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2011年06月07日 [Tue]

「ソラニン」

映画が動くのは主人公・井上芽衣子(宮崎あおい)の同棲相手である種田成男(高良健吾)が交通事故で死んでから。ここに至るまで1時間かかる。ここを30分以内に納めれば、それなりの映画になっただろう。いや、評判はそこそこいい映画なのだけれど、この内容に2時間以上かけるのはいただけない。「若者たち」のような映画を見た後ではこういう社会的な問題意識皆無の青春映画は物足りないことこの上ない。原作は浅野いにおの同名コミック。監督はこれが長編映画デビューの三木孝浩。

「わたしの渡世日記」

文筆家としての高峰秀子を僕はまったく知らなかった。この本は北海道で生まれて、養女にもらわれ、養母との凄絶な愛憎を経て松山善三と幸福な結婚をするまでの半生を綴ったもの。結婚後20年ぐらいを経た時点で書いている。第一章の「雪ふる町」でその文体と内容に強く引き込まれる。映画ファンはいっそう楽しめるが、そうでなくても面白く読める一級の読み物だと思う。高峰秀子は5歳から女優の仕事を始め、ろくに学校にも行っていない。なのに、これほど面白い文章が書けるというのは、やはり生まれ持った才能によるものと、文章に人柄がにじみ出ているからだろう。

「パリ20区、僕たちのクラス」

パリの20区にある中学校のあるクラスを描き、カンヌ映画祭パルム・ドールを受賞した。アフリカ系やアジア系などさまざまな移民の子供がいるクラスは社会の縮図のようなもので、そこで起きるさまざまな問題も社会を反映している。解決する問題もあれば、解決しない問題もあるのが普通のドラマとは違うところ。フランソワ・ベゴドーの「教室へ」をローラン・カンテ監督が映画化。ベゴドー自身が主演している。驚くのはベゴドーをはじめ出てくる生徒たちも演技経験がいっさいないこと。それなのに、いやそれだからこそ、リアルな教室の雰囲気を再現できたのだろう。カンヌ映画祭の審査委員長だったショーン・ペンが「演技、脚本、挑発、寛大さすべてが魔法だ」と評したのはそこから来ているのかもしれない。

「レポゼッション・メン」

エリック・ガルシアの原作「レポメン」の映画化。近未来を舞台に人工臓器の費用の支払いを滞納している人間から臓器を回収するレポメンたちを描く。レポメンはテーザー銃で相手を気絶させ、腹を切り裂いて臓器を取り出す。生きている人間から臓器を取れば、当然死んでしまう。レポメンの仕事は殺し屋みたいなものだ。主人公のレミー(ジュード・ロウ)は優秀なレポメンだったが、ある日、回収の途中で重傷を負い、人工心臓を移植される。それ以来、レミーは回収の仕事ができなくなってしまう。やがてレミーにもレポメンたちが迫ってくる。

未来都市の夜景が「ブレードランナー」の安手のコピーみたいなのはご愛敬。所々にブラックなユーモアがある。終盤の展開はまったく予想していなかったので、ほーと感心した。原作にあるのだろうが、こういうのは観客サービスとして非常に良いと思う。脚色には原作者も加わっている。監督はミゲル・サポチニク。出演はほかにフォレスト・ウィテカー、リーヴ・シュライバー、アリシー・ブラガ。2010年のアメリカ映画。

「わたしを離さないで」

「わたしを離さないで」パンフレット

カズオ・イシグロの傑作をマーク・ロマネク監督が映画化。原作にほぼ忠実な展開で、上映時間が短く感じられた(上映時間は1時間45分)。その意味では過不足ない映画化と言えるだろう。ただし、原作にあった透明な悲しみは映画ではうまく表現できていないように思う。いや、映画もいい線まで行っているのだが、あと一歩及ばなかった。序盤の不穏な雰囲気の中にもある幸福な描写にもっと力を入れた方が良かっただろう。

同じストーリーを追っても小説と映画がまったく同じにならないのはあたり前のことだけれど、映画化の際にこぼれ落ちてしまうものがどうしても出てくるのは少し残念だ。たとえば、主人公たちは過酷で悲しい運命になぜ逆らわないのかという疑問が映画には出てきてしまう。原作ではまったく感じなかったこの疑問は突き詰めていけば、マイケル・ベイの某映画のような展開になっていくだろう。キーラ・ナイトレイが3度目の手術で息絶える場面は主人公たちの置かれた境遇の残酷さを実際に見せる場面になっていても、原作とは相容れない描写でしかない。

透明な悲しみを体現しているのは少しも泣きわめかず、絶えず穏やかな微笑みを浮かべている印象がある主人公のキャリー・マリガンで、普通に考えれば、ナイトレイの方がずっと美人なのだが、マリガンはその幅のある演技で映画を支えている。


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