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2007年03月31日 [Sat]

[MOVIE] 「リトル・ミス・サンシャイン」

「リトル・ミス・サンシャイン」パンフレット負け組家族がカリフォルニアへの旅を通して再生する物語。ゴールは「夢のカリフォルニア」かと思わせておいて、クライマックスの美少女コンテスト「リトル・ミス・サンシャイン」に出てくる女の子たちは醜悪だ。変に大人ぶっていて、子供らしさがない。気味が悪いほど。こうしたコンテストに対して監督のジョナサン・デイトンとヴァレリー・ファリスの夫婦監督は批判を込め、勝ち組、負け組の二分法のバカバカしさを批判する。一家は結局、この虚飾に満ちたコンテストをぶち壊すことになる。クラッチが壊れたバスを走らせるために家族が一緒にバスを押し、走りながらバスに飛び乗る。バラバラだった家族はこの共同作業を何度も繰り返すことで一つになるのだ。絆を取り戻した家族が笑いものになろうとしていた娘を助けるためにコンテストを壊すのはそうした共同作業の帰結にほかならない。この映画、図式が分かりやすすぎて物足りない部分も残るけれど、笑いを散りばめた中にあるその真っ当さがいい。アカデミー助演男優賞(アラン・アーキン)とオリジナル脚本賞を受賞した。

アリゾナ州に住む少女オリーブ(アビゲイル・ブレスリン)の家族の壊れ方は多分にデフォルメされている。祖父(アラン・アーキン)はヘロイン吸引で老人ホームを追い出され、叔父フランク(スティーブ・カレル)は同性愛者で恋人に去られて自殺未遂、父親リチャード(グレッグ・キニア)は勝ち組に入ることしか興味がなく、ハウツー本の出版をエージェントに働きかけている。兄ドウェーン(ポール・ダノ)はパイロットの夢がかなうまで誰とも話さないと決めている。まともなのはいつも夕食にチキンを出す母親シェリル(トニ・コレット)ぐらいだ。オリーブは「リトル・ミス・サンシャイン」の地区予選で繰り上がって全国大会出場が決まる。1位の子がダイエット薬を使用していたためだ。金のない一家はオンボロのミニバスでコンテストのある1000キロ以上離れたカリフォルニアを目指す。旅の途中でミニバスが壊れるなど、さまざまな問題が巻き起こるのはこうしたロードムービーの常套的な手法だ。

家族の壊れ方がマイク・リー「人生は、時々晴れ」ほど深刻に描かれないのはエンタテインメントに描写が振ってあるからで、アメリカ映画らしい作りである。冗談とも思える描写の中で「本当の負け犬は負けることを怖がって挑戦しない人間のことだ」という祖父のセリフが光ってくる。本の出版ができずに意気消沈する息子を励ます場面などアラン・アーキンは好演だけれど、早々にいなくなるので助演賞受賞に値するかには疑問もある。

これが脚本第1作のマイケル・アーントはアーノルド・シュワルツェネッガーの負け犬を否定する発言からこのストーリーを書き上げたという。勝ち負けで分類すれば、勝ち組はほんの一握り、世の中の多くは負け組なので、こうした姿勢は共感を得られやすい。ただ、脚本自体はそれほど際だって優れているわけではないと思う。それでもメジャー配給の作品にはこうした身近な家族の問題を取り上げた作品は少ないので、相対的に評価が上がったのだろう。作品賞にノミネートされたものの受賞を逸したのはそういう部分があるからかもしれない。


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