映画とネットのDIARY(tDiary版)
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【映画の感想一覧】 2004年7月以降 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年
2011年05月03日 [Tue]
■ 「若者たち」
BSプレミアム「山田洋次監督が選んだ日本の名作100本 家族編」の枠で放映された。歌は有名でも映画を見るのは初めて。甘い内容を想像していたら、全く違い、時代に深くかかわったさまざまな問題を提起していて、胸を揺さぶられるような作品だった。
親を亡くした5人きょうだい(田中邦衛、橋本功、佐藤オリエ、山本圭、松山省二)が時に激しく対立しながらも、助け合って生きていく姿を描く。1967年の作品。昭和40年代といっても、まだ貧しいのが普通の時代だったのだなと思う。ご飯を一生懸命食べる姿はそのまま一生懸命な生き方を表している。登場人物たちのまっすぐな姿勢がとても気持ちよい。
長男の田中邦衛は中学2年までしか学校に行かず、工事現場で働いて弟妹たちを食わせてきた。好きになった女(小川眞由美)から学歴がないことを理由に「(出世に)10年、15年回り道をすることになる」と交際を断られる。その晩、大学受験に失敗した末弟に「何年かかっても大学に行け、ボン」と声を荒げる姿に胸を打たれる。これ、田中邦衛の代表作ではないかと思ったら、毎日映画コンクールの男優主演賞を受賞したのだそうだ。
元はフジテレビのドラマだが、宮崎はまだ民放1局の頃なので、当然のことながら僕は見ていない。映画について日本映画作品全集には「広範な若者たちの深い共感を得た。学歴による差別、被爆者の苦悩、出稼ぎ農家の苦しみ、働きつつ学ぶものの厳しさ、学園紛争の中で揺れ動く若者の心、現代における生きがいなど、多くの切実な問題が組み込まれ、見る者を考えさせる」とある。キネ旬ベストテン15位。3部作になっており、第2作「若者は行く 続若者たち」(1969年)は12位、第3作「若者の旗」(1970年)は25位にランクされている。山内久脚本、森川時久監督。
2011年05月05日 [Thu]
■ 「地獄門」
これもBSプレミアムで放送。デジタル・リマスター版。菊池寛の原作「袈裟と盛遠」を衣笠貞之助監督で映画化。長谷川一夫が人妻(京マチ子)に横恋慕する迷惑な男を演じる。カンヌ映画祭グランプリとアカデミー衣装デザイン賞、名誉賞(今の外国語映画賞)を受賞したのは有名。主にカラーの美しさの評価なのだろう。昭和28年当時は驚異的な技術であっても、今見ると、なんてことはない。というより、カラーが人工的に感じる。今の映画のナチュラルさに比べて、作った色合いに見えるのだ。
映像の技術よりも物語とそれを語る技術の方が普遍的なのではないかと思う。今のCG多用映画も50年後には陳腐なものになっているかもしれない。いや、今でも陳腐な映画は多いんですけどね。BSプレミアムではデジタル・リマスターの放送が相次いでいる。映画がきれいになることは歓迎すべきことではある。
■ 「マイレージ、マイライフ」
ジェイソン・ライトマンは父親のアイバン・ライトマンより才能あるなと思う。冒頭、短いショットを重ねて出張の準備をする場面で乗せられてしまう。後は一気呵成の展開。主人公のライアン(ジョージ・クルーニー)は家庭を持たず、出張で全国を飛び回る解雇請負人。会社に代わって、不要な社員に解雇を通告するのが仕事だ。同じような生き方をしているアレックス(ヴェラ・ファーミガ)との出会い、教育を担当させられた新入社員ナタリー(アナ・ケンドリック)との交流を通じてライアンは自分の生き方を見つめ直す。大人の女性を演じるファーミガがいい。
知り合いがFacebookでこの映画のラストについて議論になっていると書いていた。果たして主人公は出張を続けるのか、辞めるのか。キャリーバッグの取っ手から手を離す場面があるからだ。主人公がどうするかは最後のナレーションから明らかではないかと思う。「今夜、人々は家族の待つ家に帰り、1日の話をして眠りにつく。昼間隠れていた星が輝く中、ひときわ輝く光がある。僕を乗せた翼だ」。
■ 「彼女を見ればわかること」
ロドリゴ・ガルシアの1999年の作品。5つの物語からなるオムニバスで、それぞれの話が少しずつ関連し、最後の物語で収斂していく。この手法は「愛する人」につながるものだし、出てくるエピソードも老いた母親と同居する女とか、30代後半でアフリカ系アメリカ人の子供を妊娠する女とか、同じ設定が出てくる。それを考慮しても、うまい脚本だと思う。ホリー・ハンター、キャメロン・ディアスが良い。ハンサムでもない銀行の副支店長役マット・クレイヴンがもてすぎなのはちょっとリアリティーに欠けるか。2000年のカンヌ映画祭「ある視点」部門グランプリ。キネ旬ベストテン16位。
2011年05月08日 [Sun]
■ 「浮雲」
デジタル・リマスター版。確かにフィルムに雨が降ることもなくきれいだった。成瀬巳喜男の代表作で1955年のキネ旬ベストテン1位。昨年12月に亡くなった高峰秀子の代表作でもある。見るのは30年ぶりぐらいか。戦争中に仏印(ベトナム)で知り合った妻のある男と女が戦後、日本でもずるずると関係を続ける。ほかにも女(岡田茉莉子=22歳のころで、かなりきれい)を作り、煮え切らない男の森雅之と腐れ縁とも言える関係を続ける女の話、とまとめてしまえるだろう。これ、20代にはまず分からない。だから30年前の僕にも分からなかった。
情けない男を演じる森雅之よりも高峰秀子のきれいさと演技に驚くほかない。これは高峰秀子だから傑作になった映画だ。テレビで見る高峰秀子は男っぽい、さっぱりした性格の人だったと思う。それが良い面でこの映画に生きている。必要以上に暗くならないのである。
浮雲のように流れていく男女は最後は雨が降り続く屋久島へ行くことになる。高峰秀子は肺を病み、床に伏せっているが、それでも男についていく。山に仕事に行く男に「私は山に行けないの?」と聞く姿が切ない。医者もいず、電気もない国境の島・屋久島は当時の感覚で言えば、地の果てだろう。映画で分からないのはなぜ、女が地の果てまで付いていくほど男にこだわるのか、ということである。
一つは若い頃、幸せだった仏印での恋に幻想を持っているから、ということがあるだろう。戦後の暗い日本とは違う、光り輝く青春時代を断ち切れないでいるわけだ。
Wikipediaには、「成瀬はその別れられない理由については『身体の相性が良かったから』といった類の発言をしている」とある。身もふたもない発言だが、そういう部分は昭和30年の映画では描けない。温泉に混浴する場面を描くぐらいだ(どうでもいいが、後年の国鉄のCMであった高峰三枝子と上原謙の温泉シーンはこの映画がヒントだったのではないか。担当者が、同じ高峰だから、と連想したのかも)。それにこれは男の感覚ではないかと思う。原作の林芙美子はどう書いているのだろう。
ここまで書いたところで、NHKの「邦画を彩った女優たち『高峰秀子と昭和の涙』」を見た。「二十四の瞳」と「浮雲」を中心に高峰秀子の女優としての道のりを描く。高峰秀子は20歳以上年上のプロデューサーと関係を続けた体験があったのだそうだ。なるほど。Wikipediaに「結婚を想定して交際していた会社の重役が後援会費を使い込み、しかも他の女性と交際していた事が発覚したことから疲れ果てて1950年11月新東宝を退社」とある。ついでに「『馬』で助監督を務めた黒澤明と撮影中に恋に落ちたが、母親の反対で強引に別れさせられた」こともあるそうだ。
最後の映画はテレビに仕事の場を移していた木下恵介が久しぶりに撮った「衝動殺人 息子よ」(1979年)。僕はこの映画、大学時代に見たが、高峰秀子の印象は薄かった。良かったのは主演の若山富三郎とゲスト出演的な藤田まことだった。
キネ旬4月下旬号には高峰秀子の追悼特集が掲載されていた。かなりボリュームのある特集で、50年間にわたる300本以上のフィルモグラフィーやインタビューも収録されている。インタビューの中で高峰秀子は「『浮雲』が良かったのは、森さんが上手だったからですよ。森さんがきちっとしてたから名作になったと思いますね」と語っている。
2011年05月11日 [Wed]
■ 「ザ・ウォーカー」
バカにして見始めたら、面白かった。文明崩壊後の世界を舞台にしたアクション。序盤、デンゼル・ワシントンが大きな山刀で数人の敵を一瞬にして倒す場面でおおお、と思う。ワシントンは西を目指して30年間歩いている。1冊の本を届けるためだ。そういう貴重な本ということであれば、容易に想像がつくが、映画はモノクロームに近い単色系の色あせた画面で説得力のあるストーリーを展開する。ゲイリー・オールドマンが支配する街でのアクションを見ると、基本は西部劇だなと思う。オールドマンもその本を求めていて、ワシントンとの争いが始まることになる。
ちょっと引っかかったのは東海岸から西海岸までいくら歩いてであっても30年もはかからないだろう、ということぐらいか。「マッドマックス2」のような世界を舞台にした佳作。監督はアルバート&アレン・ヒューズ兄弟。クレジットはThe Hughes brothersと出た。
見ていて思ったのは本は強いなということ。電気のない世界では電子ブックなんて役に立たない。本は電気がなくても読むことが出来るし、紙が傷まない限りは数百年でも保存できる。iPadの発売以降、電子出版が注目を集めているけれど、本当の本好きは本から離れることはないだろう。ま、出張などで持って行くと、何冊でも入れられる電子ブックは便利ではありますけどね。
■ 「グリーン・ゾーン」
イラクに大量破壊兵器(WMD)がなかったのは既定の事実なのだから、今さら、それがアメリカ政府上層部のでっち上げだったなんてことを力をこめて言っても、あまり意味はない。マイケル・ムーアの言うようにこれはフィクションとして作るべき題材ではなかったと思う。事実を積み上げた映画であれば、もっと評価は高かっただろう。
それよりもこの映画を「反米的」などと罵倒する評論家がいることに驚く。そういうバカがいる国でこういう映画を撮ったことには意義があるのかもしれない。監督が「ユナイテッド93」のポール・グリーングラスなのでサスペンスやアクションは水準を行っている。「この国をお前たちのいいようにはさせない」というイラク人の主張をもっと前面に出した方が良かっただろう。
■ 「踊る大捜査線 THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ!」
好きなシリーズだが、あまりの評判の悪さに昨年見逃した。冒頭、湾岸署の新庁舎への引っ越しの場面がいきなり間延びした展開でがっかり。黒澤明「野良犬」を引用したような拳銃を盗まれる事件(ただし、引っ越しのどさくさ紛れ)から湾岸署占拠、青島(織田裕二)が過去に逮捕した犯人たちの釈放要求(これがヤツら、というわけ)と続く。話のスケール感に乏しいのが難で、占拠されるのは湾岸署ではない方が緊迫感が増しただろう。警察内部の事件と思えてしまうのである。事件の首謀者である小泉今日子と織田裕二の対決にもっと深い理由付けも欲しい。
良かったのは映画版では初登場の内田有紀。もっと映画に出てはどうか。
■ 「大怪獣ガメラ」
1965年のガメラ第1作。WOWOWでは今、大映特撮スペクタクル映画の特集をやっている。ラインナップはこの映画のほか、「秦・始皇帝」「釈迦」「大魔神」の4本。ふむ、そんなものか。旧ガメラシリーズは何本か見ているが、これは初めてだった。平成ガメラ3部作とは比べるべくもないけれど、ガメラの鳴き声だけは平成ガメラも踏襲している。
ガメラはエネルギーを吸収するので、普通の兵器は役に立たない。そこで取られた方法は冷凍爆弾で10分間、ガメラを動けなくし、その間に爆弾をしかけて崖からガメラを落とし、裏返しにする方法。亀は自力で起き上がることはできないので、気長に待っていれば、やがてガメラは飢え死にする、というほとんど冗談みたいな方法である。ところが、ガメラは手足を引っ込め、炎を噴き出して空中に浮かぶ。それを見ていた科学者が驚いて言う。「亀が空を飛ぶとはのう…」。もちろん、”亀も空を飛ぶ”のである。
クライマックスに出てくるZ計画というガメラの撃退法にはちょっと感心。ウルトラマンのエピソードに似たものがあったが、こちらの方が先だ。SFに詳しい人よりもそうじゃない人の方が思いつきそうなアイデアである。
2011年05月14日 [Sat]
■ 「ラブファイト」
「八日目の蝉」の成島出監督作品のうち、見ていないのはデビュー作「油断大敵」と、この映画だった。BSジャパンの不完全放送とはいえ、面白く見た。2008年の作品だが、公開された劇場は全国で30館足らずだったらしい。当然、宮崎でも公開されていない。
原作はまきの・えり の「聖母少女」。いじめられっ子だった稔(林遣都)は幼いころから男勝りでけんかが強い亜紀(北乃きい)に守られてきた。高校生になった稔はふとしたことで知り合った大木(大沢たかお)のボクシングジムに通うことになる。亜紀も稔のジム通いを知り、ボクシングを始める。
ボクシングが出てきてもスポ根映画ではない。男と女の立場が逆転していた男女がお互いに惹かれ合っていることに気づく物語。「愛のむきだし」の満島ひかりのようにパンチラも気にせず、得意の回し蹴りを披露する北乃きいがはつらつとしていて良い。ボクシングのフォームにも無理がなく、トレーニングの縄跳びもうまい。北乃きい、運動神経が意外にあるなと思った。林遣都は「バッテリー」「ダイブ!!」「風が強く吹いている」とスポーツ選手の役が多いが、この映画でも違和感がなかった。体を鍛えているのだろう。
ネットの感想を読むと、大木とかつての恋人だった女優の順子(桜井幸子)が絡む部分の評判があまり良くないようだ。僕はここも良いと思った。将来有望だった時にスキャンダルに巻き込まれ、夢を断たれた男女の今を描き、主演の2人と対比した成島出の演出には無理がない。青春映画の佳作。DVDで完全版を見直したい。
■ 「大魔神」
放送画質のきれいさが意外だった。これはブルーレイが出ているのだろうと思ったら、やっぱり3部作を収録したブルーレイボックスが発売されていた。しかし、買うならこのボックスよりも平成ガメラのブルーレイボックスの方だろう。
監督が座頭市シリーズの安田公義なので、時代劇の作劇はきわめて真っ当。謀反を起こした家老が領主を殺し、領民たちを圧政で苦しめる。10年後、生き残った領主の子である兄妹が家老を倒そうとする。家臣たちが山にある武神像を壊そうとしたことで怒った大魔神が姿を現す。
大魔神の設定と特撮にあまり魅力を感じない。怪獣映画の主役はあくまで怪獣であり、怪獣のキャラクターが重要だと思う。大魔神には神としてのキャラクターしかないのが今ひとつ、面白みに欠ける理由なのだろう。家老を倒しても怒りが収まらない大魔神が罪のない領民も殺してしまうという趣向は良いのだから、これをもっと推し進めた方が良かった。付け加えておくと、この映画、作りがしっかりしているので冷笑とは無縁の作品になっている。
Wikipediaの大魔神の項目はとても詳しい。熱心な特撮映画ファンは多いのだ。
■ 「左ききの狙撃者 東京湾」
1962年の野村芳太郎監督作品。DVDは出ていないようなので、書いておくと、これすごい傑作です←オーバー(^^ゞ
WOWOWのストーリー要約を引用すると、「麻薬密売組織に潜入捜査を行っていた麻薬取締官が何者かに射殺され、死体の状況から犯人は左利きであることが判明。捜査一課のベテラン刑事・澄川は、まだ若手の刑事で妹の恋人でもある秋根とコンビを組んで、捜査に当たることになる。組織の一員と思しき武山をマークして尾行するさなか、澄川は、旧友の井上と10年ぶりに再会。井上は、かつて戦場で彼の命を危うく救ってくれた命の恩人で、左利きの優秀な狙撃兵でもあった」ということになる。井上が狙撃者であるわけだが、この映画が面白いのは井上の境遇が明らかになる後半だ。
戦争から故郷の尾道に帰った井上は女に3人失敗し、東京に出てくる。妻と2人で東京湾に続く川のほとりでボート屋を営んでいる。今の妻は少し知的障害があり、井上がいないと買い物もできない。しかし、純粋に一途に井上を愛している。尾道に行くと言って家を出た井上を待ち続ける笑顔が切ない。
脚本は松山善三と多賀祥介。上映時間は1時間24分。シャープで切れ味の鋭いドラマ。今のだらだらと2時間以上もある映画よりずっと知的な展開だ。刑事澄川役に西村晃、井上役に玉川伊佐男。
検索したら、芝山幹郎の紹介記事が実に的確だった。http://eiga.com/extra/shibayamatv/21/
2011年05月16日 [Mon]
■ 「大殺陣」
工藤栄一監督が「十三人の刺客」に続いて撮った集団抗争時代劇。1964年の作品。大老の酒井忠清(大友柳太朗)が甲府宰相・綱重を将軍の後継として擁立し、天下を我が物にしようと企む。軍学者・山鹿素行(安部徹)はそれを阻もうと一党を組織し、綱重の暗殺を計画する。暗殺計画に参加するのは神保平四郎(里見浩太朗)ら侍6人。無謀と言える計画で、壮絶な斬り合いの後、侍たちは想像通りの最後を迎える。その後に一工夫しているのがこの映画のミソで、「柳生一族の陰謀」あたりもこれを参考にしたのではないかと思う。手持ちカメラを使った抗争シーンの映像は「仁義なき戦い」を思わせる。
剣の達人など登場しないのが「十三人の刺客」とは違うところ。クライマックスの戦いは誰が戦っているのか分からないほどの集団の中で描かれる。侍たち一人一人の死に特に焦点を当てることもない。それが実録路線のヤクザ映画を思わせるのだ。戦いの後に残るのは空しさだけ。1960年代の映画には戦後の余韻と学園紛争の影響が感じられる。
■ 「十一人の侍」
これは1967年の作品。西村晃が「十三人の刺客」に続いて剣の達人を演じる。クライマックス、豪雨の中での死闘は「大殺陣」の殺陣より見応えがある。ここで夏八木勲と大友柳太郎の1対1の決闘を描くのは集団だけを描いた「大殺陣」の反省に立ったからか。ストーリーもシンプルな仇討ちで分かりやすいのだが、「忠臣蔵」と「十三人の刺客」を合わせたような作りになっていることが減点対象。そういう意味で革新的な部分はないのだけれど、これはプログラムピクチャーとして間違ったあり方ではないだろう。暴君の松平斉厚を演じる菅貫太郎を含めて役者たちも好演している。なお、「大殺陣」と「十一人の侍」はビデオはあるが、DVDは出ていない。
■ 「トゥルー・グリット」
チャールズ・ポーティスの原作を半分ぐらいまで読んだところで見た。冒頭のナレーションは原作の書き出しと同じ。それにかぶせてマッティ・ロスの父親の死体と逃亡する馬を見せるのがうまい省略の仕方だ。冬の西部の風景が美しく、コーエン兄弟は的確な画面設計と描写でストーリーを語っていく。画面に格調の高さがあり、正統派の西部劇といった感じに仕上がっている。今年のアカデミー賞では無冠に終わったが、せめて撮影賞は人工的な「インセプション」ではなく、この映画の方が良かったと思う。
飲んだくれの連邦保安官ルースター・コグバーンを演じるジェフ・ブリッジスはセリフ回しなど、ちょっと作りすぎかなと思えるが、まず好演と言って良いだろう。ちなみに原作でアイパッチをしているのは左目だが、映画では右目になっている。主演のヘイリー・スタインフェルドはこれが映画デビューとは思えない。芯の強い少女をしっかりと演じている。トゥルー・グリット(本当の勇気)はこの少女を指しているのだろう。
ところで、主人公の父親が買った馬は原作ではポニーとなっているし、映画のセリフでもポニーと言っているが、字幕はマスタング。画面に出てきたのも普通の馬に見えた。僕はマスタングについては野生馬という訳しか知らなかったが、調べたら小型の野生馬のことだった。小型の馬だからポニーと言っていたのか?
■ 「パリより愛をこめて」
ノンストップのアクション。ただし、この話、1時間を過ぎたあたりの展開を序盤に持って来た方が良かった。初めの方の展開はノンストップではあっても謎が物足りないのだ。情緒を描く暇もない。昨年、サイモン・カーニック「ノンストップ!」という小説が面白かったけれど、あれを見習って欲しい。ただ、アクションに関しては十分、水準は行っている。トラボルタは敵を殺しすぎだけど。監督は「96時間」のピエール・モレル。主演はジョナサン・リース=マイヤーズ。
2011年05月18日 [Wed]
■ 「9 ~9番目の奇妙な人形~」
3DCGアニメ。冒険活劇に徹しているのが素晴らしい。9と呼ばれる人形が目を覚ますと、そこは機械と人間の戦いが終わった未来。人間はすでに滅んでいた。9はふとしたことで邪悪なマシンを目覚めさせてしまう。復活したマシンは9の仲間の人形たちを次々に餌食にしていく。9はマシンとの戦いに挑む。
設定はファンタジーだが、中身はアクション。奇妙な人形たちは襲ってくる猫や翼手竜のような機械たちと戦う。戦いにスピード感があって良いが、設定の細部が今ひとつ分かりにくいのが惜しい。たとえば、人形たちはどうやって動いているのかとか、邪悪なマシンはなぜ人形たちの生気を吸うのかといった理由が説明されない。
シェーン・アッカーが自作短編アニメ(2005年アカデミー賞ノミネート)をティム・バートンの後押しを受けて長編化したもの。元の短編も見てみたいものだ。と思ったら、YouTubeにあった。なるほど、こちらは9と猫型マシンとの対決をメインに描いている。キャラクターの造形は長編版と同じ。9のキャラクターを他のキャラクターに分散して、物語の背景を拡充したのが長編版ということになる。短編は物語のワンシーンを描き、長編は全体像を描いているわけだ。IMDBの採点は短編が7.7、長編は7.0。
■ 「ウルフマン ディレクターズカット版」
劇場公開時に見ていないのでどこがディレクターズカットなのか分からないが、16分長いとのこと。1941年のロン・チェイニー・ジュニア主演「狼男」のリメイクでベニチオ・デル・トロが狼男を演じる。その父親にアンソニー・ホプキンス。監督は「ジュラシックパークIII」のジョー・ジョンストン。デル・トロの相手役に「ヴィクトリア女王 世紀の愛」のエミリー・ブラント。監督もキャストも傑作になりそうな布陣だが、批評的にも興行的にも失敗した。
僕はそんなに悪くないと思ったが、話が古いのが欠点か。1941年の映画の単なるリメイクでは限界がある。何か現代的なアレンジを入れたいところだった。狼男の特殊メイクを担当したのはリック・ベイカー。変身シーンのリアルさはジョー・ダンテ「ハウリング」(1981年)をはじめとしてもはや、やり尽くされた観があり、ベイカー自身も「狼男アメリカン」(1981年)で経験がある。変身後の姿がそれほど狼っぽくないのは古典のリメイクを意識したためかもしれない。
2011年05月27日 [Fri]
■ 「フローズン・ドリーム/煽情の殺人」
2009年のアメリカ映画。IMDBの評価は4.7。ジャンクと分かっていながら見たのはソーラ・バーチが出ていたから。「アメリカン・ビューティー」や「ゴースト・ワールド」で注目されたバーチは今、こんな映画に出ているのか。バーチの両親は「ディープ・スロート」にも出演した成人映画の俳優とのこと。それが関係しているわけではないだろうが、もう少し映画の選択をした方がいいと思う。
WOWOWの紹介記事には「アメリカで初めて裁判の模様がテレビ中継された実際の殺人事件を基に描く」とあるが、テレビ中継の部分は描かれない。1977年、売春婦のバーバラ・ホフマンが起こした事件で、男2人が毒殺された。ホフマンはこのうち1件の殺人で終身刑となった。殺人の様子も描かれないのはホフマンが今も取材を断っているからだろう。核心に触れず、その周りをぐるぐる回っているだけの印象がある。ストーリーテリングが下手なのが評価の低い理由か。監督はエリック・マンデルバウム。監督は10年ぶりで、デビュー作の「Roberta」もIMDBで4.9。10年たっても進歩はなかったらしい。DVDは出ていないようだ。まあ、当然か。原題はWinter of Frozen Dreams。
■ 「ファンタスティック・プラネット」
1973年のアニメ。フランス、チェコスロバキア合作。アニメというよりは動く絵本という感じだが、そこらのアニメよりはずっと面白い。アニメは絵とストーリーが重要であることを再認識させられる。フランスの作家ステファン・ウルの原作「オム族がいっぱい」をルネ・ラルー監督が映画化。ドラーグ族といわれる巨人族が支配する惑星で虫けらのように扱われる人間たちを描く。人間はドラーグによってペットとして飼われたり、駆除されたりしている。主人公のテールがドラーグから盗んだレシーバーによって、人間たちは徐々にドラーグの高度な科学技術を習得し、反撃する。
amazonのレビューで、子供の頃に見てトラウマになったと書いている人がいるが、当然だろう。人間にとっては絶望的な状況で怖さと気味の悪さがある。38年前の作品だが、まったく古びていない。強い個性を備え、時代を超えた普遍的な作品になっている。カンヌ映画祭審査員特別賞。
■ 「フェーズ6」
致死率100%のウィルスが蔓延した世界で4人の男女(兄弟とその恋人、級友)の殺伐としたサバイバルを描く。地味にならざるを得ないような低予算の映画で、ホラーではなく、人間のエゴを描いたドラマ。悪くはないが、アイデアが不足している。監督はスペインのレックス&デヴィッド・パストー兄弟。「スター・トレック」のクリス・パインが粗暴な兄の役で出ている。2009年のアメリカ映画。原題はCarriers。
2011年05月29日 [Sun]
■ 「無法松の一生」
所々で激しく胸を揺さぶられる。日本人の感性にぴったりの作品と言うほかない。陸軍大尉の未亡人(高峰秀子)とその息子を一途に支え続ける車引きの松五郎(三船敏郎)のあまりにも有名な話。松五郎は献身的に尽くすが、身分の違いをわきまえて、未亡人への慕情を表に出すことはない。それがついに押さえきれなくなったクライマックス、松五郎は「俺の心は汚い。奥さんにすまん」と絞り出すように言う。
稲垣浩監督は1943年に阪東妻三郎主演で映画化したが、軍の検閲によってカットされ、不完全なまま上映せざるを得なかった。15年後にリメイクしたこの作品はベネチア映画祭金獅子賞を受賞した。日本的な話だが、国境を越えて共感を呼ぶ映画なのだなと思う。キネ旬ベストテン7位。
■ 「釈迦」
気が進まなかったが、少し見てみたら、画面のきれいさに驚いた。これもブルーレイが出ているらしい。日本人がインド人を演じるというのは無茶で、無国籍映画と言いたくなる。もっとも、考えてみれば、アメリカの俳優がロシア人やエジプト人を演じることもあるわけで、西洋から見れば、同じアジアなのだから違和感はないかもしれない。
1961年の三隅研次監督作品。セットやエキストラの数を見ると、予算はかかってるなあと感じさせる。日本初の70ミリ映画で、そういう資料的価値だけはあるだろう。山本富士子や叶順子、驚いたことに月岡夢路や中村玉緒まで、僕らの世代ではおばさんとの認識しかない女優陣はきれいだった。
■ 「冷たい熱帯魚」
埼玉の愛犬家連続殺人事件をモチーフにした園子温監督作品。愛犬家連続殺人? ああ、犯人が逮捕前からテレビでよく流されていたあの事件か、と思ったが、内容は全然覚えていない。1995年に発覚した事件で阪神大震災とオウム真理教事件のために目立った報道がされなかったかららしい。中身はとんでもない事件である。
犯人は毒物で殺した後、遺体を切断し、骨と肉にさばいて骨は焼却、肉は数センチ四方に切り刻んだ上で川に捨てる。なぜ、肉と骨を切り離すかと言えば、肉は焼くと臭いが発生するからだそうだ。僕は刃物で刺されたり、切断されたりする場面を見るのは苦手なのだが、この映画の場合、切り刻むのは遺体だし、手慣れた作業として描かれるので不快感はあまりなかった。
熱帯魚店を経営する村田(でんでん)は主人公の社本(吹越満)の前で最初の殺人を犯した後、「これまでに58人やってる」と豪語する。映画で描かれる殺人(3人)は実際の事件(立件されたのは4人の殺人)をほぼなぞった展開だ。映画は事件に巻き込まれる社本の視点で描かれる。この社本も実際の事件で共犯者となった男がモデル。園子温の関心は気弱な男だった主人公の変化にあるようだが、ここはやはり犯人像に迫って欲しいところだ。事件の経過は分かるが、なぜこういう人物ができあがったのかの部分が詳細ではないのでもどかしい思いが残る。映画は共犯者が書いた著書を元にしているようだ。こういう映画には追加取材が不可欠なのだが、やっていないのだろう。だからジャーナリスティックな視点が皆無の映画になってしまっている。
でんでんは実際の犯人とよくにた風貌のためのキャスティングだろう。やや一本調子の演技なのが惜しい。その妻役黒沢あすかと主人公の妻役神楽坂恵が色っぽくて良い。こういう映画だと、エロスとタナトスを持ち出しての批評があるだろうが、当たり前すぎて面白くないな。