ショウタイム

Show Time

「ショウタイム」シャンハイ・ヌーン」のトム・デイ監督の第2作。というよりも、ロバート・デ・ニーロとエディ・マーフィーの初の共演作と言った方が通りがいいだろう。デ・ニーロは最近、コメディにも数多く出演しているが、その中では良い方の出来になる(それほどつまらない作品が多いのだ、デ・ニーロのコメディは)。かといってこの映画の出来が良いわけでは決してない。原因はまるでリアリティを欠いた脚本にあるのだが、デ・ニーロのうんざりしたような表情とアメリカでは復活を遂げたというエディ・マーフィーのかつてのような面白さの一端を見るだけでもいいか、と思う。ただ、この2人の相手をするレネ・ルッソや前半に自分自身の役でちょっとだけ出てくるウィリアム・シャトナーも含めて、どうも盛りをすぎたスターたちの共演作という印象は拭いきれない。いや、デ・ニーロはまだまだスターで名優ではあるのだが、いい加減、こういうB級作品ばかりに出ているのはまずいのではないか。「初の共演作」というのが少しも売りにならないのがつらいところだ。

ロス市警のベテラン刑事ミッチ・プレストン(ロバート・デ・ニーロ)が事件現場に来たテレビ局のカメラを撃ったことから、上司に強要されてテレビシリーズに出演する羽目になる。俳優志望で落ちこぼれ警官のトレイ・セラーズ(エディ・マーフィー)はプロデューサーのチェイス・レンジー(レネ・ルッソ)に売り込みをかけ、ミッチとコンビを組んでテレビ出演を果たす。ミッチはマスコミ嫌いで、映画やテレビの刑事ドラマのような演技をするのもまっぴらという設定。2人の刑事は対立しながら、強力なマシンガンを作る組織を追い詰めていく。

典型的なバディ・ムービーの展開でテレビ局が絡むところなど昨年のデ・ニーロ主演「15ミニッツ」を思わせる。デ・ニーロとマーフィーが頑張っているので「15ミニッツ」ほどつまらなくはならなかったが、アクション映画としてはあまり見るべき部分もない。いくらコメディだからといっても、話の設定にまったくリアリティがないのは困ったものだ。3人クレジットされている脚本家のうち、アルフレッド・ガフとマイルズ・ミラーは現在「スパイダーマン」の続編を書いているという。エディ・マーフィーは少しスリムになってマシンガンのようなしゃべりを復活させ、悪くない。しかし、かつての強烈なイメージを復活させるのはもはや無理だろう。常識人になってしまったのだなと思う。デ・ニーロは近年、キャリアのプラスにならないような作品ばかりに出ているような印象。アル・パチーノの作品を厳選して出演する姿勢を、見習った方がいいのではないかと思う。

【データ】2002年 アメリカ 1時間35分 配給:ワーナー・ブラザース映画
監督:トム・デイ 製作:ジョージ・サラレギー ジェイン・ローゼンタール 製作総指揮:ウィル・スミス ジェイムズ・ラシーター エリック・マクラウド ブルース・パーマン 脚本:キース・シャロン アルフレッド・ガフ&マイルズ・ミラー 撮影:トーマス・クロス 美術:ジェフ・マン 音楽:アラン・シルベストリ
出演:ロバート・デ・ニーロ エディ・マーフィー レネ・ルッソ フランキー・R・フェイズン ウィリアム・シャトナー ドレナ・デ・ニーロ

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ハリー・ポッターと秘密の部屋

Harry Potter and the Chamber of Secrets

「ハリー・ポッターと秘密の部屋」ホグワーツ魔法学校で2年目に入ったハリー・ポッター(ダニエル・ラドクリフ)とハーマイオニー(エマ・ワトソン)、ロン(ルパート・グリント)の3人が学校にある秘密の部屋を巡って冒険を繰り広げる。キャラクターの紹介は前作「ハリー・ポッターと賢者の石」で終わっているので、早く本筋を展開させればいいのに、秘密の部屋がメインになるのは中盤以降。それまでは前作の繰り返しみたいな描写が多い。中盤の巨大なクモやクライマックスの大蛇などSFXを所々に挟んでおり、退屈しないような作りにはなっているが、話自体はなんというか、簡単である。ヒネリは少なく、エモーションが高まるのでもなく、極めて平板な冒険ファンタジー。このあたり、原作が童話であることの限界のようだ。子供が主人公だから子供が喜ぶのは分かるが、この程度の話に大人が熱狂するのはいかがなものか。加えていくら何でも2時間41分は長すぎる。頭のいい脚本家と監督が手がけたら、1時間半で終わる話である。子供にとっても1時間半程度が集中力を持って映画を見る限界だろう。話をギュッと凝縮させて密度を濃くした方が良かった。大作になりようがない小さな話を無理に大作に仕立て上げた破綻がかいま見える。

よく分からないのはなぜハリーにもっと活躍させないのかということ。いや、もちろん、事件を解決するのはハリーの力なのだが、特に能力的に優れた部分は見当たらないのだ。ヒーローがヒーローたり得ていないところが、大いに不満。(前作での活躍があったとはいえ)なぜ周囲がハリーを英雄視するのかよく伝わってこない。これは端的に脚本のミスではないのか。目新しさが減った分、前作よりも面白みには欠ける。あまりオリジナリティーがあるとは思えない話と出来そのものはあまり良くないSFXだけで、どうしてこんなに支持されるのか。もう一つ分からないのはハーマイオニーをはじめ数人が○○にされる場面を直接的に描いていないこと。この映画のSFXなら難なくできると思うが、一様に終わった後の描写しかない。一つには敵の正体を見せたくなかったからなのだろうけれど、描写はどのようにでもできると思う。

同じ閉じた世界を舞台にした冒険ファンタジーでありながら、「千と千尋の神隠し」の足下にも及ばなかったな、というのが正直な感想である。監督は前作に続いてクリス・コロンバス。大きく失敗はしてはいないが、大きな成功も収めていないといういつも通りの演出だ。子供向けファンタジーの枠を超えて、大人の観賞にも耐えうる作品にするにはもっと演出の切れ味と話の工夫が必要だろう。闇の魔術の防衛術を教える教師ギルデロイ・ロックハート役のケネス・ブラナーは、映画の中でファンにもてはやされるほどのハンサムにはとても見えないが、そのユーモアは買う。これに対してマギー・スミスやアラン・リックマンは今回、ほとんど演技のしどころがない役回りである。ダンブルドア校長役のリチャード・ハリスは残念なことに先日亡くなった(3作目では誰が演じるのだろう)。遺作はこの映画ではなく、来年、もう1本公開予定作品があるようだ。「ジャガーノート」(1974年)のカッコ良さにしびれた者としては、おじいちゃん役はあまり見たくなかった。

【データ】2002年 アメリカ 2時間41分 配給:ワーナーブラザース映画
監督:クリス・コロンバス 製作総指揮:クリス・コロンバス マーク・ラドクリフ マイケル・バーナサン デヴィッド・バロン 製作:デヴィッド・ヘイマン 原作:J・K・ローリング 脚本:スティーブ・クローブス 撮影:ロジャー・プラット 音楽:ジョン・ウィリアムス 美術:スチュアート・クレイグ 衣装:リンディー・ヘミング
出演:ダニエル・ラドクリフ ルパート・グリント エマ・ワトソン ジョン・クリース ロビー・コルトレーン ウォーウィック・デイビス リチャード・グリフィス リチャード・ハリス アラン・リックマン フィオナ・ジョー マギー・スミス ジュリー・ウォルターズ トム・フェルトン ハリー・メリング デヴィッド・ブラッドリー ケネス・ブラナー 

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ジョンQ 最後の決断

John Q.

「ジョンQ 最後の決断」パンフレットこれが実話なら言うことはなかった。病院に立てこもったデンゼル・ワシントンが自殺しようとしたその瞬間に救いが訪れるクライマックスの設定は、いくら何でもご都合主義と言われるだろう。ニック・カサベテス監督は、というよりも脚本のジェームズ・キアーンズは冒頭からその伏線を張っているのだが、やはりどうしてもこの展開は都合が良すぎる。デンゼル・ワシントンは熱演しているし、取り上げたテーマ(医療保険)も真っ当なもので面白く見たのだが、これだけはどうしても気になった。

主人公のジョン・クインシー・アーチボルド(デンゼル・ワシントン)は不況のため勤めている工場で半日勤務にさせられ、年収は1万8200ドルしかない。家賃の支払いが滞り、妻(キンバリー・エリス)の車は没収される。ある日、野球の試合に出ていた息子マイク(ダニエル・E・スミス)が突然倒れる。診断の結果、息子は重い心臓病で助かるには移植手術をするしかなかった。入院した病院の院長(アン・ヘッシュ)は手術費用に25万ドル、名簿に名前を載せるだけで前金の7万ドルが必要と話す。医療費を支払えるはずの保険は半日勤務のため2万ドルしか出ない。ジョンは金策に走り回るが、十分に集められず、病院側はマイクを退院させようとする。思いあまったジョンは病院に立てこもり、息子を移植者名簿に載せるよう要求する。

ジョンが入っていた保険はHMO(健康維持組織)のもので、この制度に対する批判が映画のテーマである。この保険、低コストを追求して十分な治療が受けられず、過小医療の問題を生んでいるそうだ。おまけにジョンの勤めている会社はジョンに内緒で保険の内容を半日勤務者用の不十分なものにしてしまっており、治療費が2万ドルしか出ない事態になったわけである。国がかかわった医療保険制度がないアメリカの実態を批判して、この部分なかなか見応えがある。

ジョンが立てこもった病院内で人質とジョンとの間に交流が生まれたり、テレビ局がジョンの姿を放映したり、ジョンを支持する人々が病院の周囲に集まってくる場面などはシドニー・ルメット「狼たちの午後」を思わせる。深刻なだけでなく、ユーモアも挟んであり、ニック・カサベテスの演出はエンタテインメントの本質をよくわかっているなと思う。それだけに話の決着の付け方が惜しい。こういう展開だと、「現実はそんなにうまくいかないよ」と言われるのがオチなのである。現実にはありそうにもない設定の話をいかに観客に信じ込ませるかが、演出や脚本の手腕を問われるところ。この映画にはその力が少し足りなかった。病院の心臓外科医にジェームズ・ウッズ、シカゴ市警の警部補役にロバート・デュバル、本部長役でレイ・リオッタが出ており、それぞれにうまい演技を見せている。

【データ】2002年 アメリカ 1時間56分 配給:ギャガ=ヒューマックス
監督:ニック・カサヴェテス 製作:マーク・バーグ オレン・コーレス 製作総指揮:エイブラム・ブッチ・カプラン 脚本:ジェームズ・キアーンズ 撮影:ロヒール・ストッフェルス 美術:ステファニア・セラ 衣装デザイン:ベアトリックス・アルーナ・パストール
出演:デンゼル・ワシントン ロバート・デュヴァル ジェームズ・ウッズ アン・ヘッシュ レイ・リオッタ キンバリー・エリス エディ・グリフィン ダニエル・E・スミス

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マイノリティ・リポート

Minority Report

「マイノリティ・リポート」別にののしるほどの悪い出来ではないのだが、ディックの短編を単なるミステリにしてしまったスピルバーグというのはいったい何を考えているのか、という感じである。ミステリとして新機軸はないうえに、舞台が未来でなくても成立する話である。未来を描くのであれば、話の展開に少しぐらいSFマインドが欲しいところだった。かつてのスピルバーグなら、映像的にハタと膝を打つうまいシーンが一つぐらいあったものなのだが、この映画には感心した映像は皆無。「A.I.」に続いて気味の悪い描写(「時計じかけのオレンジ」からの引用か)もある。年を取れば、人間、凡庸になる。それを地でいくようなスピルバーグなのである。

2054年のワシントンD.C.が舞台。この時代、犯罪予防局が設置され、殺人は予知することで防げるようになっている。主任刑事のジョン・アンダートン(トム・クルーズ)は3人の予知能力者(プレコグ)の見た映像を分析して未来殺人の容疑者を逮捕している。ある日、プレコグがジョンの殺人場面を予知する。見も知らない男を殺している映像を見たジョンは犯罪予防局から逃げ、事件の真相を探り始める。裏には誰かの陰謀があるようだ。タイトルのマイノリティ・リポートとは3人の予知能力者が出す報告(予知)のうちの少数報告のこと。この予知システムは3人が報告した予知のうち、もっとも多かったもの(多数報告)が採用される。主人公は少数報告に真実があるはずだとデータを調べようとするのだ。原作は70ページ足らずのもので、ディックの短編として特に出来が良いわけではない。

映画はミステリでサスペンスだから当然のように、ヒッチコックの引用も目立つ(「海外特派員」とか)。しかし、犯人が分かった後の描写は極めて手際が悪い。ヒッチコックならば、映画の中盤で犯人を割ってしまい(謎解きなんぞに興味はないから)、そこからサスペンスをたっぷり見せてくれたが、この映画の場合、犯人が分かった後の描写というのは話にオトシマエを付けるためだけのものである。カーティス・ハンソンの某作品と同じような構成であるにもかかわらず(犯人が分かるところなどほとんど同じである)、演出的には随分劣っている。元々の脚本がたとえ、こうであったにしても絶好調のころのスピルバーグならもう少し何とかしただろう。いや、映画を撮る前に脚本を手直ししたはずだ。

スピルバーグは「ブレードランナー」あたりも意識したようで、未来社会は色彩が少ない暗い映像で綴られる。描写はどこかクラシックな雰囲気がある。ということはつまり、目新しい描写、イメージがないのだ。SFX自体は良くできていて、スパイダーと呼ばれる小型の探査ロボットなど面白い小道具だと思うけれど、ただそれだけのことである。なのに2時間25分もある。1時間50分程度の上映時間にしてもっとスピード感を付けるべきだったのではないか。巻き込まれ型のプロットというのは観客に考える暇を与えてはいけない。トム・クルーズは昨年の「バニラ・スカイ」と同じく、顔が醜くなる場面がある。上司役で名優マックス・フォン・シドー。犯罪予防局の調査に来る司法省の役人に「ジャスティス」のコリン・ファレル。ファレルはブラッド・ピットを思わせる風貌で、「ジャスティス」よりは良かった。

【データ】2002年 アメリカ 2時間25分 配給:20世紀フォックス
監督:スティーブン・スピルバーグ 製作:ジェラルド・R・モーレン ボニー・カーティス ウォルター・F・パークス ヤン・デ・ボン 製作総指揮:ゲイリー・ゴールドマン ロナルド・シャセット 原作:フィリップ・K・ディック 脚本:スコット・フランク ジョン・コーエン 撮影:ヤヌス・カミンスキー プロダクション・デザイン:アレックス・マクドウェル 衣装デザイン:デボラ・L・スコット 視覚効果スーパーバイザー:スコット・ファラール 音楽:ジョン・ウィリアムズ
出演:トム・クルーズ コリン・ファレル サマンサ・モートン マックス・フォン・シドー ロイス・スミス ピーター・ストーメア ティム・ブレイク・ネルソン スティーブ・ハリス キャサリン・モリス マイク・バインダー ダニエル・ロンドン スペンサー・トリート・クラーク ニール・マクドノー ジェシカ・キャプショー パトリック・キルパトリック ジェシカ・ハーパー アシュレー・クロウ アリー・グロス

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