ザ・コア

The Core

「ザ・コア」パンフレット地球の核(コア)が停止して、人類滅亡の危機が訪れるというSFサスペンス。「コアが止まったら、動かす手段はない。もし、あるにしても我々が地中へ行けるのはせいぜい10キロ。とても地球の中心部まで行けない」という主人公の科学者ジョシュ(アーロン・エッカート)に対して、地球物理学の権威コンラッド(スタンリー・トゥッチ)が「行けたとしたら、どうだ」と切り返す。実は行けるのであった。20年前からユタ州の砂漠の中で1人の科学者(マッド・サイエンティストか!)が秘かに研究を続けていたのであった。という展開で、科学的考証無視の都合のいい映画である。地中に入ってからの液体の中を進むような描写にはとてもついて行けず、しかも、登場人物を順番に死なせていくことでドラマを構成する脚本は程度が低い。ジョン・アミエル監督の演出はまともだし、ヒラリー・スワンクなど出演者も悪くはないが、こういう脚本では最初からA級を目指すのを諦めているのと同じことである。感じとしては50年代から60年代にかけて作られたSF映画(「地球最后の日」とか「地球は壊滅する」とか)で、半世紀も前のレベルのアイデアに頼っているようでは21世紀のVFX技術が泣く。

コアは内核と外核で出来ていて、外核は緩やかに流れている。止まりかけているのはこの外核で、あと1年で完全に停止することが分かる。そうなれば、地球の磁場は消失し、地表は太陽風によって焼き尽くされてしまう。そこで米政府はコアへ向かう探査艇バージルを3カ月で完成させ、主人公をはじめ6人のテラノーツ(地中潜行士)が地球の中心部に向かうことになる。外核で核爆弾を爆発させ、再び回転させようとするわけだ。そこからの描写はまあ、「アルマゲドン」みたいなものである。

前半、磁場が狂ったことで鳥の大群が暴走したり、スペース・シャトルが軌道を外してロサンゼルスの川に着陸したり、巨大な放電によってローマが壊滅したりとかのVFXは良くできている。クライマックスと並行するサンフランシスコ壊滅のシーンも迫力満点。こういう場面を見ると、製作者たちはSFを作ろうという気はさらさらなく、パニック映画のようなことをやりたかったのだろうなと思える。

事実に立脚して想像の翼を羽ばたかせるのがSFなら、この映画は最初からSFであることを放棄している。探査艇と地上の本部の通信が普通に描かれるけれども、数千キロ地下から地表とどうやって通信するのか。そういう細かい部分に一つ一つ説得力を持たせていかなければ、物語は絵空事で終わってしまう。登場人物が忠君愛国・滅私奉公みたいな精神で一人ずつ死んでいく描写は近年のアメリカ映画にはよく出てくる。SF的アイデアを発展させず、そういうアホな展開しか考えられない安易な映画の作り方では、いくら製作費をかけようと、本当に面白い映画にはならない。

【データ】2003年 アメリカ 2時間14分 配給:ギャガ=ヒューマックス
監督:ジョン・アミエル プロデューサー:クーパー・レイン デヴィッド・フォスター ショーン・ベイリー デヴィッド・ハウスホルター 脚本:クーパー・レイン ジョン・ロジャース 撮影:ジョン・リンドレー 美術:フィリップ・ハリソン 衣装:ダン・レスター VFXスーパーバイザー:グレゴリー・L・マクリー 
出演:アーロン・エッカート ヒラリー・スワンク デルロイ・リンドー スタンリー・ドゥッチ DJ・クォールズ ブルース・グリーンウッド リチャード・ジェンキンス チェッキー・カリョ アルフレ・ウッダード

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パイレーツ・オブ・カリビアン 呪われた海賊たち

Pirates of The Caribbean : The Curse of The Black Pearl

「パイレーツ・オブ・カリビアン」パンフレットディズニーランドのアトラクション「カリブの海賊」を基にしていると聞いたのでお子様向けかと思ったら、そうでもなかった。牢屋の鍵をくわえた犬に向かって囚人たちがこっちへ来いと叫んでいる場面や、敵役が骸骨のゾンビたちである点はアトラクション通りで、あとは自由に作ってある。監督のゴア・ヴァービンスキーは「ザ・リング」に続いて、凡庸なりにまずまずの演出を見せ、「ザ・メキシカン」の汚名はぬぐい去ったようだ。しかし、話に広がりがないし(狭いところで、ごちゃごちゃやっている)、展開がもたもたしているし、2時間23分もつ話でもない。展開が難しくないのはやはりお子様を意識したからだろう。レイティングがPG-13とはいっても、アメリカでヒットしているのはファミリー映画であるからにほかならない。ジョニー・デップが出ていなかったら、映画は悲惨なことになっていたかもしれない。

タイトルが出てきただけで始まるオープニングがかつての海賊映画をなぞった感じである。カリブ海を航行中の英国海軍の船が漂流している少年ウィルを発見する。黒い海賊船に襲われたらしい。総督の娘エリザベスは少年が掛けていた髑髏の図柄入りの金のメダルをとっさに隠す。そして8年後、エリザベス(キーラ・ナイトレイ)は美しく成長し、ウィル(オーランド・ブルーム)は鍛冶屋となっている。総督の就任式に出席したエリザベスはあまりのコルセットのきつさで、城塞の欄干から海に落ちたところを海賊のジャック・スパロウ(ジョニー・デップ)に助けられる。その夜、黒い海賊船ブラック・パール号が町を襲撃。エリザベスは船長バルボッサ(ジョフリー・ラッシュ)に囚われの身となる。ウィルはジャックの助力を得て、エリザベスを助けるためブラック・パール号を追う。

黒い海賊たちは実は呪いを掛けられて死ぬに死ねないゾンビで、月明かりの下では骸骨に変身する。ILMが担当したVFXは人間から骸骨への変化を実に自然に見せる。デップやブルームと骸骨との戦いもよくできている。しかし、レイ・ハリーハウゼンが「アルゴ探検隊の大冒険」で見せたモデル・アニメーションの骸骨との戦いの方が原初的な感動はあった。動きがカクカクしているにしても、あちらの方が手間がかかっていそうに見えるのである。

話は金のメダルを巡る争奪戦で単純なのはいいのだが、“死の島”で同じような場面を2度繰り返したり、話自体にもあまり新鮮さが感じられない。呪いを解くために海賊たちがメダルを返そうとするのは逆説的で面白い設定だが、もう少し脚本に工夫が欲しいところだった。ジョニー・デップは沈みかけた船で港町にやってくる登場場面からおかしい。会う女に殴られ続けるというのが実にピッタリな感じで、この映画を支えている。清楚に美しく、どこかウィノナ・ライダーを思わせるキーラ・ナイトレイはこれでブレイクすると思える美貌と演技を見せる。オーランド・ブルームは「ロード・オブ・ザ・リング」のレゴラスの方が颯爽とした感じがあるが、この役柄も悪くなかった。

【データ】2003年 アメリカ 2時間23分 配給:ブエナ ビスタ インターナショナル
監督:ゴア・ヴァービンスキー 製作:ジェリー・ブラッカイマー 製作総指揮:マイク・ステンソン チャド・オーメン ブルース・ヘンドリックス ポール・ディーソン ストーリー:テッド・エリオット テリー・ロッシオ スチュワート・ビーティー ジェイ・ウォルパート 脚本:テッド・エリオット テリー・ロッシオ 撮影:ダリウス・ウォルスキー プロダクション・デザイン:ブライアン・モリス 衣装デザイン:ペニー・ローズ 視覚効果スーパーバイザー:ジョン・ノール 音楽:クラウス・バデルト 特殊効果&アニメーション:インダストリアル・ライト&マジック
出演:ジョニー・デップ ジェフリー・ラッシュ オーランド・ブルーム キーラ・ナイトレイ ジャック・ダヴェンポート ジョナサン・プライス リー・アレンバーグ ケヴィン・R・マクナリー ゾーイ・サルダナ トレヴァ・エチエンヌ デヴィッド・ベイリー アイザック・C・シングルトンJr ギルス・ニュー アンガス・バーネット マイケル・ベリーJr

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ハルク

Hulk

「ハルク」パンフレットアメリカン・コミックの原作を「グリーン・デスティニー」のアン・リー監督が映画化。アン・リーが「ハルク」を監督すると聞いた時には随分アンバランスだなと思ったが、完成した映画もアンバランスなままに終わっている。前半のマッド・サイエンティストの父親とその実験台にさせられる息子の描写は「フランケンシュタイン」で、後半、暴れ回るハルクを恋人が止める描写は言うまでもなく「キング・コング」。脚本は原作とは違って、ハルク誕生の要因を父親のせいにして、父と息子の関係に焦点を当てているのだが、これがどうも中途半端。その意図があるのなら、後半をキング・コングにすることはなかったのだ。アン・リーの演出にも緩い部分が目に付き、「パイレーツ・オブ・カリビアン」同様、2時間18分と無用に長い。ハルクの造型が動きも含めてお粗末だとか、ILMが担当したVFXに見るべき部分がないとか、全体的にまとまりを欠き、盛り上がらない映画になってしまった。良いのはヒロインのジェニファー・コネリーだけである。

冒頭、主人公ブルースの子ども時代を順を追って説明していく描写から工夫が足りない。ブルースの父親は軍の研究所に所属する科学者で人間の再生能力を高める研究をしていた。赤ん坊のブルースを実験台にしたことや父と母の争いの場面を映画は思わせぶりに描いて(これが長い)、現在のブルース(エリック・バナ)にようやく話が移る。ブルースも科学者になっており、やはり傷の再生能力を高める研究をするようになった。両親は子どものころに死んだと聞かされており、これは偶然の一致である。ブルースは元恋人のベティ・ロス(ジェニファー・コネリー)と一緒に実験しているが、ある日、致死量のガンマ線を浴びてしまう。まったくの無傷でいられたものの、怒りに駆られると、緑色の巨人ハルクに変身するようになってしまった。そして死んだと思っていた父親(ニック・ノルティ=ほとんど怪演)が生きており、かつて自分を実験台にしていたことを知る。

ハルクがつかまったジェット機がグングン高度を上げて成層圏に至り、一瞬、星がきらめくシーンは「ライト・スタッフ」を思わせる。しかし、そんな高度から海に落ちたのに、あの程度の水しぶきで良いものかどうか。ここだけでなく、VFXはどれもこれも映像のダイナミズムに欠けている。戦車を振り回すシーンは予告編で見て漫画みたいだと思ったが、本編ではさらにブルースのDNAを注入されて怪物化した犬との戦いとか、漫画みたいなシーンが連続する。ILMがいつも良い仕事をしているわけではないのである。

恐らく、アン・リーはハルクの悲劇的な部分を中心に映画化したいと考えたのだろう。残念なことに主演のエリック・バナの演技が深みに欠けるので、ドラマも平板なままである。望まれない怪物の悲劇で比較するなら、これはデヴィッド・クローネンバーグ「ザ・フライ」の足下にも及ばない。第一、この映画でハルクを死なせるわけにはいかないのだから、基本的に悲劇になりようがないのである。アン・リーはアメリカン・コミックにもSFにも興味がないのだと思う。監督を引き受けるメリットはなかった。

【データ】2003年 アメリカ 2時間18分 配給:UIP
監督:アン・リー 製作総指揮:スタン・リー ケヴィン・フィージ 製作:ゲイル・アン・ハード アヴィ・アラッド ジェームズ・シェイマス ラリー・フランコ 原案:ジェームズ・シェイマス 原作コミック:スタン・リー ジャック・カービー 脚本:ジョン・ダーマン マイケル・フランス ジェームズ・シェイマス アヴィ・アラッド ラリー・フランコ 撮影:フレデリック・エルムズ 音楽:ダニー・エルフマン 衣装:マリット・アレン プロダクション・デザイン:リック・ヘインリックス 視覚効果:ILM 視覚効果スーパーバイザー:デニス・ミューレン マイケル・ランティエリ
出演:エリック・バナ ジェニファー・コネリー サム・エリオット ニック・ノルティ ジョシュ・ルーカス ポール・カーシー ルー・フェリグノ

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HERO

英雄

「HERO 英雄」パンフレット「初恋のきた道」のチャン・イーモウ監督が手がけたアクション映画。戦乱の続く紀元前200年の中国を舞台に秦王を狙う刺客とそれを倒したと秦王に名乗り出た男の物語である。ジェット・リー、トニー・レオン、マギー・チャン、チャン・ツィイー、ドニー・イェンとスターをそろえ、VFXも本格的な超大作。ジェット・リーとドニー・イェンの対決とか、雨のように降りそそぐ矢とか見ごたえのあるシーンが多い。特筆すべきはワダエミの担当した衣装で、赤、青、白と物語に応じて使い分け、強いアクセントを与えている。画面の色彩設計ではこのほか、チャン・ツィイーとマギー・チャンの決闘シーンで、黄色のイチョウの森が一瞬にして赤に染まるシーンなど見事なものである。しかし、残念ながらドラマがやや起伏に欠ける。いくら剣の達人ばかりとはいっても、登場人物たちのエモーションがあまり表面に出てこないのである(感情を最も表出させているのは剣の達人ではないチャン・ツィイーだ)。見事なアクションの必然性を生む芯の部分が弱かったと言うべきか。格調高い出来であるだけに惜しい。

後に始皇帝となる秦王(チェン・ダオミン)のもとに無名と名乗る男(ジェット・リー)がやってくる。無名は秦王を狙う刺客の長空(ドニー・イェン)、残剣(トニー・レオン)、飛雪(マギー・チャン)を倒したと話す。どうやって倒したのかと問う秦王に無名はそのエピソードを語り始める。長空は凄絶な戦いの末に仕留めた。恋人同士の残剣と飛雪は嫉妬心を利用して仲違いさせ、倒した。無名はその功績で秦王に10歩そばまで近づくことを許される。しかし、秦王は無名の話におかしな部分を感じる。3年前、3000人の兵をものともしなかった残剣と飛雪は嫉妬に狂うような人物ではなかったはずだ。指摘を受けた無名は別の物語を語り始める。

一つの物語を3通りに分けて語る手法は黒沢明「羅生門」を彷彿させる。矢のシーンも「蜘蛛巣城」のようだ。チャン・イーモウ、どこかで黒沢を意識したのかもしれない。ただ、黒沢とイーモウを分けるのはアクションのダイナミズムだろう。秦軍の多数の兵が趙の国を攻めるシーンは、無数の矢が放たれるだけで合戦場面がないのがもったいない。ジェット・リーとドニー・イェンの対決はその殺陣のあまりの速さに驚くが、あとの場面は宙を飛んだり、水の上を走ったり、「グリーン・デスティニー」同様、超人的な要素があり、地に足のついたものにならないのである。激しさとは異なる流麗なアクション。これはこれで悪くはないのだが、登場人物たちの感情とこうしたアクションとは密接な結びつきになりにくい。これは同じジェット・リー主演の「キス・オブ・ザ・ドラゴン」の激しさと比べると良く分かる。もちろん、チャン・イーモウ監督は単純な激情に駆られての復讐劇などに興味はないだろうが、アクションを効果的に見せるにはキャラクターの単純な感情と分かりやすい図式の方が望ましいのである。

また、話が“藪の中”に入っていくくだりはドラマティックな展開に乏しく、3つのエピソードが相乗的に効果を挙げているとは言えない。だから、真相が明らかになる終盤が何だか観念的で退屈なのである。長空のエピソードだけが独立したものになったのも残念。残剣と飛雪だけでなく、長空も絡めて3人の刺客を有機的につなぐ構成が欲しかったところだ。視覚的には十分満足しながら、エモーショナルな部分で不満が残った。

【データ】2002年 中国 1時間39分 配給:ワーナー・ブラザース映画
監督:チャン・イーモウ 製作:ビル・コン チャン・イーモウ 製作総指揮:ドー・ジョウファン チャン・ウェイピン 共同製作:チャン・ジェンイェン 脚本:リー・フェン チャン・イーモウ ワン・ピン 原案:チャン・イーモウ リー・フェン ワン・ピン 撮影:クリストファー・ドイル アクション監督:トニー・チン・シウトン 美術:フォ・ティンシャオ イ・ジェンジョウ 衣装デザイン:ワダエミ 作曲・指揮:タン・ドゥン 太鼓演奏:鼓童
出演:ジェット・リー トニー・レオン マギー・チャン チャン・ツィイー チェン・ダミオン ドニー・イェン

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