアル面での満足度はまずまずである。強大な力を得る秘宝を手に入れようとする秘密結社との対決−という使い古された設定の脚本は明らかに「インディ・ジョーンズ」シリーズを意識した作り。その割に話の発展性とスケール感を欠くのが惜しまれるが、ヒロインが幼いころに死別した父親(ジョン・ボイト)との絆を織り込んだのはポイントで、実際の親子であるボイトとジョリーの関係も手伝って、アクションだけの無味乾燥さから逃れることができたようだ。

ヒロインのララ・クロフト(アンジェリーナ・ジョリー)は英国貴族ビリー・クロフト(ジョン・ボイト)の娘で広大な屋敷に住んでいる。仕事はトレジャー・ハンター、古代の遺跡から秘宝を捜すトゥームレイダー=墓荒らしでもある。ある日、ララは自宅の隠し部屋から20年前に失踪した父が残した時計を見つける。この時計、時間を操作する古代の秘宝トライアングルへの手がかりらしい。トライアングルは滅びた古代都市によって2つに割られ、封印された。5000年に一度の惑星直列時にトライアングルは本当の力を発揮する。秘密結社イルミナーティはトライアングルを捜しており、父の失踪もこれと関係があるらしい。イルミナーティはララの屋敷に押し入り、時計を奪取。父の形見を取り戻し、世界破滅の危機を救うため、ララはトライアングルの片割れがあるカンボジアのアンコールワットに飛ぶ。

映画の冒頭、大型戦闘訓練ロボットとララが戦う場面から、アンジェリーナ・ジョリーのアクションは鮮やかだが、考えてみると、なぜトレジャー・ハンターがここまでして戦闘に強くならなければならないのか、よく分からない。古代の遺跡に侵入者を阻む仕掛けがあるというのは「インディ・ジョーンズ」シリーズの影響だろうし、悪党との秘宝争奪戦のもよくある設定だが、このために体を鍛えているのなら、あまり説得力はない。カンボジアからシベリアへ舞台を移す展開もやや単調で、B級のイメージが抜けきれないのはこういう細部がないがしろにされているからだろう。サイモン・ウエストの演出はビジュアル面での構成は水準的。ただし、それだけなので深みに欠ける映画になってしまう。もう少しヒロインの心情を描き込むと良かっただろう。

広大な屋敷と忠実な執事、天才プログラマーを従える設定は「バットマン」のようで、シリーズ化にはもってこい。事実2作目が計画されている。A級を目指すなら2作目は別の監督に演出させた方がいいと思う。

【データ】2001年 アメリカ 1時間41分 配給:東宝東和
監督:サイモン・ウエスト 製作総指揮:ジェレミー・ヒース=スミス スチュアート・ベイアード 製作:ローレンス・ゴードン ロイド・レヴィン コリン・ウィルソン 脚本:パトリック・マセット ジョン・ジンマン 原案:サラ・B・クーパー マイク・ウエッブ マイケル・コレリー 撮影:ピーター・メンジス プロダクション・デザイン:グレン・スキャントルベリー 美術:ジム・モラハンン デヴィッド・リー デイブ・オールデイ ス・ウィテイク 特殊効果:クリス・コールボールド 視覚効果:スティーブン・ベッグ
出演:アンジェリーナ・ジョリー ジョン・ボイト イアン・グレン ノア・テイラー ダニエル・クレイグ リチャード・ジョンソン クリス・バリー ジュリアン・リンドツット レスリー・フィリップス ロバート・フィリップス レイチェル・アップルトン

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陰陽師

「陰陽師」 野村萬斎に尽きる映画である。恐らく、ほかのキャスティングでは随分安っぽい映画になっただろう。SFXに見るべきものがあるわけでもなく、ストーリーに斬新さがあるわけでもなく、美術にも撮影にも演出にも水準以上のものはない。しかし、野村萬斎の存在は際だっている。平安時代の陰陽師・安倍晴明の妖しさと不気味さと強さを微妙に織り交ぜた存在として演じており、独特のセリフ回しや立ち居振る舞いに感心させられた。原作者の夢枕獏が当初から主人公に想定したというだけあって、これ以上のキャスティングは望めなかっただろう。滝田洋二郎作品としては珍しく明るいエンタテインメントにはなっていず、おどろおどろしさに満ちた映画だが、それが魅力にもなっている。海外のエンタテインメントに比べて惜しいのは陰陽師同士の対決となるクライマックスにSFXが炸裂した場面がないこと。物語を締め括るこの場面に十分なSFXと十分なカタルシスがあれば、満足度はもっと上がっていたのではないかと思う。SFXに関しては全体的に悪くはないが良くもないというレベルで、どうも物足りなさが残る。

今から1200年前、桓武天皇は謀反の疑いで弟の早良親王を殺す。その祟りを恐れて長岡京を捨て、新たに平安京に遷都する。それから150年後の平安時代が背景。都には鬼や妖怪が跋扈しており、それを鎮めるために陰陽師と呼ばれる者たちが活躍していた。安倍晴明(野村萬斎)はもっとも名高い陰陽師だった。その晴明に源博雅(伊藤英明)が中納言の家に生えた奇怪な瓜の正体を暴くよう依頼に来る。晴明は瓜には呪(しゅ)がかかっているとして、簡単に原因を取り除く。ここから晴明と博雅の交流が始まる。そのころ、宮廷では天皇の跡継ぎをめぐって権力争いが秘かに進行していた。左大臣の娘に天皇の子どもが生まれたことで右大臣(柄本明)は苛立ち、陰陽師の道尊(真田広之)を使い、子どもに呪をかける。晴明はそれを救うが、再び、道尊は早良親王を甦らせ、都を滅ぼそうとする。晴明と博雅、そして早良親王の墓を守ってきた不老不死の女・青音(小泉今日子)は必死にそれを阻止しようとする。

「帝都物語」や「魔界転生」など日本製伝奇SFに共通するのは雰囲気が重たくなってしまうことで、根が明るい映画の多い滝田洋二郎監督をもってしてもその呪縛からは逃れられなかった。急いで付け加えておくと、この映画は「帝都物語」よりも「魔界転生」よりも良い出来だし、去年の同じ時期に公開され、一部に同じモチーフを持つ「五条霊戦記」よりも相当良い出来である。残念なのは源博雅を演じる伊藤英明に野村萬斎に負けないキャラクターがないこと。明るくてどこか抜けているが、正義感は強いこのキャラクター、超人と常人、陰と陽を際だたせる役回りで狂言回しでもある。重要な役なのだが、伊藤英明は野村萬斎の迫力に大きく負けている。だから、晴明がなぜ博雅を特別視するのか伝わらないし、2人のホモセクシュアル的な友情関係にもいまいち説得力がない。

これは道尊(なぜ都を滅ぼそうとするのか、よく分からない)を演じる真田広之にも言えることで、いくら熱演していても、野村萬斎とは演技の質が決定的に違うので、対抗できないのである。やはり役者自身が持つ雰囲気は大事なのだなと思う。野村萬斎は映画は黒沢明「乱」以来の出演という。もっと映画に出すべき俳優ではないか。

【データ】2001年 1時間56分 配給:東宝
監督:滝田洋二郎 製作総指揮:植村半次郎 企画:近藤晋 製作:原田俊明 気賀純夫 瀬崎巌 江川信也 島谷能成 原作:夢枕獏 脚本:福田靖 夢枕獏 遠谷信幸 音楽:梅林茂 キービジュアル・コンセプト・デザイン&衣装デザイン:天野喜孝 撮影:栢野直樹 美術:部谷京子 VFXエクゼクティブ:二宮清隆
出演:野村萬斎 伊藤英明 小泉今日子 今井絵理子 夏川結衣 宝生舞 矢島健一 石丸謙二郎 石井愃一 螢雪次朗 下元史朗 木下ほうか 国分佐智子 八巻建弐 萩原聖人 柄本明 岸部一徳 真田広之

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GO

「GO」 「これは僕の恋愛に関する物語だ」。映画はそんな言葉で幕を開け、在日韓国人・クルパーこと杉原(窪塚洋介)の日常と恋愛を描いて2時間2分を駆け抜ける。行定勲監督は重いテーマに笑いとアクションを織り交ぜ、エネルギッシュな演出で一級の青春映画に仕上げた。主演の窪塚洋介も好演しているが、山崎努や大竹しのぶら脇を固める役者陣と金城一紀の直木賞受賞作を元にした宮藤官九郎の脚本が賞賛に値する出来。背景には重いものがあるのだが、それを背景以上の描写にせず、しかもリアルに描きだしているところに好感が持てる。物語を主人公と桜井(柴咲コウ)のラブストーリーとして収斂させていく判断は賢明で、「GO」はまず青春映画として出来が良く、難しい題材を軽やかに描き出したことに成功の要因がある。荒削りな部分も散見されるが、気持ちよく見られるエンタテインメントになっている。

映画は主人公が通う民族学校でのさまざまなエピソードと普通の日本人の高校へ行った後の桜井との出会い、在日であることの告白などを描いていく。2人の出会いから付き合いが始まる部分があっさりしているなと思ったら、これは最後になってその理由が分かる仕掛け。光るのは主人公の父親(山崎努)の滅茶苦茶強い腕力と、それをいいように操る母親(大竹しのぶ)の存在感の大きさ。山崎努は元ボクシング・ランキング7位という設定を信じ込ませるだけのファイティングポーズを難なく決め、大竹しのぶは「親に養ってもらっているうちは甘いんだよ」などと言い放つ中年女の図太さをユーモアたっぷりにリアルに演じている。父親がハワイに行きたかったために朝鮮国籍を韓国籍に変えたというエピソードは軽くておかしいのだが、これも後になって理由があることを主人公は知る。「広い世界を見て自分の将来を決めろ」という父親に主人公は最後まで腕力的にも精神的にも勝てないが、単純に勝てるような両親ではないのである。この2人の役者、本当にうまい。

桜井役の柴咲コウは「バトル・ロワイアル」とは正反対の役ながら、新たな魅力を発散している。初めて入ったホテルで杉原から在日の告白を受け、桜井はためらう。桜井のオープンな感じの父親が実は韓国・朝鮮、中国人に対して差別意識(「血が汚い」)を持っており、その影響で桜井自身もいつの間にか差別意識をはぐくまれていることが明らかになるのだ。「杉原が私の中に入ってくるのが怖い。そうでなくても初めてで、怖かったんだよ」と言う場面は切ないだけでなく、差別の根幹がちらりとうかがえる重い場面だ。2人で寝転がって流れ星を見てしまう場面と、仲直りした時にタイミングよく雪がちらついてくる場面で、どちらも桜井は「あまりにできすぎていて、恥ずかしい」という反応をする。これは大まじめに差別を取り上げることを避けたこの映画の姿勢と同じものだろう。避けたという表現は適切ではないかもしれない。正面からこぶしを振り上げて差別問題を描き、映画が重くなってしまうことを避けたのである。エンタテインメントの中にそういう部分を自然に入れることは難しいのだが、この映画はうまく演出していると思う。だからラスト近くで主人公が桜井に対して大声を振り絞る場面はあまり似合わない。

唯一の不満は桜井の心境の変化が十分に描かれないこと。ホテルで別れた後、なぜ仲直りする気になったのかよく分からない(元々はそういう場面もあったらしいが、編集段階で切ったそうだ)。そこにもっと描写を割けば、映画はもっと充実度を増したと思う。冒頭のスーパー・グレート・チキン・レースの場面から行定勲の演出は疾走感にあふれる。ひ弱な警官の萩原聖人やタクシー運転手・大杉漣のおかしな演技、山本太郎の「バトル・ロワイアル」を彷彿させる演技を引き出しただけでも功績だろう。全体に映画製作への熱意が感じられて好ましい。

【データ】2001年 2時間2分 配給:東映
監督:行定勲 製作:佐藤雅夫 黒沢満 原作:金城一紀「GO」(講談社刊) 脚本:宮藤官九郎 撮影:柳島克己 美術:和田洋 音楽:めいな.co(熊谷陽子 浦山秀彦) 主題歌:The Kaleidoscope「幸せのありか theme of GO」
出演:窪塚洋介 柴咲コウ 山本太郎 新井浩文 村田克 細山田隆人 山崎努 大竹しのぶ 萩原聖人 大杉漣 平田満 上田耕一 塩見三省 水川あさみ 伴杏里 高木リナ キム・ミン ミョン・ケナム

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