バイオハザードII アポカリプス

Resident Evil : Apocalypse

「バイオハザードII アポカリプス」パンフレット前作のラスト、目覚めたアリス(ミラ・ジョヴォヴィッチ)が荒れ果てた街を目にする場面から始まるのかと思ったら、映画はそれより少し前、アンブレラ社の地下研究所ハイブに完全装備の特殊部隊が入っていくところから始まる。案の定、それによってアンデッド(ゾンビ)たちが地上にあふれ出てきて、ラクーンシティはパニック状態、人々は次々にアンデッドになっていく。そこでアリスが目覚める場面へとつながる。アリスが目覚めた理由は実は、というのが映画の中心主題で、今回はアンデッドは少し背景に退き、アンブレラ社が行っていたT-ウィルスの研究とそれによって生まれたモンスター、その目的が明らかになっていく。前作よりSF度は増しており、これはゾンビ映画というよりもSFアクション。B級テイストたっぷりの出来の良いノンストップアクションである。ポール・W・S・アンダーソンからバトンタッチした監督デビューのアレクサンダー・ウィットはスピーディーな演出で物語を語っていく。その反動か、喜怒哀楽の感情描写はどこかに置き忘れたようだが、アクション中心なのだから、それほどの不満は感じない。ビジュアルな題材をビジュアルに撮ることに徹して、ウィットは十分な演出を見せている。

前作はアンデッドに汚染されたハイブからの脱出を描くサバイバルものだったが、今回も核兵器によって消滅させられるラクーンシティからの脱出がメインプロットとなる。アリスやバレンタインたちはT-ウィルスを開発したアシュフォード博士(ジャレッド・ハリス)の依頼で、脱出路を教えてもらう代わりにシティで行方不明となった娘アンジェラ(ソフィー・ヴァヴァサー)を助けることになる。シティにはアンデッドのほか、T-ウィルスに感染してモンスター化した犬ケルベロスや生物兵器のネメシスがアリスたちの前に立ちはだかる。果たしてアリスたちは脱出できるのか。

SF度を増したのはアリスの設定で、前作では普通の人間だったが、今回は超常能力を持つスーパーヒロインとなっている。この能力を得た秘密が物語と関わっており、ネメシスの正体もまたそうである。腕のある監督なら、このあたりの悲劇性をもっと前面に出したはずで、その点がウィット演出の弱いところではある。また、アクション場面でカットを割りすぎるきらいがある。ジョヴォヴィッチにハードアクションが(たぶん)できないのだろうが、もっとじっくり見せてくれと言いたくなる。

注目すべきは今回初登場のジル・バレンタイン役シエンナ・ギロリーの抜群のカッコよさ。ゲームからそのまま出てきたような髪型、スタイル、コスチューム、身のこなしでアクションをこなし、ジョヴォヴィッチに負けない魅力を放つ(「ラブ・アクチュアリー」にも出ているそうだ)。この2人、ともにいかつい顔つきが似ていて、ひたすらクール。この2人が出るのなら、当然作られるであろう3作目にも期待を抱かせる。

【データ】2004年 アメリカ 1時間31分 配給:ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント
監督:アレクサンダー・ウィット 製作:ポール・W・S・アンダーソン ジェレミー・ボルト 製作総指揮:ベルント・アイヒンガー サミュエル・ハディダ ロバート・クルツァー ヴィクター・ハディダ 脚本:ポール・W・S・アンダーソン 撮影:クリスチャン・セルバルト デレック・ロジャーズ 美術:ポール・デナム・オースターベリー 視覚効果スーパーバイザー:アリソン・オブライエン 衣装デザイン:メアリー・マクレオド 音楽:ジェフ・ダナ
出演:ミラ・ジョヴォヴィッチ シエンナ・ギロリー オデッド・フェール トーマス・クレッチマン ジャレッド・ハリス マイク・エップス サンドリーヌ・ホルト ソフィー・ヴァヴァサー

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アイ,ロボット

i, Robot

「アイ,ロボット」パンフレット「ダークシティ」のアレックス・プロヤス監督がアイザック・アシモフのロボットシリーズにインスパイアされて撮ったSF。ジェフ・ヴィンターの“Hardwired”という脚本が基になっており、これにアシモフの「われはロボット」や「鋼鉄都市」などを組み合わせたという。ロボットが犯人とみられる殺人事件によって始まり、ロボット工学三原則をメインにしたプロットから、アクションたっぷりのスケールの大きな話に展開していく。この脚本の完成度が高い。知的なプロットであるばかりでなく、ミステリとしても良くできており、しかも大衆向けの視線をずらしていないので、同じような展開を見せた押井守「イノセンス」より分かりやすい。ロボットのVFXはレベルが高いし、ロボットを嫌悪する主人公のキャラクターも彫りの深いものになっている。しっかりしたSFになっている点でここ数年のSF映画では最も充実感があり、数少ないロボットテーマのSF映画に限れば、スピルバーグ「A.I.」など軽く越えてこれがベストだろう。

三原則とは言うまでもなく、

1.ロボットは人間に危害を加えてはならない
2.ロボットは人間から与えられた命令に服従しなければならない
3.ロボットは第1条、第2条に反する恐れのない限り、自分を守らなければならない

の3項である(ポール・バーホーベン「ロボコップ」では独自のものに置き換えて使ってあった)。アシモフの小説ではこれに矛盾する状況が現出し、ミステリ的に展開されることが多い。アシモフはミステリ方面でも評価の高い作家で、「黒後家蜘蛛の会」シリーズなど非SFのミステリもある。

「アイ,ロボット」も三原則との矛盾が発端となる。2035年のシカゴ、ロボット工学の権威であるラニング博士(ジェームズ・クロムウェル)がビルから転落死する。博士の死の状況から刑事のスプーナー(ウィル・スミス)は他殺を疑う。その第一容疑者がUSロボティクス(USR)社の新型ロボットNS-5のサニーだった。サニーは逃走するが、警察によって署に連行される。スプーナーの尋問に対し、サニーはロボットが持つはずのない怒りの感情を見せた。サニーはラニング博士によって感情回路をインプットされたユニークな存在らしい。警察はサニーの犯行と断定。しかし、ロボットに殺人罪は適用されないと主張するUSR社の社長ロバートソン(ブルース・グリーンウッド)によって、社に連れ帰られ、廃棄処分を受けることになる。USR社はそれまでのNS-4型に代わって、NS-5型の量産を進めていた。世界中に2億体のNS-5が送り込まれていく。スプーナーはNS-4型のロボットが格納された地域で、NS-5がNS-4を破壊している光景を見る。そして大量のNS-5たちが人間に対して反乱を起こし始める。

三原則があるのに、なぜサニーは博士を殺せたのか、なぜ博士はサニーをユニークな存在にしたのか、なぜロボットたちは反乱を起こしたのか、その背後にいるのは誰なのかという謎を散りばめつつ、ストーリーは進行する。加えて、主人公スプーナーにも三原則を頑固に守ったロボットに絡む哀しい過去がある。スプーナーはロボットを毛嫌いし、アナログな生活を送っている男なのである。さまざまな状況をタイトにまとめ、ユーモアを織り込みつつ映画を作り上げたプロヤスの演出は見事で、つくづくSFを分かっている監督だなと思う。

プロヤスは「アイ,ロボット」に飽きたらず、純粋なアシモフ作品を映画化したい希望を持っているそうだ。それならば、同じロボットシリーズで、人は本能的に宇宙を目指すものだという力強い主張に彩られた傑作「はだかの太陽」をぜひぜひ映画化してほしいと思う。

【データ】2004年 アメリカ 1時間55分 配給:20世紀フォックス映画
監督:アレックス・プロヤス 製作:ローレンス・マーク ジョン・デイヴィス トファー・ダウ ウィック・ゴッドフリー 製作総指揮:ウィル・スミス ジェームズ・ランダー 原典:アイザック・アシモフ 原案:ジェフ・ヴィンター 脚本:ジェフ・ヴィンター アキヴァ・ゴールズマン 撮影:サイモン・ダガン 美術:パトリック・タトポロス 音楽:マルコ・ベルトラミ 視覚効果監修:ジョン・ネルソン デジタル・ドメイン エリック・ナッシュ Wetaデジタル ジョー・レテッリ ブライアン・ヴァン・ヘル 衣装デザイン:エリザベス・キーオウ・パーマー
出演:ウィル・スミス ブリジット・モナイハン アラン・テュディック ジェームズ・クロムウェル ブルース・グリーンウッド エイドリアン・L・リカード チー・マクブライド フィオナ・ホーガン シア・ラブーフ

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アメリカン・スプレンダー

American Splendor

「アメリカン・スプレンダー」チラシ公式ホームページの作りは、サエない男のラブストーリーといった感じだが、実際にはハービー・ピーカーというコミック原作者の自伝的映画で、ラブストーリーの部分は大きくない。ハービーは自分の身の回りのことを書く、いわば私小説的なコミック作家。病院の書類係で2度の結婚にも破れた男がコミックの原作を書くことで、ささやかな幸福を得るという話である。といってもサエない日常にそれほどの変化はない。監督のシャリ・スプリンガー・バーマンとロバート・プルチーニはドキュメンタリー作家だから、物語よりもハービーという人間を浮かび上がらせることに重点を置いている。俳優とコミックの絵と実際のハービー・ピーカーまで登場させる手法は面白く、映画製作の過程まで見せる。このあたりがアカデミー脚色賞にノミネートされた理由だろう。脚色の過程を描いたスパイク・ジョーンズ「アダプテーション」を思い起こさせる手法だが、違うのは「アダプテーション」が終盤、フィクション性を高めたのに対して、この映画は事実に近づいていくこと。実際のハービーがたびたび登場して物語に解説を加えており、こういう表現方法によって、物語自体の求心力はやや薄れたような気がする。「アメリカの輝き」というタイトルとは裏腹にアメリカの小さな日常を描いた映画になっている。

クリーブランドの退役軍人病院の書類係として働くハービー(ポール・ジアマッティ)は2度目の妻にも逃げられ、退屈な日々を送っていた。ある日、ハービーは近所のガレージセールでロバート・クラム(ジェイムズ・アーバニアク)と知り合う。クラムは異色のコミックを書き、やがて「フリッツ・ザ・キャット」の作者として有名になる。ハービーも一念発起して自分の日常を書くことにする。絵は描けないので、コミックの原作だが、それを読んだクラムは「傑作だ」と評価する。「アメリカン・スプレンダー」と題して出版したコミックはマスコミでも高い評価を受ける。デラウェア州でコミック書店を経営するジョイス(ホープ・デイヴィス)は自分のために取っておいた「アメリカン・スプレンダー」を相棒に売られてしまい、ハービーにコミックを譲ってくれないかと手紙を書く。それをきっかけに2人には交流が生まれ、クリーブランドにやってきたジョイスとハーピーは結婚することになる。テレビの人気番組にも出演するようになり、ハーピーは有名になるが、ある日、がんに冒されていることが分かる。

ハービーは妻の協力でがんの闘病記までコミックにする。この闘病記はさらりとした描写で、映画の狙いがこんなところにはないことを示している。監督2人の頭にあったのはあくまで、普通のダメな中年男の生き方であり、ハービーその人を描くことだったのだろう。ハービー・ピーカーがアメリカでどのくらい有名なのか知らないが、この内容から見てコミック自体はそれほど売れているわけではないと思う(当初は自費出版だったそうだ)。それでも世のダメな中年男の共感を得る部分は大きいようだ。

主役を演じるポール・ジアマッティは実際のハービーと風貌がそっくり。原作者がテレビに出る場面はそのまま当時のビデオが使われているが、全然違和感がない。このほか、NERD(おたく)のトビー役のジュダ・フリードランダーなど話し方まで実際のトビーをそっくりにまねている。

【データ】2003年 アメリカ 1時間41分 配給:東芝エンタテインメント
監督:シャリ・スプリンガー・バーマン ロバート・プルチーニ 製作:テッド・ホープ 脚本:シャリ・スプリンガー・バーマン ロバート・プルチーニ 撮影:テレーズ・デプレス 衣装:マイケル・ウィルキンソン 音楽:マーク・スオッゾ
出演:ポール・ジアマッティ ホープ・デイヴィス ハービー・ピーカー ジュダ・フリードランダー トビー・ラドロフ ジェームズ・アーバニアク

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