父よ

Mon Pere

「父よ」パンフレット ジョゼ・ジョヴァンニが自分の父親を描いた自伝的作品。22歳で死刑判決を受けた息子(ヴァンサン・ルクール)を父親(ブリュノ・クレメール)が助けようと奔走する。息子がいる刑務所の前にあるカフェに通い詰め、看守から息子の様子を聞き、弁護士を頼み、被害者の家を訪ねて特赦の嘆願書を書いてもらう。父親は息子から嫌われていると思っているので、自分の行動を隠している。息子は犯罪には加わったが、殺人は犯していなかった。若者の犯罪抑止のために見せしめの意味を込めて通常より重い刑がくだされたことを映画は示唆する。父親の必死の努力で息子は終身刑に減刑され、11年後に釈放される。その後ジョヴァンニは罪を取り消されて完全な復権を果たすが、その時父親は既に亡くなっていたそうだ。ジョヴァンニと父親はついに言葉ではお互いの愛情を表現しなかった。それをジョヴァンニは悔いて、この映画を作ったと最後にジョヴァンニ自身によるナレーションが流れる。だからこれは偉大なプライベートフィルムとも言える。それにもかかわらず、この映画が普遍性を持つのは父親と息子の関係が多かれ少なかれこの映画で描かれたようなものであるからだろう。静かな描写の中にジョヴァンニの父親への愛情と感謝の気持ちがあふれている。父親を演じるブリュノ・クレメールも味わい深い演技を見せてうまい。

元々の原作はジョヴァンニが1990年に書いた「彼は心に誰も知らない秘密の花園を持っていた」で、友人であるベルトラン・タヴェルニエが映画化を薦め、共同脚色している。ジョヴァンニは今年79歳。父親の行動を知ったのは刑務所での体験を元に書いた「穴」を出版した33歳の時というから、映画化するのに40年以上の年月がかかったことになる。そのためか単純な泣かせる映画にはなっていない(もちろん、ジョヴァンニが泣かせる映画など目指すはずがない)。父親の愛情を深く描いてはいるが、息子を助けようとする父親を(例えば「父の祈りを」のように)重点的にドラマティックに描くのではなく、父親の人間性を含めて描いてある。父親の努力だけではなく、父親そのものを描いた映画なのである(原題は「私の父」)。父親の賭博師としての生活など本筋とはあまり関係ないと思える部分もあるが、ジョヴァンニにとってそれはなくてはならない部分なのだろう。

必死の思いで死刑から救ったのに、父親は出所するジョヴァンニを迎えにいかない。「穴」の映画化に合わせたサイン会でもジョヴァンニにの前に姿を見せず、「これでいい。いいんだ」とつぶやきながら立ち去る。本心を隠し続けたこの父親像はある意味、ハードボイルドだ。ジョヴァンニはノワールを書く作家だが、冒険小説ファンにも支持が高いのはこういう部分があるからだろう。

ジョヴァンニの映画を劇場で見るのは個人的には「掘った奪った逃げた」(1979年)以来だからなんと23年ぶりである(フィルモグラフィーを見ると、ビデオや映画祭での公開を除くと、日本の劇場での一般公開も23年ぶりだった)。ジョヴァンニにとっても劇場用映画としては13年ぶりの作品となる。ノワールの雰囲気が漂い、久しぶりにフランス映画らしいフランス映画を見たという感じ。演出的にはやや緩む部分があるのだが、ジョヴァンニにはまだまだ映画を撮ってほしいと思う。

【データ】2001年 フランス 1時間55分 配給:セテラ・インターナショナル
監督:ジョゼ・ジョヴァンニ 製作:アラン・サルド 原作:ジョゼ・ジョヴァンニ「父よ」(白亜書房) 脚本:ジョゼ・ジョヴァンニ ベルトラン・タヴェルニエ 撮影:アラン・ショカール 美術:ロラン・ドヴィル 衣装:ジャクリーヌ・ブシャール 音楽:シュルジェンティ
出演:ブリュノ・クレメール ヴァンサン・ルクール リュフュス ミシェル・ゴデ ニコラ・アブラハム マリア・ピタレジ エリック・ドゥフォス セドリック・シェヴァルメ シャルロット・カディ ガブリエル・ブリヤン フランソワ・ペロー ミシェル・コルド

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メン・イン・ブラック2

Men in Black II

「メン・イン・ブラック2」パンフレット脚本に「ギャラクシー・クエスト」のロバート・ゴードンが加わっている。というのは後で知ったことだが、それならば、もう少し面白くなっても良いのではと思える。「ギャラクエ」の場合は原案・脚本のデヴィッド・ハワードの功績だったのだろう。5年ぶりの続編だが、ほとんど新鮮さがない。バリー・ソネンフェルドの演出はいつものように平板だし、話の展開も平凡である。強力なエイリアンを演じるララ・フリン・ボイルの容色の衰えも気になる(まだ32歳なんだけど)。トミー・リー・ジョーンズ(記憶を消されて郵便局長になっている)とウィル・スミスのコンビはおかしくていいのだが、この程度の話では面白くなりようがない。最初からA級の大作は狙わず、B級路線に開き直っているのだろう。テーマ的にも同じような昨年の「エボリューション」あたりとあまり変わらない印象。コメディのセンスというのはなかなか難しいもので、ソネンフェルドにはそれが欠けている。さまざまなエイリアンが登場し、SFXの技術も低くはないのだが、SFXの無駄遣いという感じが濃厚な平凡な作品。

話は強力なパワーを秘めた“ザルタの光”を巡る争奪戦である。25年前、惑星ザルタが凶悪なカイロシア星人のサーリーナ(ララ・フリン・ボイル)に襲われたのが発端。ザルタの王女は地球に逃げてくるが、MIBのZ(リップ・トーン)は保護を拒否して“ザルタの光”を宇宙に送り返すよう命じる。という部分が冒頭、50年代の出来の悪いSF風のSFXで描かれる(「スパイ大作戦」のピーター・グレイブスが出てくる)。今、再び、サーリーナは“ザルタの光”を狙って地球にやってくる。ピザ屋の店長(実はザルタ星人)から“ザルタの光”の情報を聞き出した後、殺害。言葉を話すパグ犬のエージェントFとともに捜査に乗り出したMIBのエージェントJ(ウィル・スミス)は事件の目撃者ローラ(ロザリオ・ドーソン)から事情聴取し、サーリーナを追う。Zによると、25年前の事件を担当したのは記憶を消されて普通の郵便局長になっているかつてのエージェントK(トミー・リー・ジョーンズ)だった。JはKの記憶を戻し、強力コンビが復活。MIB本部を乗っ取ったサーリーナに立ち向かうことになる。

リック・ベイカーが担当したエイリアンの特殊メイクなど良い部分もあるし、部分的には面白い場面も多いのだが、総体としてまとめきれていない。1時間28分の上映時間ならば、もう少しタイトな構成になるはずなのに、ソネンフェルドの演出がゆるゆるなので映画もダラーっとした印象。パグ犬など前半のコメディリリーフにとどまり、生かされていないし、悪役でヴァンプ的メイクだから仕方ないとはいえ、ララ・フリン・ボイルの「ツインピークス」のころの清楚な美貌が影も形もないのは残念の極みだ。

【データ】2002年 アメリカ 1時間28分 配給:ソニーピクチャーズ・エンタテインメント
監督:バリー・ソネンフェルド 製作:ウォルター・F・パークス ローリー・マクドナルド 脚本:ロバート・ゴードン バリー・ファナロ 原案:ロバート・ゴードン 原作:ローウェル・カニンガム 製作総指揮:スティーブン・スピルバーグ 共同製作:グラハム・プレイス 撮影:グレッグ・ガーディナー 美術:ボー・ウェルチ 音楽:ダニー・エルフマン 衣装デザイン:メアリー・ヴォット 特殊効果:インダストリアル・ライト&マジック 特殊メイク:リック・ベイカー
出演:トミー・リー・ジョーンズ ウィル・スミス リップ・トーン ララ・フリン・ボイル ロザリオ・ドーソン ジョニー・ノックスビル

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タイムマシン

The Time Machine

「タイムマシン」H・G・ウェルズの原作をひ孫のサイモン・ウェルズが監督。1959年のジョージ・パル監督作品に続いて(劇場公開作としては)2度目の映画化となる。ウェルズの小説は「失われた世界」「地球最後の日」「透明人間」「モロー博士の島」「宇宙戦争」など読んでいるが、この原作とは縁がなかった。前作(あまり評判は良くない)も見ていないが、今回はテーマと物語がうまくまとまって佳作となった。SFXを無駄に使ってちっともSFしていない「メン・イン・ブラック2」などよりは、よほどまともな映画である。タイムマシンが出てきてもパラドックスにはほとんど注意が払われていないとか、時間テーマSFとしては不満の点もあるが、それはSFがシンプルな時代に生まれた原作の限界でもある。タイムマシンを使ったクラシックな設定の冒険物語と受け止めたがいいだろう。

1899年、冬のニューヨークで科学者のアレックス・ハーデゲン(ガイ・ピアース)は強盗に恋人エマ(シエナ・ギロリー)を殺される。なんとかしてエマを取り戻したいと、アレックスは研究に没頭し、4年後にタイムマシンを完成させる。さっそく過去に帰って、エマが強盗に出会わないようにするが、今度は別の事故でエマは命を失ってしまう。「1000回過去を変えたら、1000通りの死に方をしてしまうのか」「運命は変えられないのか」と絶望したアレックスはその答を探るため、未来へ向かう。2037年のニューヨークでは月面爆破の影響で地球は崩壊寸前。ここでの事故でアレックスは80万年後の世界に飛ばされてしまう。そこは原始化した人類がモーロックという凶悪な種族に脅えながら暮らす悪夢のような世界だった。

この80万年後の世界の描写はまるで「猿の惑星」なのだが、昨年のティム・バートン版「猿の惑星」よりはるかに出来がよい。人間はモーロックのえさになり果てているのだから、「猿の惑星」よりも絶望的なディストピアだ。スタン・ウィンストンが担当したモーロックのデザインと凶暴でダイナミックな動きは秀逸。展開としてはアフリカの未開のジャングルで外部からやってきた主人公が悪を倒すという、かつてエドガー・ライス・バロウズなどによってよく書かれた冒険物語の一種である。違うのは6億年後の未来を見て、そこもモーロックの支配する世界であることを知った主人公が未来を変えようと決意してモーロックと戦う点。「過去は変えられないが、未来は変えられる」という手塚治虫「バンダー・ブック」的テーマが浮かび上がり、物語の結末とうまく同化している。

2030年のニューヨーク市立図書館で主人公が出会ったホログラム人格(「エボリューション」のオーランド・ジョーンズ)が80万年後の世界で子どもたちに物語を語るラストシークェンスを見て旧「猿の惑星」シリーズの第5作を思い出した。ここから人類は文明を取り戻し、より平和な未来が築かれていくのだろう。

サイモン・ウェルズは「ロジャー・ラビット」「アメリカ物語 ファイベル西へ行く」などを経て「バルト」で監督デビューしたというアニメの経歴が中心の監督。今回が実写映画デビューだが、破綻はない。欲を言えば、主人公がタイムマシンを作れるという裏付けの描写を序盤に少し加えると良かったか。モーロックの親玉を演じるのはジェレミー・アイアンズ。白塗りメイクアップでほとんど分からなかった。

【データ】2002年 アメリカ 1時間36分 配給:ワーナー・ブラザース映画
監督:サイモン・ウェルズ 脚本・共同製作:ジョン・ローガン 製作:ウォルター・F・パークス デヴィッド・バルディス 製作総指揮:ローリー・マクドナルド アーノルド・リーボビット ジョージ・サラレギー 撮影:ドナルド・M・マカルビン 美術:オリバー・ショール 衣装:ディーナ・アプル ボブ・リングウッド 音楽:クラウス・バデルト 視覚効果監修:ジェイムズ・E・プライス 特殊効果監修:マット・スウィーニー モーロック特殊メイク:スタン・ウィンストンスタジオ
出演:ガイ・ピアース サマンサ・マンバ ジェレミー・アイアンズ オーランド・ジョーンズ マーク・アディー シエナ・ギロリー フィリーダ・ロウ オメーロ・マンバ

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SPY_N

SPY_N

「SPY_N」チラシただただ地上172メートル、ビルの44階に吊られたガラスの上での藤原紀香のアクションシーンを見るためだけの映画で、それ以外にはあまり見るべき部分もない。しかもそこまで延々と待たされる。ボンデージスーツに身を固めた藤原紀香のそこまでのアクションは、まあフツーの出来なのだが、美形とスタイルの良さから繰り出すアクションは魅力的で、「チャーリーズ・エンジェル」みたいな作品に出るといいと思う。撮り方が下手、演出が下手、脚本もデタラメな映画で、ほとんど退屈だが、藤原紀香からアクションを引き出したことだけは功績と言える。

中国・上海が舞台。上海の裏社会を牛耳るMr.マーの部下が、ファッションショーの会場で、ボーイを装った何者かに殺される。騒然とする中、Mr.マーと取引するため、日本から来ていたNORIKA(藤原紀香)は倒れた部下の胸元からフロッピーを抜き取り、会場を立ち去る。会場に居合わせていた上海警察のグレン(アーロン・クォック)は殺人犯を、コンビを組むアレックス(ワン・リーホン)はNORIKAを追う。しかし、ダレンは激しいバトルを繰り広げたにもかかわらず犯人を取り逃がし、アレックスもNORIKAに逃げられてしまう。

映画はマーク・ダカスコスやアーロン・クオック、クーリオら各国のスターがそろい、アクション場面も満載なのだが、冒頭からキレが悪すぎる。画面に締まりがなく、話が行き当たりばったり。ランボルギーニとF3のカーチェイスとか、面白くなりそうなのに、今ひとつ盛り上がりに欠けるのは、演出力のなさが原因だろう。いろいろなアクションがあるが、このカーチェイス以外に独自性のあるもの、目新しいものは見当たらない。マーク・ダカスコスも「ジェヴォーダンの獣」に比べると、魅力が半減している(製作は「ジェヴォーダンの獣」の方がこの映画より後になる)。

監督のスタンリー・トンは「ポリス・ストーリー3」や「ファイナルプロジェクト」「レッド・ブロンクス」でジャッキー・チェンと組んで、ジャッキーのアメリカ進出に貢献した。ジャッキーの場合は演出にもかかわるから、これらの作品がまずまずのできだったのではと思えるほど、今回は見る影もない。ジャッキーとアーロン・クオックという主演スターの格の違いが大きいにしても、これだけの俳優を集め、アクションを詰め込んで、これぐらいの出来にしかならないようでは監督としての才能はないのだろう。藤原紀香はアクション場面は及第点でも、普通の演技に少し難がある。特に前半の美人であることを鼻にかけるような演技は修正をして、アクション映画の主演を目指して欲しいものだ。

【データ】2000年 アメリカ=香港 1時間31分 配給:GAGA=HUMAX
監督:スタンリー・トン 製作:スタンリー・トン バービー・タン アンドレ・モーガン 撮影: ジェフリー・C・ミガット 脚本:スタンリー・トン スティーブン・ホイットニー 音楽:ネイザン・ウォン
出演:アーロン・クオック 藤原紀香 マーク・ダカスコス クーリオ ワン・リー・ホン ルビー・リン ラウ・シュミン ロウ・ホイカン ポール・チャン 

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