ロード・オブ・ザ・リング

The Lord of The Rings : The Fellowship of the Ring

「ロード・オブ・ザ・リング」パンフレット

J・R・R・トールキンの長編ファンタジーの名作をピーター・ジャクソンが映画化。2時間58分の長編だが、その長さが必要なぐらいの分量が詰まっている。いや、文庫で4巻分の物語からすると、これでも駆け足なのだが、脚本は要所を押さえている。中盤からは見せ場の連続で、怒濤のアクションが最後まで持続する。同時に主人公フロド(イライジャ・ウッド)と旅の仲間たちの友情と団結が描かれ、見事なくらいに正攻法の映画である。美しく色彩鮮やかなタッチで綴られるホビット庄の描写は原作のゆったりとしたペースを踏襲しているが(それでもかなり端折ってある)、その後はハイテンポでフロドらホビット族とエルフ族、ドワーフ族、人間の9人の旅の仲間の行程が描かれていく。ビジュアルな描写は申し分なく、「スリーピー・ホロウ」の首なし騎士を思わせる黒の乗手(ブラック・ライダー)の姿は原作を超えるイメージ。「ハリー・ポッターと賢者の石」にも登場した北欧の怪物トロルが出てくるが、ずっと凶暴である。これが象徴するように「ハリー・ポッター」が子ども向けのファンタジーであるなら、こちらは大人向け、男性向けの力強い話なのである。フロドとサム(ショーン・アスティン)がモルドールにたどり着くところで終わるラストを見て、一刻も早く続きを見たい気持ちになった。

SFオンラインの映画評によると、ジョン・ブアマン「エクスカリバー」とロン・ハワード「ウィロー」はともに「指輪物語」の映画化を目指して果たせず、その代わりに撮った映画なのだという。「ウィロー」の主人公が「指輪物語」のホビットのように小さな種族であったのはそういう事情があったわけだ。「エクスカリバー」の剣と魔法の物語もまた、「ロード・オブ・ザ・リング」の雰囲気とよく似ている。冒頭、暗くくすんだ映像で3000年前の人間と暗黒の怪物軍団との戦いが描かれる。暗黒の国モルドールの冥王サウロンは世界を支配するため強力な力を持つ指輪を作る。しかし、戦闘中に指を切り落とされて敗れ、指輪も持ち主を転々とする。という発端は「ハムナプトラ2 黄金のピラミッド」のアビヌス軍団と人間の戦いのようにスケールの大きなSFXである。指輪は人間より小さな種族ホビットのビルボ・バギンズ(イアン・ホルム)の手によって、中つ国のホビット庄(シャイア)に持ち帰られる。バギンズは111歳の誕生日に再び旅に出ることを決意。魔法使いのガンダルフ(イアン・マッケラン)に命じられ、指輪を養子のフロドに託す。ガンダルフはサウロンが再び勢力を盛り返し、指輪を手に入れようと画策していることを知る。指輪がサウロンの手に渡ったら、世界は暗黒。フロドは指輪を破壊するため、モルドールの火の山まで行くことになる。

ジャクソンの演出はスピーディーで、特にブラック・ライダーとの戦い→エルフの王女アルウェンの疾走→無数のオーク(ゴブリン)が攻めてくる洞窟→終盤の戦いへと至る描写はどれも完成度が高い。普通の映画のクライマックスが何個も入っている感じ。トロルのほかに大きな触手を持つ怪物や火の鞭を操るバルログなども登場するが、SFXだけが前面に出るのではなく、物語の補強としての使い方に好感を持つ。SFXを担当したのはジャクソンの故郷ニュージーランドのWETA社。ハリウッドと比べても遜色ない出来栄えだ。撮影の舞台となったニュージーランドの風景も魅力的である。

主演のイライジャ・ウッド(「パラサイト」)をはじめ出演者は若い俳優が多いが、善と悪の魔法使いを演じるイアン・マッケランとクリストファー・リーがさすがの貫禄を見せ、映画の格を上げている。この2人の役柄は「スター・ウォーズ」のオビ=ワン・ケノービとダースベイダーを思わせる。というより「スター・ウォーズ」の方がこの物語に影響を受けているのだろう。「指輪物語」の原作は「旅の仲間」(文庫で4巻)「二つの塔」(3巻)「王の帰還」(2巻)の3部作。「スター・ウォーズ」シリーズとは違って、毎年公開の予定なので、そんなに待たなくても良いのは大きな利点。スプラッターに笑いを散りばめた「ブレインデッド」のタッチを僕は嫌いではないが、あの映画の監督がこういう立派な映画を撮るとは思わなかった。1961年生まれのジャクソンは「指輪物語」の熱烈なファンという。原作を知り尽くしたファンでなければ作れない映画なのだなと思う。

【データ】2001年 アメリカ=ニュージーランド 2時間58分 配給:日本ヘラルド 松竹
監督:ピーター・ジャクソン 製作総指揮:マーク・オーデスキー ボブ・ワインスタイン ハーヴィー・ワインスタイン 原作:J・R・R・トールキン 脚本:フランク・ウォルシュ フィリッパ・ボウエン ピーター・ジャクソン 撮影:アンドリュー・レスニー 音楽:ハワード・ショア 美術:グラント・メイジャー 衣装:ナイラ・ディクソン リチャード・テイラー
出演(かっこ内は日本語吹き替え版):イライジャ・ウッド(浪川大輔) イアン・マッケラン(有川博) リヴ・タイラー(坪井木の実) ヴィゴ・モーテンセン(大塚芳忠) ショーン・アスティン(谷田真吾) ケイト・ブランシェット(塩田朋子) ジョン・リス・デイヴィス(内海賢二) ビリー・ボイド(飯泉征貴) ドミニク・モナハン(村治学) オーランド・ブルーム(平川大輔) クリストファー・リー(家弓家正) ヒューゴ・ウィービング(菅生隆之) ショーン・ビーン(小山力也) イアン・ホルム(山野史人) アンディ・サーキス  サラ・ベイカー

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エネミー・ライン

Behind Enemy Line

「エネミー・ライン」パンフレット ボスニアを舞台に繰り広げる戦争アクション。撃墜された米海軍偵察機のパイロットが敵のセルビア人勢力の支配地域(Behind Enemy Line)を必死に逃げ回る。それを上官(ジーン・ハックマン)が救出しようとする、という設定はまるで「スパイ・ゲーム」のよう。映画デビューでCM、MTV出身の31歳ジョン・ムーア監督は的確な絵づくりができ、特に地対空ミサイルによる撃墜場面の圧倒的なカット割りとSFXはMTVで培った手腕を発揮したものだろう(樋口真嗣が「206秒に176カット 脅威のモンタージュ」とパンフレットで分析している)。このほか、アクション場面はどれも見応えがある。単なるアクション映画としてみれば、(一部にデビュー作としての傷はあるが)よくできた映画である。ただ、ボスニアが舞台というのがどうも気になる。和平交渉の裏でセルビア人は民間人の虐殺を繰り返しているという設定が事実に基づくものかどうか知らないが、セルビア人を残虐な敵という風に単純化してとらえる「ランボー」シリーズ的な視点は安易である。きっとハリウッドはアフガンを舞台にした映画もそのうち撮るだろう。

アドリア海に停泊中の原子力空母で、NATO軍撤退間近のボスニア偵察飛行だけを繰り返すクリス・バーネット大尉(オーウェン・ウィルソン)は不満を募らせていた。退役を2週間後に控え、司令官レスリー・レイガート(ジーン・ハックマン)に海軍を辞めると告げる。クリスマス・パーティーの途中、偵察命令が下ったクリスは相棒のスタックハウス(ガブリエル・マクト)とともに偵察任務に出る。ところが秘かに部隊を集結していたセルビア人勢力が地対空ミサイルを発射。偵察機は撃墜されてしまう。スタックハウスは脱出の際に足に大けが。クリスが仲間に連絡を取ろうと現場を離れた際、セルビア人勢力がスタックハウスを処刑、クリスの存在にも気づき、追撃してくる。クリスは敵地の中を必死に逃げ回ることになる。レイガートは和平交渉を重視し、救出作戦に消極的な上層部と対立しながら救出作戦を展開するが、クリスが殺されたとの誤った情報がマスコミで流れ、作戦はストップしてしまう。

「プレデター」「プレデター2」「エグゼクティブ・デシジョン」のジェームズ・トーマス&ジョン・トーマスの原案をデヴィッド・ペローズ(ナチュラル・ボーンキラーズ」)とザック・ペン(「ラスト・アクション・ヒーロー」)が脚本化。冒険小説的ストーリーで、敵陣地でのクリスの危機また危機の描写には工夫を凝らしているが、決定的に違うのはクライマックスに騎兵隊よろしく援軍が駆けつけてくるところ。好みから言えば、ここは主人公が独力で敵を撃退して脱出する展開にしたかった。で、自分を見殺しにしようとした米海軍上層部に一撃を加えるとか、軍批判の視点まで入れてくれるとさらに良かった。しかしその展開にすると、主人公を演じるオーウェン・ウィルソン(「ホーンティング」「シャンハイ・ヌーン」)では役不足。どうも甘さが残る顔立ちなので有能な兵士には見えない。もう一人のパイロットを簡単に処刑し、執拗に主人公を追撃するセルビア人ウラジミール・マシュコフの方が顔に凄みがあるので、ウィルソンがマシュコフに勝てるとはとても思えないのである。

【データ】2001年 アメリカ 1時間46分 配給:20世紀フォックス
監督:ジョン・ムーア 製作:ジョン・デイビス 脚本:デヴィッド・ベローズ ザック・ペン ストーリー:ジェームズ・トーマス ジョン・トーマス 撮影:ブレンダ・ガルビン プロダクション・デザイン:ネイサン・クローリー 音楽:ドン・デイビス 衣装:ジョージ・L・リトル
出演:オーウェン・ウィルソン ジーン・ハックマン ガブリエル・マクト チャールズ・マリク・ホイットフィールド ホアキン・デ・アルメイダ デヴィッド・キース オレック・クルパ ウラジミール・マシュコフ マルコ・イゴンダ ジョフ・ピアソン

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アメリカン・スウィートハート

America's Sweethearts

「アメリカン・スウィートハート」パンフレット ビリー・クリスタル脚本・製作のシチュエーション・コメディ。美人でスターの姉とは対照的に地味なマネージャーの妹(ジュリア・ロバーツ)が、姉と別居中の夫(ジョン・キューザック)に恋をして、という話かと思ったら、新作映画のマスコミ試写をめぐる話がトップに来る。その企画を頼まれたのが一時は会社を解雇された宣伝マンのビリー・クリスタル。というわけで映画は2つの話を交差させつつというか、あまり噛み合いもせずに進行していく。素直にロマンティック・コメディに仕上げれば良かったのに、クリスタルが出しゃばりすぎで、本筋とはあまり関係ない笑いを入れてくるのが余計。犬が絡んだシーンなど映画の品を損なうだけである。製作を兼ねるなら、もう少し謙虚な姿勢が欲しいところだ。

共演映画が次々にヒットして実生活でも結婚し、アメリカの理想のカップル(America's Sweethearts)といわれるグウェン(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)とエディ(ジョン・キューザック)。しかし、グウェンの浮気を知ったエディは逆上して浮気の現場を襲い、2人は別居。エディはノイローゼ気味で入院している。共演しなくなってグウェンの人気にも陰りが見え始めた。そんな時、1年前に撮影した2人の共演映画が完成。伝説的な監督で変人のハル・ワイドマン(クリストファー・ウォーケン)はプロデューサーにも見せず、マスコミ試写で公開すると譲らない。本当に完成したのかどうかも怪しい。やり手宣伝マンのリー(ビリー・クリスタル)は砂漠の中のホテルで試写会を企画。グウェンとエディを試写会に連れ出し、話題作りで映画のヒットを狙う。というのが長い前ふり。ここからグウェンの妹でマネージャーのキキ(ジュリア・ロバーツ)の話が始まるのだが、余計なエピソードが多くて、どうも要領が良くない。

クリスタルの下ネタを入れた脚本はあまり上等とは言えず、ジョー・ロスの演出もタイトさを欠く。ほとんどテレビドラマのレベルなのだが、ゼタ=ジョーンズとロバーツが出ているので眺めている分には退屈はしないといったところ。実際には2歳年上のロバーツが妹役というのはちょっと無理がある。だいたい役の上で33歳(実際には今年35歳)になって、けなげで純粋な役というのはどうか。太っていた頃(メーキャップが見物である)は男に見向きもされず、痩せて美しくなったら恋が実るというシンデレラ的安易な発想が基本にあるのでは、これぐらいの出来にしかならないのは自明だろう。

ゼタ=ジョーンズは明らかにロバーツよりは美人だが、キツイ顔つきはやや意地の悪い役柄にぴったり。現実を反映したものか、と思えてくる。ウォーケンはすごいメーキャップでパンフのキャストを見るまで分からなかった。ジョン・キューザックは情けないシーンが用意されており、キャリアのプラスにはならない出来。ゼタ=ジョーンズやロバーツに愛されるほど魅力のある男にはとても見えないのも難点か。

【データ】2001年 アメリカ 1時間43分 配給:東宝東和
監督:ジョー・ロス 製作:ビリー・クリスタル スーザン・アーノルド ドナ・アーコフ・ロス 脚本:ビリー・クリスタル ピーター・トラン 撮影:フェドン・パパマイケル プロダクション・デザイン:ガレス・ストーバー 音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード 音楽監修:キャシー・ネルソン 衣装デザイン:エレン・ミロジニック ジェフリー・カーランド
出演:ジュリア・ロバーツ キャサリン・ゼタ=ジョーンズ ジョン・キューザック ビリー・クリスタル ハンク・アザリア スタンリー・テュッチ クリストファー・ウォーケン アラン・アーキン セス・グリーン ラリー・キング

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